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僕と彼女の猟奇的な日常  作者: nnnkkk
続 僕と彼女の猟奇的な日常

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第二十話 残った感触

茂は入口を出た。

外の空気が少し冷たい。


規制線の向こうで人のざわめきが揺れている。

スマートフォンがいくつも上がり、赤い回転灯がアスファルトに反射していた。


誰かが何かを叫び、警官が手を振って下がらせる。


もう誰も、茂を見ていない。


茂は歩きながら槍をケースに戻した。

金属が短く鳴り、ロックが閉まる。



右手でケースのハンドルを握った。

両手の指先に、まだ少しだけ残っている。


さっきの感覚。


力ではない。

熱でもない。


何かが、ほんの少しだけ内側へ流れ込んだような感触。


茂は左手を握る。開く。

変わった気はしない。


規制線の内側では、警官がまた声を張り上げている。


「下がってください! ここから先は立入禁止です!」


通行人がさらに一歩下がる。


サイレンが近づいてくる。


その時、白いユニックがゆっくりと規制線の内側へ入ってきた。

側面にK市害獣警報センターの文字。


車が止まり、二人が降りる。

ベストを着た男が後部ドアを開け機材を出す。


もう一人は入口の前で立ち止まり、店内を一度だけ覗く。


警官が回収班の男に近づき、短く言葉を交わす。

それから茂を指さした。


回収班の男が茂に近づく。

短い確認だけだった。


規制線の外では、誰もその作業を気にしていない。

それで終わりだった。


人のざわめき。

回転灯。

サイレン。

全部が混ざって、ただの街の音になる。



茂は規制線を離れ、しばらく歩いた。


バス停。

ベンチと時刻表。横に色あせた広告。


行先表示を見ていると、バスが止まり、ドアが開く。

茂は乗った。



市営スポーツセンター。


ドアが開き、数人が降りる。

茂もその流れに混じって降りた。


コンクリートの建物。

平日の昼間で、人は少ない。


ガラスの自動ドアを抜けると、受付のカウンターがある。


茂は小さな券売機に千円札を入れた。

利用券が出てくる。


それをカウンターに置く。

受付の女性が一度だけ顔を上げた。


「どうぞ」


茂はうなずく。


女性が券を箱に入れる。

それだけだった。


茂は奥へ歩き、更衣室のドアを押す。


中は静かだった。

ロッカーが並び、換気扇の音だけが回っている。


茂は空いているロッカーを開けた。


槍のケースを立てて入れる。

ジャケットを脱ぎ、折って押し込む。


ロッカーを閉めた。金属の音が小さく鳴った。


トレーニング室へ出る。

広いフロア。

ランニングマシンが数台。

奥にウェイト器具。


利用者は三人ほどしかいない。茂はまっすぐ壁際へ歩いた。


握力計。


茂は右手を差し入れ、グリップを持った。


軽く一度閉じ、それから力を入れた。


ピッ。


114.2kg


手を離し、数秒だけそれを見ていた。


次に左手を入れる。


ピッ。


112.2kg


手のひらを見て、茂は静かに息を吐いた。


前より少し増えている。だが測定器が違う。

誤差の可能性もある。いつも感じるあの感覚。


害獣を倒した時に入ってくる何か。

あれが原因かもしれない。


分からない。







夕方。


茂はアパートの階段を上がった。

二階の通路、いつものドアの前で鍵を回した。


部屋の中は明るい。リビングにいたユイが振り向いた。


体の線をそのまま拾うルームウェア。

薄い長袖シャツに、短いショートパンツ。

柔らかい布が腰のラインに沿っている。


茂は一瞬だけ止まる。


喉が動く。唾を飲み込む。視線が外れない。

下半身に、熱が一気に集まる。


ユイがその視線に気付き、小さく笑う。


「昨日、もう何も出ないって言ってたじゃん」


茂は答えず、距離を詰めた。


ユイが目を見開く。


「……うそでしょ」


ユイの肩に手が触れ、そのまま押す。

彼女がソファーに倒れ込み座面が沈む。


「ほんとさ……」


目を細める。


「野獣じゃん」


ユイがソファーの背もたれに背中を預ける。


上体は少し起きたまま。脚は茂の腰の横に回る。

茂はその前に膝をつき、体を重ねる。二人の距離はほとんどない。


茂の腰が止まり、体から力が抜けた。


ユイの眉が少し上がり、間が空く。

それから茂を見る目が細くなる。


「……はやくない?」


小さく首を傾ける。


「昨日あれだけしたのに」


茂は黙って視線を外した。自信を失ったように。

ユイが笑いながら、茂の顔を覗き込む。


「私見て興奮しすぎじゃない?」


どこか嬉しそうに言い、ユイの唇の端が上がる。

少し楽しそうに言った。


「今日のラストの人も興奮してたけど」


目を見る。


「二分は耐えてたよ」


ユイの一言で、茂の体に力が戻る。

さっきまで抜けていた気配が、もう一度張り直す。


ユイはその変化にすぐ気付いた。

体の中で、それがじわりと大きくなっていく。


ユイの口元が意地悪く緩み、茂の耳元に顔を寄せ、

小さく囁いた。


「……リベンジだね」







茂がぼそりと言う。


「もう何も出ない」


ユイが肩を揺らす。


「だから興奮しすぎなんだって」


楽しそうに続ける。


「今日の本数は超えたから、茂の勝ちだね」


茂は微妙な顔をした。

ユイが体を起こす。


「ご飯たべよ」


振り返って言う。


「今日はお鍋だぞ」


茂はしばらく天井を見ていた。


「……肉多めで」

本日もお読みいただきありがとうございます。


少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

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明日も21時に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします。

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