表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と彼女の猟奇的な日常  作者: nnnkkk
続 僕と彼女の猟奇的な日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/78

第十七話 増える感覚

駅前雑居ビル二階。客の滞留はない。


ドアが開き、用件だけが交わされ、すぐ閉じる。


棚の上には防刃ベストとゴーグル。

日用品の顔をした現場装備。


茂は持ち込まれた電動ドリルの動作を確認していた。


スイッチを短く引く。

短い振動と音のあと、静かに止まった。


右手。

何気なく、掌を見る。


昨日、握力計を握ったときの感触が蘇る。

金属の冷たさ。


呼吸は乱れていなかった。


トレーナーの視線。

一瞬だけ、測る目になった。

その直後、視線の数が増えた気がした。


ユイの声。


「普通じゃない」


茂は掌を閉じ力を入れる。

皮膚の内側で、張りがある。けど違和感はない。


——数値が先にある。

身体の実感が追いついていないだけか。


それとも――


駆除のとき。


刺したとき?に、なにかが内側に入る。

そういう感覚だけは、確かにある。


あれと――数字は、無関係か?


茂はもう一度、掌を見る。

筋が浮いている。


増えた自覚はない。だが、減った感覚もない——説明できるか。


客の足音が近づく。

思考は、まだ途中だった。






カウンター越しに店長へ告げる。


「上がります」


短い返事。それで終わる。


茂はバックヤードのロッカーを開け、黒いケースの取っ手を握る。

重さは変わらない。


掌を見る。昨日の数字が浮かぶ。


外へ出ると、昼の光が強い。


駅前はいつも通りだ。何も起きていない顔で、人が流れている。

歩き出す。まだ、結論は出していない。

ただ、確かめる余地はある。



茂はスマホを取り出し、通知を確認する。

新しいものはない。


画面を閉じ、どうするか考える——今は動かない。


腹が減っていることに気づいて、駅前の店に入った。


オリジナルチキンのとくとく8ピースパックとコーラを注文し、受け取ってから階段を上がり、空いたテーブルを探して腰を下ろした。


目の前には、白と赤のバケツ。蓋を外すと、油の匂いが立つ。


チキンが重なっている。

茂は部位も形も確かめることなく、無造作に手を伸ばす。


最初の一本を掴み、口に入れた、皮の裂ける音とともに肉が外れる。

噛み、飲み込む。


味はある。だが意識は向かない。


二本目。


骨を置き、ポテトを掴むと塩が指に残った。

コーラを飲む。炭酸が喉を通る。


またチキン。手が止まらない。

速いわけではない。ただ、間がない。考えが入らない。


油が口に広がる前に、次を持つ。

骨が増える。

紙が湿る。


ポテトが空になり、コーラの氷が音を立てる。


茂は最後の一片を口に入れた。

バケツの底が見え、満腹かどうかを考える。


判断が遅れる。


空腹ではない。だが、重くもない。

紙ナプキンで指を拭く。


胃は満ちているはずなのに、何かが足りなかった。


コーラを飲みながらスマホを見ていると、それが震えた。


警報。


画面が暗転する前に、もう一度震えた。

別案件。


一件目――中型。少し遠い。

二件目――小型。駅から二ブロック。


選択は一瞬だった。


近い方。


ケースを掴む。

店を出て階段を下り、外へ出ると同時に走り出す。


昼過ぎの駅前。人は多い。


一直線には進めない。

肩をずらし歩幅を変えながら、看板を避けて抜ける。


減速はしない。詰まれば角へ抜ける。


ケースは揺れない。呼吸も乱れない。


横断歩道を斜めに切る。

二つ目の角。


小型。

二ブロック。一分ちょい。


現場が見えた――


角を抜けた、規制線はまだ張られていない。

登録はいない。


一般市民が数人、距離を取って立っている。

手には新型銃。

構えていない。照準も合わせていない。


許可待ちか?


彼らの視線の先。推定小型〜小さめの中型。


形状は犬。

黒く、極端に短い体毛が光を吸い込んでいる。


肩が高く、胴は締まり、巨大なドーベルマンの輪郭に近い。

低く唸る。


足元に大柄な男が仰向けで倒れている。


首に噛みつかれ引き剥がそうとした跡がある。

腕が中途半端な位置で止まっている。


動いているかは分からない。

量は判断できないが血は流れている。


黒い影が、肉を噛み直す音だけが小さく響く。


茂はバラクラバを被ると、ケースを地面に置いた。


留め具を外し蓋を開く。

槍を引き抜き、接合部を回転させてロックする。


スプレーを取り出し、ベルトに差す。

動作は止まらない。背後で声が上がる。


「撃てないって言ってるだろ!」

「許可がまだだ!」

「待てって言われてる!」



新型銃の銃口は下がったまま。安全装置は解除されていない。


誰も前へ出ない。犬型は顔を上げない。


茂は槍を持ち直し距離を測る。呼吸は変わらない。


茂はスマートグラスを掛ける。録画開始。


発砲許可は出ない。

この状況では出るわけがない。


声掛けは不要。判断は一瞬。


槍を構え踏み込む。

二十メートル。


一歩目で半分が消える。

二歩目で視界が詰まる。


地面が縮む。


二秒もいらない。


犬型が気づき顔を上げた。

その瞬間、雷光のフラッシュが弾け、刃が首へ入る。


深い。トリガ。


刃先近くの8つのポートから、V-Gelが瞬時に送り込まれる。


内部で圧が跳ね、首の深部で膨張が走った。


筋膜が内側から押し広げられる。

一瞬、血流が乱れ、犬型の背筋が硬直した。


歯が空を噛む。前脚が踏ん張り地面を掻く。


だが、力が伝わらない。

頸部が崩れ、体重が前へ落ち、巨体が横倒しになる。


痙攣は一度だけ。そして静止。周囲の声が遅れて戻る。


茂は槍を抜く。動かない。


そして、刺した瞬間とは別の感覚。


遅れて体の奥に、なにかが入る。

わずかにだが確かに軽くなるのではない。増える。


茂はそれを追う。意識を向ける。


逃さない。


本日もお読みいただきありがとうございます。


少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

ページ下部の【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆】をタップしての評価をお願いいたします!


明日も21時に更新予定です。引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ