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僕と彼女の猟奇的な日常  作者: nnnkkk
続 僕と彼女の猟奇的な日常

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第十三話 解放

ドアが開き男が入る。さっきと同じ顔。

別室の空気は変わらない。


「確認は終わりました」


端末は持っていない。


「刑事判断には上げません」


事務的に言う。


「ただし、関係者の聴取と医療報告の正式反映が終わるまで、今日はお帰しできません」


言い訳ではない。説明でもない。


「明日昼までには整理します」


視線は逸らさない。


「装備は退庁時に返却します」


一瞬だけ間。


「質問はありますか」


茂は数秒、男を見たまま。口角だけがわずかに上がる。


「……整理」


笑っているが、目は動かない。


「現場で確認取ってますよね」


声は静かだ。

否定は来ない。茂は視線を外す。


「今なら、何とでも言えますね」


冷たく言う。


男が何か言いかけたとき、ノックなしでドアが開いた。

田村。制服のまま。


「ここまででいい」


聴取官の手が止まる。

田村は茂を見る。


「現場指揮は私です」


「使用判断も私が出しました」


室内の視線が田村に集まる。


「彼は指示で動いています」


声は変わらない。


「止められなければ、あそこで終わっていた」


「判断は誤りではありません」


間を置かない。そのまま視線を上げる。


「……それでも」


声がわずかに低くなる。


「あなたがここに座っているのは、私の判断の結果です」


 逸らさない。


「申し訳ありません」


田村は深く頭を下げた。

制服の肩章が視界から消えるほどに。


室内は静まり返る。


数秒。


茂は椅子に座ったまま言った。


「分かってます」


感情は乗らない。それ以上は続けない。

田村はゆっくりと頭を上げる。聴取官が書類に手を戻す。


「本日の確認は以上です」


事務的な声。


「医療報告の正式反映まで、別室でお待ちいただきます」


「任意です。強制ではありません」


説明は淡々と続く。


「退庁は明日昼を予定しています」


田村は何も言わない。


茂は立ち上がる。椅子の脚が床を擦る。

ドアが開く。廊下は静かだ。


制服の警官が一人、先に立つ。


「こちらへ」


短い案内。茂は歩き出す。

背後でドアが閉まる。内側の音が遮断される。






翌日の昼。


医療報告の正式反映が終わり、書類の最終確認が回った。

事務室の窓から入る光は、昨日より白い。


「確認完了しました」


事務的な声。


机の上に、透明なトレイが置かれる。

黒いケース。スポーツグラス。財布。スマートフォン。

順番に並べられている。


「外観確認のみ行っています」


余計な言葉はない。


茂はグラスを取り、ポケットに収める。

スマートフォンを手に取り、電源を確認する。


ケースを最後に持ち上げた。


重さは変わらない。

だが、手に残る感触が一晩分だけ冷えている。


「確認は以上です」

「お帰りいただいて結構です」


茂は頷かない。

ただ、それの重心を確かめるように握り直す。


「ご協力ありがとうございました」


扉が開く。

廊下は昼の光で明るい。昨夜の空気は残っていない。


制服の警官が軽く会釈する。茂はその横を通り過ぎた。


エレベーターの金属扉に、自分の姿が映る。

表情は変わらない。


一階、自動ドアが開き外気が流れ込む。

県警の建物を背に、茂は歩きだした。




建物を離れてから足を止め、ポケットからスマートフォンを出す。

画面は静かだ。ユイの名前を開く。


『終わった。出た』


送信。既読は付かない。

仕事中だと分かっている。それ以上は書かない。



再び歩き出して十数歩。ポケットの中で震えた。

数秒遅れて取り出す。


差出人。

K市環境回収サービス株式会社。


件名【回収精算】査定結果通知


開く。



【K市特定外来害獣管理システム:自動配信メール】

件名:【査定確定】駆除事後承認および精算金額の通知(案件:11-KSC-1242)


本メールは、K市委託アジャスターによる現場査定および検体回収、ならびに照合データ統合処理に基づき自動送信されています。

本通知は暫定成立段階の算定結果であり、異議申立期間経過後に最終確定処理へ移行します。


■ 対象検体情報

案件番号:11-KSC-1242

成立区分:単独処理


検体①:特中型(約220kg級)

検体②:特小型(約70kg級)


最終ステータス:暫定成立《Provisional Yes》/回収受領済

成立根拠:現場照合班現認記録・回収工程ログ


報奨金算定グロス


【検体①:特中型】

基本報奨金:¥180,000

地域危険度加重(市街地):¥720,000


【検体②:特小型】

基本報奨金:¥80,000

地域危険度加重(市街地):¥180,000


――――――――――

市街地補正 合計:¥900,000


報奨金総額グロス:¥1,160,000


■ 貢献度評価《アジャスト判定》


判定スコア:100%

評価区分:単独処理認定

減算要素:なし

第三者寄与:確認されず


適用総額ネット:¥1,160,000


※本割合は査定担当者の承認により確定されています。


諸費用差引デダクション

回収・運搬・衛生処理・行政連携手数料:▲¥113,200

(特大型ユニック作業/衛生処理/破棄証明発行/照合データ連携費を含む)


■ 精算対象額 ¥1,046,800


振込予定


通常精算《週次バッチ》

毎週水曜 23:59 締め

翌週金曜に一括振込(金融機関営業日)


 [早期振込サービス]

※本サービスは、査定確定(暫定成立額または最終額確定)から24時間経過後に申請可能

※申請後、条件を満たす場合は即時(当日)振込

※市街地補正の凍結・混戦等がある案件は、条件により可否/手数料率が変動します


※振込先:「精算ID(個人照合番号)」照合済み口座


K市環境回収サービス株式会社(査定管理部)

K市特定外来害獣対策局・公認アジャスターネットワーク



差引後、百五万―――


目は動かない。呼吸も変わらない。


ただ口角が、ゆっくりと上がる。

音はなく歯は見せない。だが、頬の筋肉がわずかに引きつる。


笑っているが綺麗な笑いではない。

満足でも、安堵でもない。


獲物を数えるような、計算の終わった顔。


画面に映る茂の目は、冷たいまま。

口角だけが、ゆっくりと上がる。


それは笑いというより、

計算が終わった顔だった。

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