【番外編】前の席の女の子とデート[前]
今日は前の席の女の子、夜山心琴とデートだ。
俺から勢いで誘った昨日の午前11時。普段は奥手な俺にしては良く頑張った。
待ち合わせ時刻は午前10時。楽しみと緊張がいっぱいで30分前に着いてしまった。
気が弱いところを隠すためにつけた指輪とピアス。少し髪も染めた。でもそこが怖いらしく、色々な人に避けられてきてしまった。そんな中で笑いかけてくれたのが夜山心琴。みんなと変わらないテンションで天使のような笑顔を俺にもくれる。そんなあの子が大好きだ。
俺は隅にあるベンチで本を読んで待つことを決めた。
10分前になった。本を閉じてスマホを開く。みこちゃんから連絡が来ていた。もう着くそうだ。今日見る予定の映画について少し調べておこう。
そういえば、みことちゃんはなぜ俺の誘いをあんなにあっさり受け入れてくれたのだろうか。普通ただの友達の男女の2人きりで出かけることなんてあまりないだろうな。
「おまたせ!待った?」
みことちゃんの花が咲く瞬間のような声が俺の元に届いた。
「ううん。全然待ってないよ。今来たところ。」
嘘だ。30分前に着いてしまった。ちなみに今は約束の時間5分前。みことちゃんにとっては予定時刻に間に合ったかよりも相手をどれだけ待たせたかが大切なのかもしれない。
「そう。よかった!」
休みの日もみことちゃんの天使みたいな笑顔が見れるだなんて嬉しいな。
「映画、行こっか。」
素が出ないようにかっこよくエスコートをする。それが今日の目標だ。
「うん!」
2人でちょこちょこ話をしながら映画館へ向かう。映画は俺が提案したものだ。デートといえば映画という安直な考えからである。
「誘い、受けてくれてありがとう。」
少し途切れ途切れになりながらも話しかける。本当に伝えたいことを伝える時は少し緊張してしまう。この緊張がこの短い距離の向こうに届かないといいな。
「全然!むしろ誘ってくれてありがとう。私もモールに近いうち行きたいなーって思ってて。映画もこの前読んだ本だから見たかったやつだし!」
みことちゃんも本を読むんだ。今日見る映画は恋愛ものだ。ラブコメとか好きなのかな。
「そう言ってもらえて嬉しいよ。」
みことちゃんなりの優しさやお世辞かもしれないけれど今は素直にその言葉を受け取っておく。
「映画のチケット、買いに行こっか。」
少し落ち着いた声を出すことを心がけながら、俺はそう言った。
さっきの言葉が全て信じられるわけではなかった。だって後ろから見ていると、藤田夕弦と夜山心琴はとってもお似合いなんだもん。




