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猫として、生きていくにゃ

シロは無事、5匹の仔猫を産み落とした。


うち1匹は貴実華の家で引き取るが、授乳中という事と、雌を希望しているがまだ性別が判明していないという理由で暫くは寅之介の部屋で一緒に生活する。


寅之介はというと、交尾以来発情は治まったものの、ずっと部屋から出ていない。


『寅ちゃんがいないとただの猫カフェだね。』


寅之介の存在があってこその化けねこカフェであり、寅之介目当ての客も多い。


そんな中、寅之介が引きこもって店に出てこないのは大きな損失である。


寅之介の部屋ではシロが仔猫たちに授乳をしている横で、寅之介は自分専用のクッションの上で丸まっていた。


「お母さん、子どもたちおっぱいたくさん飲む様になってきたよ。」


「……良かったね。」


シロが話し掛けても、うわの空である。



交尾から2週間が経ち、寅之介に妊娠の兆候が現れてきた。


『寅さん、病院に行くわよ。』


里沙はすっかり引きこもりになってしまった寅之介を無理やり車に乗せ、病院に連れていく。


『妊娠していますね。』


調べるまでもないが、寅之介のお腹には赤ちゃんが宿っていた。


『もし子どもを作りたくないのなら、中絶も出来ますよ。薬で堕ろす事も出来ますし、手術も可能です。』


望んでもいないのに猫が妊娠した場合、出産直前まで中絶は出来る。


『寅さん。……自分の事だから、自分で決めて良いんだからね。』


普通なら飼い主の事情などで産むか堕ろすかが決まるが、寅之介の場合は自分で決断をしなければならない。


『……産むにゃ。』


寅之介は少しの間考えた末、産む事を決めた。


『寅さん、本当に良いの?子どもが産まれたら元に戻れなくなるんでしょ?』


『トラの先祖の話で昔そうにゃった人はいたみたいにゃけど、本当はよく分からないのにゃ。中絶しても元に戻れないきゃもしれにゃいし、産んでももしかしたら戻れるかもしれないにゃ。それに、縁があって出来た子どもたちを殺す方が辛いのにゃ。』


『寅さん……。自分より産まれてもない子どもの事を優先するなんて、寅さんらしいわ。先生、宜しくお願いします。』


里沙は寅之介の決断を支持した。


『分かりました。しかし、寅之介さんの栄養状態が良くないですね。』


本来なら妊娠をすると食欲が増すところだが、寅之介はほとんど食事をしていない。


『これでは母子共に生きられません。今日からはちゃんと食事を摂ってください。栄養剤を出しますからそれも一緒に飲んでくださいね。』


栄養失調で倒れたら元も子もないのだ。


『ただいまにゃ。』


『お帰りなさい。どうだった?』


一人で店の留守番をしていた深雪が出迎えた。


『……妊娠しているにゃ。……ごめんにゃ。』


『だから良いって言ってるでしょ?それより、寅ちゃんが元気がないのが一番辛いの。お店だって暇で仕方ないんだから。』


寅之介が休んでから、客が遠退いてしまったのだ。


『分かったにゃ。明日からちゃんと仕事するにゃ。』


寅之介は2階の部屋に戻った。


「お帰りなさい。」


シロも寅之介の事を心配して待ちわびていたが、元気を取り戻した様に見えてほっとする。


「ただいま。明日から仕事に出るからね。」


「赤ちゃんは?中絶しちゃったの?」


シロは新たに自分の姉弟が産まれる事を望んでいたが、それより寅之介の元気がないのでずっと心配している。


「産む事に決めたよ。シロの妹と弟。」


「嬉しい!この子たちも喜ぶわ。」


まだ小さい仔猫たちは箱の中でちょろちょろ動き回っている。


「可愛いね。」


仔猫たちを見た寅之介は、子どもを産んで育てるのは自分の使命だと思い、前向きに生きていこうと決断をした。



その夜、久しぶりのトラの間はいつもと勝手が違う。


『猫のまんまにゃ!トラ、どうしたにゃ?』


普段ならこの世界では寅之介とトラはそれぞれ自分の元の姿に分かれて会話をしていた。


が、今日は分かれていない。


「寅之介さんの身体から出る事が出来なくなってしまいました。」


自分の身体の中からトラの心の声が響いている。


『やっぱり、妊娠したのが原因きゃ?』


「そうだと思います。妊娠した事で妖力が足りなくなったのです。」


『妖力?』


トラからは初めて聞いた言葉だ。


『以前、私は猫又の末裔とお話ししましたが、私のご先祖様は、長生きをして次第に妖力を持つ猫となったのです。』


元は普通の猫だったが、突然妖怪に変化したのではなく、歳を取るうちに妖力を得て猫又になったという。


「猫又の子孫は代々その妖力を受け継いで来ましたが、自らも生き永らえる事で、その妖力は増幅していくのです。ただ、私はご先祖様ほど妖力は持っておりません。」


『早く死んじゃったからにゃの?』


普通の猫は20年も生きればかなりの長寿と言われるが、猫又の末裔であるトラは事故がなければそれ以上生きて、妖力が満ち溢れるくらいになったかもしれない。


「そうです。しかし、寅之介さんと同化する事で、妖力を蓄えてきたのです。」


『寅と同化してって、寅にも妖力があるのきゃ?』


「本来人間には妖力は存在しないのですが、同化する事で、妖力を生み出す事が出来、さらに同化を続ける事でお互いの妖力は増幅していきます。」


トラの話だと、寅之介自身も妖力を持っているらしい。


「しかし、もともと人間の男性だった寅之介さんは、妖力で雌猫の身体になったので、妊娠や出産により大量に妖力を消費します。また、避妊手術は妖力で作り出した子宮を取ってしまうので、やはり妖力が奪われてしまうのです。今回の妊娠で、もう元に戻る力が失くなってしまいました。」


『それにゃら、時間が経てばまた妖力が増えて戻れるかもしれにゃいにゃ。』


寅之介の考えは同化し続けていけば、妖力が復活するというものだ。


「一旦ゼロになったものを元に戻すのは不可能です。」


『やっぱり無理なのきゃ……。』


寅之介は深雪に申し訳ない気持ちで、肩を落とした。


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