出産するにゃ
『寅ちゃんだ~。久しぶり!』
寅之介は2週間振りに職場復帰し、貴実華や未久理の歓迎を受けた。
『ごめんにゃ。出産まで頑張るにゃ。』
『え~?寅ちゃん、赤ちゃん産むの?』
『そうにゃ。お腹の中に3匹いるにゃ。』
篠原医師の診察で、寅之介は3匹の子を宿している事が分かっている。
『おめでとう。楽しみだね。』
『ありがとうにゃ。寅が休みになったら、代わりにシロが店に入るから宜しくなのにゃ。』
シロも出産から2ヶ月となり、まだ授乳中ではあるが、寅之介の出産前に避妊手術をする予定で、寅之介が出産したらシロの子どもたちにも寅之介の母乳を与える計画である。
『キミちゃんはもう貰う子は決めたの?』
授乳が終わった頃を見計らって貴実華の家に1匹譲渡する事になっているが、どの猫になるか未久理も興味津々だ。
『うん。シロそっくりの雌の子。名前は大福。』
『えー?女の子なのに大福?かわいそうだよ。』
『だってさ、丸まっている時大福みたいなんだもん。可愛いじゃん。』
『寅ちゃんの子はどんな感じなのかな?』
暫く鬱状態だった寅之介はシロの子どもを満足に見る事が出来なかったが、ようやく最近、見る余裕が出てきている。
アパートの部屋を出て、1階のカフェに戻る階段で駐車場の陰に雄トラが隠れていた。
保健所の職員に捕獲され、去勢された後に元の場所に放されたのだ。
その証拠に、耳がカットされている。
『ねぇ寅ちゃん。あの猫でしょ?寅ちゃんのお腹の子のお父さんって。』
『そうにゃ。タロの父親でもあるにゃ。』
『だったらさ、一緒にカフェで暮らせば?』
自宅で猫が飼えない未久理は、化けねこカフェでもっと多くの猫とふれ合いたい思いで寅之介に訴えた。
『無理にゃ。彼はずっと一匹で生きてきた風来坊にゃ。子どもたちと一緒に出来にゃいにゃ。』
同じ野良でも、喧嘩をしながら群れをなしてきたオオシロやオオハチとは違うと寅之介は思った。
雄トラの様な野良猫は、グループに馴染めず直ぐに出ていってしまうだろう。
『でもなんか淋しそう。』
貴実華は雄トラの目に哀愁を感じた。
いよいよ虎之介の出産の日がやってきた。
『むずむずするにゃ。』
朝から虎之介は落ち着きがなく、身体を舐めたりしている。
『寅ちゃん大丈夫?』
『うるさいにゃ!』
心配する深雪に対して、つい心ない返事を返すほど虎之介は苛立っていた。
『みんな下に行きましょ。』
人間と違い猫は誰の手も借りず出産する。
下手に手を出したりすると親猫自身の母性本能が上手く働かなくなり、子育てに支障が出る恐れがあるのだ。
『寅ちゃん、頑張ってね。』
部屋にはシロの出産の時と同じ様にビデオカメラが設置され、深雪たちは一階のカフェにあるモニターで監視する。
『うう~っ。』
虎之介は陣痛が激しくなり、時おりうめき声を上げ、呼吸も激しくなってきた。
痛みを和らげるためか、うろうろしたり身体を床に擦り着けたりしていたが、やがて寝そべり、虎之介の膣から透明の液体が流れてくる。
『そろそろ一匹目が出てくる頃だね。』
篠原医師が解説する。
この分泌物が透明なら正常に胎児が出てくる筈だが、濁った色だと死産の可能性もあるので篠原医師も安堵した。
やがて、最初の仔猫が出てきた。
『産まれた~!』
カフェでモニターを見ていた深雪たちは歓喜の声を上げる。
虎之介はへその緒を噛みきって産まれた仔猫の鼻を舐め、次の仔猫が出てくるまでに一緒に出てきた胎盤を食べ始めた。
『あれ、食べるものなの?』
『胎盤は栄養素が詰まっているんだよ。猫と同じ数の胎盤があるから、邪魔だしね。』
20分ほどして次の仔猫が出て更にもう一匹、虎之介は無事計三匹の仔猫を産み落とした。
三匹の仔猫のうち一匹は雄トラに似た柄で、後の二匹はトラそっくりの茶白トビである。
すぐさま深雪たちは2階の部屋に上がり、虎之介の様子を伺うが、仔猫を産み落とした虎之介はぐったりしてそのまま寝落ちしていた。
『お疲れ様、寅ちゃん。』
虎之介は産まれたばかりの仔猫たちを抱き締める様な格好で眠っている。
『精も根も尽き果てたって感じね。深雪ちゃん、今夜は私の部屋に泊まりなさい。』
『でも、寅ちゃんが心配なので今日はカフェで寝ます。』
普段は2階の部屋で虎之介と一緒に寝ている深雪だが、虎之介に気を使いカフェで寝る事にした。
『虎ちゃん、お休みなさい。』
色々話したい思いは明日にして、深雪は部屋の扉に鍵を掛けた。




