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感動の母子対面なのにゃ

『あらお店……変わってるじゃない!なんなの、猫カフェって?』


駐車場から降りた亜矢は、普通の喫茶店・風車の頃に何度も来ていたのが突然猫カフェに変化したので驚いた。


『ったく、里沙も寅之介も一言も言わずに!』


『ご存知なかったんですか?なんか、コロナのせいで普通の喫茶店だと思う様に経営出来ないからって……。』


深雪は咄嗟に言い訳をする。


『二人とも、この中にいるのね?ちょっとばかりお灸を据えなきゃ!』


『すみません、お客様がいるので。里沙さんから閉店したら連絡がありますから、部屋で待ってましょう。』


さすがに客がいる状態で亜矢が乱入して寅之介の姿を見たら取り乱すのは目に見えていて、その後は予測不可能である。


二人はひとまずカフェの2階にある寅之介の部屋に上がった。


今は深雪も住んでいる寅之介の部屋だが、深雪の実家がさほど遠くなく余計な荷物は置いてきたため、基本的に寅之介が一人暮らしをしていた頃からあまり変わっていない。


『ここで、本当に同棲しているの?』


『同棲だなんてそんな……。』


端から見れば、寅之介と深雪は同棲しているとしか思えないが、深雪にとってはでかい猫を飼っている様なものだ。


『にゃあ。』


留守番をしていたシロが人懐っこく亜矢に近寄る。


『まあ可愛い。この猫も猫カフェの子?』


亜矢は下の店がどんな風に営業をしているのか全く分からない。


『この猫は繁殖のために他の猫たちと分けているんです。先日、交配をしたばかりなので、まだ妊娠しているかは分かっていないんです。』


発情をしなくなったシロはおとなしく自分の身体を舐めている。


『深雪さん。猫じゃなくて、あなたと寅之介も早く繁殖してね。』


深雪は苦笑するしかない。


(仮に寅ちゃんが元に戻れて私と結婚したら、亜矢さんがお義母さん……ってないない!)


深雪は一人で妄想し、首を大きく横に振った。



その頃、カフェも閉店作業を終え、アルバイトの恭太郎はタイムカードを打刻した。


『お疲れ様でした、失礼します。』


『今日は一人で忙しかったでしょう。ごめんなさいね。』


深雪が亜矢の相手をしていたため、その分恭太郎は一人で動き回っていたのだ。


『さて、アヤねぇを呼ぶわよ。』


いくら時間を稼いでも亜矢と寅之介の対面は避けられず、せめて深雪が亜矢の気分を鎮めていればと願うだけである。


程なく、亜矢と深雪は店の扉を開けて入ってきた。


『アヤねぇ、久しぶり。』


『あんたねえ、久しぶりじゃないわよ。なにこの店?寅之介はどうしたの?』


店内の猫たちには寅之介が事前に亜矢の来店を伝えていたが、それでもカフェでは絶対的存在の里沙が狼狽えるほどの亜矢の勢いに動揺している。


『まあまあ、今コーヒー淹れるから。後、夕食まだでしょ?お寿司頼んでいるからその辺りに座ってて。』


里沙に促されて、亜矢は座椅子に腰を掛ける。


店の奥には怯えた猫たちと一緒に寅之介もじっとしていた。


『寅之介は何処にいるの?』


亜矢はきょろきょろ部屋を見渡したが、動かない寅之介は妙な置き物にしか見えなかった。


『……あの、あちらにいるのが寅之介さんです……。』


恐る恐る深雪が部屋の隅を指差した。


『は?深雪さん。冗談も休み休み言ってね。猫と置き物しかいないじゃない。』


その時、置き物だと思っていた寅之介がのそのそと動いて亜季に近付いてきた。


『お母さんごめんにゃ。寅にゃ。』


一歩一歩近付く寅之介に亜矢は震えおののく。


『やだ!来ないで!』


『寅にゃ。お母さんの息子の寅之介にゃ。』


寅之介の身体は成人した人間よりかなり小さいが、普通の猫よりははるかに大きいため、成長途中の虎の様に感じる。


『寅?……トラ?……虎?』


亜矢は震えを必死に抑えるが、寅之介が目の前で顔を覗きこみ、震えは最高潮に達した。


『こんな格好になったけど、正真正銘の寅之介にゃ。』


寅之介は舌を出して亜矢の頬を舐める。


『と……寅之介なの?』


『黙っててごめんにゃ。……はにゃしは長くなるけど、あの子たちの母猫と同化したのにゃ。』


トラの子どもたちはみな亜矢の方を見て、なんとなく頷いている様な気がした。


『そんな事って……。』


『お母さん、ごめんなさい。簡単に言えば、憑依されたんです。』


里沙が補足する。


『憑依じゃにゃいにゃ!同化にゃ!』


相変わらず、寅之介は憑依という言葉を打ち消す。


『信じられる訳ないじゃない!お腹を痛めた息子が猫になったなんて。里沙!なんで今まで一言も言わないのよ!』


里沙がコーヒーを持って亜矢の前に置いた。


『はい。寅さんが選んだ黄金比のブレンドよ。』


『これを飲むと少し落ち着くにゃ。』


『そんな事で、騙されないわよ。……美味しい!』


普通の喫茶店だった頃に寅之介が亜矢の為に考えたブレンドの味で、亜矢が上京した時にはいつも寅之介がブレンドをして淹れてくれていたのだ。


『お母さん、黙ってたのは悪かったにゃ。』


亜矢はコーヒーを飲んで少し落ち着きを取り戻した。


『まあ細かい事情は後で聞くけどね。里沙、この店は何よ?寅之介を見せ物にして儲ける事ばかり考えて!卒業しても一向に就職しないと思ったら猫に憑依?ふざけないでよ!あんたに寅之介のことを任せて失敗だったわ!』


怒りの矛先は寅之介ではなく里沙に向けられている。


『申し訳ございません。私が、猫カフェの提案をしたんです。』


深雪が手を挙げて亜矢に告白し、亜矢も深雪に視線を向けた。


『寅之介さんが働くために喫茶店を改装して猫カフェにしようと私が言ったんです。里沙さんは寅之介さんが元に戻った時のために給料を貯金してくれていますし。』


亜矢は深雪が話し終えると里沙の方を向く。


『なんであんたそんな大事な事を言わないのよ?』


『いつ言うチャンスがあるのよ?一方的に捲し立てて!』


結局、姉妹喧嘩に突入してしまう。


『まあまあ。子どもたちもびっくりしているきゃら、喧嘩は止めるにゃ。』


『子どもたち……ね。あんたも立派な親猫になった訳だ。』


寅之介は頭を掻いた。


『とにかく、里沙は信用出来ないから、深雪さん!』


『は、はい!』


亜矢に名指しされ、深雪は直立不動になる。


『あなた、この先寅之介がどうなったとしても一生面倒見て下さいね。明日、あなたのご両親にお願いに行くから。』


『それって、結婚のきゃ?!』


深雪との恋に鈍感な寅之介でもすぐに理解出来た。


『当たり前じゃない。あんたの様な猫人間、他に誰が相手するのよ?』


一方の深雪は、望んだ形ではなかったものの、亜矢の最大の後押しに心の底で万歳をする。


『すぐ、父と母に連絡します。』


深雪は揚々とスマホを打ち始めた。


『深雪ちゃんと結婚なんて……にゃんだかにゃあ。』


嬉しい反面、納得のいかない寅之介であった。

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