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子作りするにゃ

カフェの定休日、電話で呼び出された貴実華が未久理と共に学校帰りの制服姿でカフェにやって来た。


『二人とも制服が似合ってるにゃ。可愛いにゃ。』


寅之介が決して深雪には言わない言葉を投げ掛けたので、深雪は面白くない。


『ずいぶん言う様になったんじゃない?』


寅之介と深雪の付き合いは長いが、深雪は奥手な寅之介に誉められた記憶はない。


ただ、寅之介にしてみると猫とはいえ同性になった事で、気軽にそんな言葉が出る様になっている。


『キミちゃん、親御さんの許可と病院の証明書は持ってきた?』


二人のやり取りは無視して、里沙は話を進めた。


『はい。』


交配を勝手に進めてむやみに猫を増やさないために2匹を引き合わせる前に承諾書を書いてもらう。


貴実華は未成年なので、事前に親のサインももらっていた。


『ありがとう。じゃあタマちゃんを連れてきても大丈夫です。これからでも良いかな?』


シロの発情が止まらないので、早急に交尾をしなければならないのだ。


『分かりました。家に帰って連れてきます。』


貴実華の自宅はカフェから二駅先にあり、その間に深雪はシロがいる部屋の準備をする。


発情している雌猫に反応した雄猫は、スプレーの様におしっこを撒くため、おしっこをしそうな場所に吸水シートを敷き、それ以外の場所も出来るだけビニールシートで覆った。


雄雌共に発情していても、相性が合わなければ交尾に至らない場合もあるため、部屋には2匹以外立ち寄らない様にして、ビデオカメラで部屋の外部から観察する。


もともと寅之介が一人暮らしをしていた部屋はあまり広くはないため、1階のカフェにモニターを準備した。


タマを連れてきた貴実華が戻り、深雪と一緒にシロが待つ部屋に行く。


『なーーーお。』


シロは相変わらず大きな声で鳴いて雄の発情を誘発しており、キャリーバッグに入っていたタマの落ち着きもなくなってきた。


『行ってらっしゃい、タマ。頑張ってね。』


貴実華はタマを部屋に放し、深雪と共にカフェに戻ると、里沙や寅之介たちがモニターに食い入っている。


カフェで待っていた未久理や、同じく学校帰りの恭太郎も集まっていた。


『どうですか。』


『まだお互い様子見って感じね。』


タマがシロに近付いてうろうろしている。


カメラの角度の関係で顔は分からないが、たぶんタマはフレーメン反応という、笑っている様な表情をしているだろう。


『カメラ1台じゃ足りなかったね。今度は4台くらいで撮ろう。』


この2匹は交配が完了すれば避妊・去勢手術を受けるので、上手くいけばこれが最初で最後の交尾になる。


しかし、里沙は今後カフェを運営するために別の猫同士の交配も考えている様だ。


シロはタマに対し、威嚇を始めた。


『タマの事気に入らないのかなあ?』


『まだこれからにゃ。シロは本気でタマを嫌っている感じはないにゃ。』


寅之介は、娘のシロの気持ちをよく分かっている。


暫くすると、シロは身体を丸め、タマを受け入れる体制に入る。


『なんだか良い感じね。始まるかもよ。』


シロがお尻を高くして鳴き声でタマを呼び寄せると、タマは背後からシロの首を噛んだ。


そのままタマはシロに被さり腰を振るが、その行為はあっという間に終わった。


『もう終わり?』


タマはシロから離れ、部屋の隅で自分の身体を舐め始め、シロもそのままの場所で身体を舐める。


『また暫く経ったら始めるから。後2、3回やれば妊娠は出来るでしょ?』


交尾が終わると大体30時間以内に排卵が行なわれて妊娠をするのだが、1回の交尾で確実に排卵をするかは分からないので、数時間のうちに交尾を何度か繰り返すのだ。


『このまま今夜は2匹だけにするから、みんな遅くならないうちに帰りなさい。明日学校が終わったらタマを引き取りに来てね。』


今夜は寅之介とコトラも雄猫と共にカフェで寝て、深雪は里沙の部屋に泊まる。


シロが無事出産したら、みんな化けねこカフェで生活をする事になるが、一匹だけは貴実華が引き取って飼うという事で話は付いていた。



その晩、カフェで寝た寅之介はトラの間でトラに感謝の言葉を戴いた。


『寅之介さん。約束を果たして戴き、ありがとうございました。』


トラの子どもたちは乳離れして順調に成長し、シロが出産すればトラの子孫は継続されるので、寅之介は無事役目を終える事になる。


『まだだよ。シロがちゃんと子どもを産んで、その子どもたちが成長しないと約束を果たした事にはならないよ。』


寅之介は律儀に言い放つ。


『私はもう充分です。寅之介さんには長い間ご迷惑をお掛けしましたし、元の姿に戻って深雪さんと幸せにお暮らしください。』


トラは、寅之介と同化した事で深雪にも申し訳ないと思っている。


『深雪ちゃん?やっぱり深雪ちゃんは俺なんか相手にしてくれないよ。普通の男子と一緒になった方が幸せになれるよ。』


トラは呆れ返った。


『まだそんな事を……。今まで深雪さんのどこを見ていたのですか?お仕事を辞めたのも、寅之介さんのお部屋に移ったのも、全てあなたのためなのですよ。』


トラは深雪の事になると、妙にエキサイトする。


『とにかく、もう少し一緒に居てくれよ。 元の姿に戻ったら子どもたちと話は出来なくなるし、トラと別れるのも寂しいよ。』


今や寅之介の方がトラや猫たちに未練があるのだ。


『分かりました。私も孫の顔は見てみたいのでもう少しお邪魔致します。』


トラの身体が透けていき、寅之介と同化していく。


(そうなのか。シロの子どもという事はトラの孫なんだな。それならおばあちゃん?!)


改めて寅之介は猫と人間の成長の違いに驚いた。

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