第八話
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ありがとうございました!!
ソニアは謹慎を言い渡された。
とは言っても、魔王が復活したこの時期に、さらに勇者との関わりを悪くしてしまったソニアには、謹慎と魔物の討伐という二つが課せられることになった。
肝心な時に自制心を保てなかった己を恥じるソニアには否やもない。ただひたすら、己を顧みないような苛烈さで魔物を狩っていった。
「お前らしくもない物言いだったそうだな」
魔物を狩り続ける日々のおかげで、ソニアは勇者か数少ない賢者しか知らない転移魔法すら覚えていた。そのおかげでソニアの移動時間は大幅に減り、より効率的な防衛ができるようになっていた。そんなある日、勇者に暴言を吐いた9の月から3ヶ月後の12の月に、ソニアの父であり前国王の弟であるランダレルはソニアを訪れた。
父が今さらそんなことを言うのにソニアは戸惑ったが、口答えもせずに素直に謝った。
「申し訳ございません、お父様」
ランダレルはソニアの顔をじっと眺めた。
「……無理をしているのではないか」
父の顔に憂いを見て、ソニアは困ったように笑った。
「無理など。わたくしのせいで陛下は、勇者様に救援を頼みづらくなってしまいました。わたくしのせいなのですから、わたくしが民のために努力するのは当たり前のことですわ、お父様」
それでなくとも今や各国で魔物の被害は頻発している。ソニアがいて魔物に対抗できるロージアン王国は捨て置かれてもしょうがないとも言えた。
「――神殿の者が、好き勝手に申しておるようだ」
ぼそり、とランダレルが言った。
ソニアは苦笑した。
神殿の人間が、特に上層部の者からソニアは良く思われていない。だがレイシュア神殿長からキャエット神殿長に代わってから、それはかなり改善されたのだ。
「あれらが民に何をしている。神殿に籠もり、女神に祈ると称して好き勝手しておる。そのような者どもになぜお前が悪し様に言われねばならん」
先代国王と違って、ランダレルは神殿に批判的だ。そのことでジャスターとも気が合っているらしい。
「お父様」
ソニアは宥めるように父を呼んだ。
ソニアをこれほど愛するランダレルが、なぜソニアの母であるメイジニアをあれほど遠ざけているのか。かつてはメイジニアと結婚することを熱望していたという父が、ソニアをこれほど愛する父が、今の母にはあれほど冷淡な理由が未だにソニアには分からない。かつてほど心を痛めずとも、未だにソニアには不思議でならなかった。
「――お前の結婚を、進めたいのだ」
そう、父がぽつりと呟いた。
ソニアは、体を固くした。
結婚、というものに対してソニアは良い印象を抱いていない。両親がソニアに何も言わないのをいいことに、ソニアはこの問題から目を背けていた。怖かったからだ。自分が、両親のように冷え切った仲になることが。そうしてそのことを、母と同じように我が子に詫びなければならないことが。
「わしは、そなたには幸せな結婚をしてもらいたいと思っていた。だから結婚も強くは勧めてこなかった。だが……勇者は、このまま引き下がるものだろうか。誰ぞの妻になっている方が、お前は安全なのではあるまいか」
ランダレルは、各国で勇者がどの姫君からのどんな誘惑にも屈していないという噂を聞いて不安に思ったのだった。そうして、自分に置き換えて想像したのだ。手ひどく自分を拒絶した、勇者に比べれば弱い立場にある女性に、自分なら何をするだろうかを。
実際にランダレルにはどこか似たような過去があった。そうしてそのことで、彼は愛する人との仲を決定的に破壊してしまっていた。それと同じ事が愛娘に、かつて愛し、今も密かに愛している女性との娘に起こったら。そう思うとランダレルはいても立ってもいられなかったのだ。
「……意外です」
だが、ランダレルの予想に反してソニアは困ったように笑った。
「お父様なら、勇者様との間に子をもうけよと仰るかと、思っておりました」
勇者と、その勇者に準ずるほど強いソニアとの間の子。確かに、国を担う者ならば喉から手が出るほどに欲しい存在だろう。今の魔王が倒れても、100年後にはまた蘇るのだ。強い者の血を引く存在がどれほど貴重か、ランダレルとて知っている。
「わしはそれほど恥知らずにはなれん」
勇者の求婚を手ひどく拒絶した女性が、勇者の子を身ごもる。その過程に、幸せな繋がりを見出すことはかなり難しい。
「わしが……父であるわしぐらい、お前の幸せを祈っても良いのではないか」
ランダレルが拗ねたように言うのを聞いて、ソニアは久しぶりに心が温かくなるのを感じた。
ソニアはこれまで自責の念で動いてきたし、勇者との件を表立って批判する者も多かった。実際、勇者との和解の使者にソニアを行かせてはどうかという提案もあったほどだ。ソニアも覚悟をしていた。自制を失った自分に対する罰がそれなら、受けようとも思っていた。だがジャスターが主導する貴族の整理と、神殿からの距離の置き方によってその声は消えていったのだ。
「お父様はどうして――」
温かくなった心が自然に動き始めて、ソニアは慌てて口を閉じた。
「?なんだ?」
「いえ。……国のために働けと、お父様がそう仰ったのに」
ふふふっと笑うと、ランダレルは困ったように眉を下げた。
「働いたであろう。魔族を討った。これ以上の功績はない。あの時、国の民全員が神殿に籠もっていたのだ。いつ魔族が国を襲うかと恐れてな。……お前は見事だった。魔法省の者はろくに手助けしなかったのだろう?指揮の指導も受けさせてもらえなかったと聞く。わしは、例えお前が魔族と相打ちしていても見事だったとお前を称えただろう。部下の功績を誇れ。お前が俯いていては、命を投げ打って魔族を討った部下が救われん」
ランダレルらしい激励だった。
ソニアは、顔を上げて微笑んで見せた。そう、笑えるようになるほど、ソニアはようやく部下を失った痛手から立ち直り始めていた。虚勢でもあった。だが、それでも虚勢を張れるほどには、前を向けるようになっていたのだった。
それでも。
それでもソニアは、もうこれ以上誰かを自分の人生に巻き込みたくはなかった。
「結婚のお話は、今はまだ。どのみち魔王が倒れ、我が国に魔物がいなくなるまで、わたくしは戦わなければならないのですから」
もし父が心配するように勇者がソニアを恨んでいるとしたら、それこそソニアは結婚するべきではない。未来の夫を、家族を巻き込むわけにはいかないのだから。
ソニアには、父が言うような幸せな未来、というものを思い描けないでいた。
ソニアが思い描く未来は、魔王が倒れ、国に魔物がいなくなるその時までだ。ソニアはぼんやりと、その時が来れば自分は死んでいるのではないか、と思っている。もちろん、その時までに命を落としている可能性だってあるが、皆が笑いさざめくその日に自分の命は終わるような、そんな予感をぼんやり抱いていた。
それは、或いはそう思うことで自責の感情を封印しているからかもしれなかった。自分が幸せに笑っている未来など、来るわけがない。そういう確信すら、ソニアは抱いていたのだった。
読んでくださってありがとうございます!!
2017/02/27に、勇者の後に間章を作りました。
もう一話書こうと思ったのですが、それはもう少し時間軸が進んでからにしようと思います。
そろそろアルが恋しくなってきました~。




