第六話
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驚きほど日々は早く過ぎ去った。
ソニアにはやらなければならないことが山積みだった。
レイシュア神殿長が失脚し、ソニアが国内で活動する上での邪魔者はいなくなった。だからこそソニアにはやらねばならないことが多かった。
「ソニア様」
仲間の死に打ちひしがれていたイーデリックとミュリーラは立ち直った。彼らの中でどれほどの葛藤があったのか、正確な所はソニアには分からない。だが、これまで以上に彼らは頼り甲斐のある良い顔をしていた。
「神殿長が失脚されてから、私はまるで英雄のような扱いを実家でされているのです。……醜悪な話でしょう」
笑ってイーデリックはそう言った。かつて『ろくでなし』と息子を罵ったティクソン侯爵は、今や息子を下にも置かぬ扱いをしているらしい。それはそうだろう。レイシュア神殿長と近しかったティクソン侯爵に誇れるものは、もはやイーデリックしか残されていない。そればかりかイーデリックとソニアを結婚させようとすら画策していたらしい。イーデリックが潰したようだが。
「私がニコラークやダーレントを差し置いて生き残ったのは、侯爵家の財力のおかげでした。ですから、それについては感謝しようと思うのです」
微笑んだイーデリックだが、その笑顔はとても感謝を示しているようには見えなかった。
「ソニア様。侯爵家の力を、新たなる公女隊のためにお役立てください。そして私の力も」
ソニアは、それを受け取った。そうして新たな誓いを胸にするのだった。
これ以上、犠牲を増やさない、と。
ミュリーラは少々奇妙な立ち直り方をした。
勇者に憤り、レイシュア神殿長に憤った彼女は最終的な矛先を国王であるジャスターに向けたのだった。
公女隊の損害を、ジャスターの失政のせいにして詰ったミュリーラにジャスターは何故か……恋に落ちたようだった。
「お恥ずかしいですわ。きっと、どなたかのせいにして、怒りたかっただけでしたのに、陛下はお優しく最後まで聞いてくださって……」
とミュリーラはソニアに語り、
「あれほど美しく怒る女性を初めて見たよ」
と、ジャスターは語った。
ミュリーラが幸せになれる保証はどこにもなかったが、従兄に狙われて逃げおおせるはずもなかろうと、ソニアはそっと彼女の幸せを祈ったのだった。
その後の、ミュリーラが参加する夜会では、ジャスターはさり気なく彼女を囲い込みに走った。
魔族との戦闘で生き残った一人であるミュリーラは、今では公女隊の名声を囲い込みたい独身男性の恰好の餌食だったから、相手がジャスターでまだ良かったのかもしれない、とソニアは思った。少なくともミュリーラに群がるろくでもない若者達より、遙かにジャスターの方が抜け目なく狡猾で……ミュリーラに惚れ込んでいたので。
公女隊の再建、魔王の活動が活発になるにつれ活発化する魔物の討伐。暇があれば己のレベルを上げるべく、城の近くにあるダンジョンに潜る。
ソニアの毎日は飛ぶように過ぎていった。
「働き過ぎだと思うんだがねぇ」
ソニアの執務室に、ジャスターが出没する確率が増えたのは間違いなくミュリーラのせいだろうと思う。
「そうお思いでしたら夜会を減らしてくださいませ」
ソニアは素っ気なく答えた。夜会の度に、国の英雄であるソニアの名声を己が物にしようとする若い男に囲まれて閉口しているのだ。
「好みの男はいなかったかい?そうだねぇ、最近は若い男ばかりだったから、ソニアは中年好きという噂でも流しておこうか?」
正直に言って、ソニアはジャスターのことを嫌ってはいない。彼がこういう物の言い方をするのも許容はしている。だが、親しき仲にも礼儀は必要だと思ってもいる。
「――そういえばミュリーラの好みをご存じでいらして?」
ジャスターは潔く非を認めた。
「悪かった。夜会は後一度だけにするよ。勇者殿が我が国に来られる。その歓迎の夜会さえ終われば、しばらくは大きなものは催さないから」
ソニアは、パッと目を伏せた。瞬時に湧き起こりかけた感情を押し殺すように。
「勇者様が、我が国に……」
「王家の山になにがしかの宝物があり、それに用がおありだそうだよ?」
ソニアの体が、反射的にカッと熱くなった。
どれだけ自分のせいだと言ってみたところであの日、勇者に助けを求め、それを叩き落とされた過去は癒えていない。あれからまだ3ヶ月なのだ。
「ソニアを助けなかったあの男が、王家の財宝目当てに我が国に来訪するそうだ。面白いね?ソニア」
ソニアはジャスターを仰ぎ見た。ジャスターは品良くソニアの向かいのソファーに座っているが、その目は笑っていない。
冷静沈着でとらえどころのない従兄がソニアのために怒っている。そう思うとソニアの肩の力が抜けた。
「あまり勇者様に意地悪はなさらないでくださいませ、お兄様」
ジャスターは明らかにムッとした顔をした。
「こういう時だけ兄と呼ぶのは卑怯だよ」
「こういう時ぐらいしか呼べませんもの」
微笑みと共にソニアが宥めれば、ジャスターはしょうがなさそうに笑った。
「しょうがないな。――精々、歓迎して差し上げようではないか、勇者を」
出会う前からお互いを知っていた二人が、初めてお互いの顔を知るのはもうすぐのことだった。
読んでくださってありがとうございます!!
次はいよいよアルと対面ですw




