第四話
お一方に評価していただきました!
ありがとうございました!!
イーディーはヒーストル村の出身だった。
残された妻と息子が嘆き悲しむ。ソニアは、彼らを慰める言葉を持たなかった。何を言っても陳腐になると思うと、哀悼の意を込めて頭を下げるのが精一杯だった。
「ありがとうございます、ありがとうございます……っ!」
その一方で、魔族を倒したソニア達に寄せられる感謝の念。
ソニアには、それが一番耐えられなかった。
「帰りましょう、ソニア様」
苦行に耐えるソニアに、オーガスが囁いた。意図は明白だった。”帰る”のではなく”逃げる”のだ。仲間を無為に殺した罪に震えながら。
ミュリーラとイーデリックは、未だ自失の中にあった。
「……そうですね。せめて彼らは、守らねば」
仲間を失った悲しみに暮れる彼らを、穏やかな環境に戻してやりたい。そう理由ができてようやくソニアは動くことができた。もうこれ以上何も、自分のために動きたいなどとは思えなくなっていたのだ。
王城に帰る途中、魔族を倒したソニア達は立ち寄る町や村で賞賛の嵐を浴びた。
勇者ではない者が魔族を討った。確かにそれは賞賛に値することだった。魔族が一つの村どころか町を、果ては国までも滅ぼす恐ろしい存在であることは周知の事実だったからだ。公女隊の大半が戦死した状況に哀悼の意は表しても、ソニア達の功績が薄れることは無かった。
「ミュリーラ、もう休みなさい」
ソニアと同室に泊まることになったミュリーラを、ソニアは寝台に寝かせてその髪を撫でた。
「……ソニア様、わたくしの回復魔法が間に合えば、助かる命はありました」
戦闘中、ソニアも念じた。間に合え!と。
「ミュリーラ、わたくしの魔法がもっと早ければ犠牲になる部下も少なかったのよ。あなたが気に病むことではありません」
そう言い聞かせながらも、ソニアは生き残った4人全員が、これから先ずっと悔やみ続けるのだろうと感じていた。あの時もっとこうしていれば。そう思うことはいくらでもあって、いつもの公女隊なら聞こえる話し声も歓声も罵声も消えて静まりかえった宿舎にいると、辛い。
だが最終的な責任はソニアにあるのだ。ソニアが、全ての死者を背負う義務があるのだ。
「なぜ、勇者様は来てくださらなかったのでしょう」
ミュリーラの、優しい緑の目に一粒、涙が浮かぶ。すっと頬を滑っていったその雫をソニアはそっと拭った。
「ブリディン王国でも魔族が出たのです。あの国には、魔族と戦える人間はいません。……しょうがないのよ、ミュリーラ。勇者様はお一人なのですから」
何度も、ソニア自身が問いかけていた疑問だ。だから答えを出すのは容易い。
「……ソニア様、わたくしは、悔しいのです」
後から後から、ミュリーラの頬を涙が伝う。
「勇者様の仲間のどなたかお一人でも、手助けに来てくださるのでは、と思っておりました。あるいは女神様の祝福を分けてくださるのでは、と。それなのに……」
ソニアは目を伏せた。恐らく、と思うことはある。
「……わたくしの、せいなのでしょう。陛下は、貴族達に対抗するために余りにもわたくしの名前を高めておしまいになった。ですからきっと、勇者様もわたくしに任せれば大丈夫とお思いになったのでしょう。……ミュリーラ。真に責められるべきは、思いの外弱かったわたくしにあるのですよ」
ソニア達は弱かった。ただそれだけが罪だった。
苦痛に満ちた道のりを終えてようやく帰城したソニア達は、国王が開く祝賀会への参加を義務づけられていた。
ソニア達の勝利を大々的に祝うことで、反国王派の貴族に対して離反を促すことができるからだ。
「全く、小物共はいい気なものだね。旗色が悪ければ寝返ればいい。大物はそうはいかないから死ぬまで戦い続けるしかないというのに」
足を組んで楽しげにジャスターは嗤った。
祝賀会に国王と公女が入場するにはまだ早い。だから二人はこうして控え室でくつろいでいる。正確にはジャスターだけが。
「――お父君とお母君が揃って君の見舞いに来られたようだね。長年の夢が叶った気分は、どうだい?」
ともすれば鼠をいたぶる猫にも似た、こういったジャスターの言い方にソニアはうっすら笑った。
「今さらですわ、陛下」
ずっと、ずっと願ってきたことだった。父と母に、よく頑張ったと褒めてもらいたかった。父と母が腕を組んで、ソニアに笑いかける。それはかつてなら夢のような幸せであったはずなのに。その光景を見たソニアの心は、驚くほどピクリとも動かなかった。
「……死にすぎた、な」
ジャスターが目を伏せて言った。鼠をいたぶる猫と同じ心で犠牲者を悼む。従兄の奇妙な心のあり方が、しかしソニアにとっては嫌いではなかった。
「わたくしが弱かったからですわ。……弱くて、無能でした」
「本来なら君は、クラリアと同様に一宮に閉じこもって生活するに相応しい身分なのだがね」
ソニアはふっと笑った。
「まさしく今さらですわね、陛下」
「お兄様と呼んではくれないのかい?」
拗ねたようなジャスターに、ただソニアは微笑みだけを返した。
読んでくださってありがとうございました!!
ジャスターはソニアに甘えるのが好きです。




