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地下牢の神子  作者: 雪香
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尋問


紅神子と慧羅が穏やかなやり取りをしている最中、一の方、五の方、そして遅れて合流した三の方はある場所に集っていた。側近くで控える3の国侍従長の清風と侍従達は、国主3人の漂わせる張り裂けんばかりの怒気に息を潜め身を震わせる。


彼らの集まったのは3の国にある地下牢であった。普段使われる事の無い牢の中には、数名の男達が入れられていた。男達は既に満身創痍であり、襤褸切れの様な衣服には泥や地で汚れ、隙間から見えるのも肌人の肌の色とは程遠い。


男達を鞭で打っていた兵士が3人に気付くと、一度手を止めて静かに頭を下げる。


「…さて、その者達は何をしたのだったかい?」

「はい、五の方様…」


緊張感漂う空気の中、場に似合わぬ穏やかな声が響く。兵士は常通りに見える柔らかな微笑を浮かべる五の方に頷き、指先すら動かせぬ男達を靴先で軽く蹴り飛ばす。

男達の蛙の潰れた様な悲鳴など無視し、淡々と続けていく。


「…この男は、5の国侍従長様が牢に入れられたのを黙っていた者。…この男は、メイド長が紅神子様を連れていくのを見送った者。この男は、牢に入れられた5の国侍従長様へ暴力を振るった者。この男は、紅神子様に傷を負わせた者…」


順に説明を続けていく途中、一の方が一人の男へと歩みを進める。


「…この男が、紅神子様の玉体に傷を負わせたと?」

「っは。自白剤を使い改めました。…更に、無礼な暴言を吐いたとまで言いました。」

「………何?」


一の方の片眉がピクリと上がり、冷徹な容貌に僅かな変化が生まれた。身動き取れぬ男の方は、虫けらを見るかの如く見下ろされ助けを求めているのか、目だけは左右に動かしている。


「はい。………おい、紅神子様に何を言ったのか口にしろ。」


自白剤を投与された男は黙秘も叶わず、更に自分を窮地に立たせる言を吐く。それが、彼ら十神衆の逆鱗に触れると知っていたとしても。


「……あ………そ、その目は色付ガラスか?まあ、その貧相な容色でよくも紅神子様を語ったものだ。せいぜい上手く命乞いするのだな…………と……ギャッ…!」


瞬間、牢の中での怒気が膨れ上がる。兵士や侍従達は息も上手くできず、気を失う者すら現れた程。

何とか気合いを入れて立ち上がる侍従が目にしたのは、自白した男の喉は何かに切り裂かれていた姿であった。しかし男は、その血飛沫を上げる喉では無く腹を押さえてもんどりうっていた。


「………○●△%**~~!□■◆▽ーーーーーーーー!」


獣のうめき声の様な、いや音ですら無い咆哮を上げてのたうち回る男を冴えざえと見下ろす一の方は…あまりに美しかった。


十神衆にとって、神子の存在は仕えるべき天上の方。神子が望めば、国だとて民だとて己の命すら喜んで捧げるだろう。その神子を傷付け、貶める言葉を向けた…。

仮に、もしも先に神子が処罰を決めていたならば男の人生は変わったのかもしれない。だが既に遅い。男は、許されざる一線を越えてしまったのだから。


「……情報は全て吐かせたのか?」

「…………っは。問題ありません。」


一の方、五の方、三の方の無言の圧力にひれ伏していた兵士だが、一の方の問いかけに声を上擦らせながら返事を返す。問題は無い…つまり、この男は用済みだという事だ。


「そうか。」

「ならば、構わないという訳ですね。」


冷徹な表情の中で、瞳にはぞっとする程の憎悪を込めた一の方の腰に掃いた剣が外気に晒される。男の声なき絶叫が響いた様な気がした事だろう。

動けず震える兵士に向けて、五の方の声が淡々と掛けられた。


「さて、この男の血縁者及び婚姻者含む一族郎党全て捕らえて来て下さい。…三の方、良いですね?」

「はい、勿論。」


一応は3の国での行為だという事を思い直した五の方は、ほぼ確定なのだが三の方へ確認を取って置く。否やなど有るわけがない三の方は、躊躇なく同意し兵士に顎をしゃくり指示する。


侍従長清風だが、一の方の冷酷な仕打ちを眺めつつ身震いし、眉を寄せて柳眉を曇らせる三の方に気付いた。初めは、3の国の者への非道に対してかと思っていたが、検討違いも甚だしかったらしい。

三の方は、自分の国内で紅神子様に不快な思いをさせ、尚且つ傷を負わせた…その事だけを気に病んでいたのだ。更に、紅神子様を処刑せよと命じた…それは間違いなく自分なのだ。


唇を血が滲む程噛み締める三の方を見て、清風は此処にきてやっと神子の存在の大きさを知ったのである。





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