再びに出会い
「此方でございます。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
壱刄と三の方の元へと案内してくれたのは、美人な女性だった。
灰色の髪に、黄緑の瞳は、やはり異世界だと実感させられる。
里子ちゃんだって、紫色の髪だもんね。
遊栄ともうします、と簡単な自己紹介をしてくれたのは、3の国の侍女頭らしい。
何故か慧羅は「侍女頭…?」と一人で呟いていたが。
「…いえ、それでは…紅神子様、御前を失礼致します。」
はい、と頷く紅葉に、遊栄は嬉しげに微笑み礼をしてから、順に守来と慧羅に退出の挨拶を述べて去っていく。
紅神子を優先的に扱った事で、守来も遊栄の行動を好感的に受け取った様である。
「…5の国侍従長 慧羅でございます。三の方様のお呼びと伺い、紅神子様と五の方様が参られました。」
軽くその扉を叩く慧羅は、よく通る声で簡潔に述べる。
おおお~!何か凄い。
のほほんとそれを見ている紅葉を見つめる守来には、ただ紅葉の姿しか映っては居ない。
「…っはい!お待たせ致しました!…3の国侍従長 清風です。よくぞいらっしゃいました、五の方様、紅神子様。」
ピクリと守来の眉が微かに動いたのを、慧羅は感じた。
(阿呆か!3の国侍従長!?)
慧羅の額に汗が一筋伝う。それが無意識であろうと、十神衆よりも先に神子を呼ぶのが常識である。
いくら侍従長となり日が浅いとは言え、今の言葉は不用心過ぎる。
呑気に扉を開ける清風に後で説教をすると決め、紅神子と五の方の入室を促す。
ううっ…何か、緊張してきた。
3の国侍従長が開ける扉を守来とくぐり、中を見渡す。
中央にある丸テーブルの周りには等間隔に椅子が置かれ、手前の席には壱刄、奥には三の方が座っていた。
紅葉の姿を見つめ、無表情だった壱刄の瞳が輝き椅子から立ち上がり早足で近付く。
「…モミジ!ああ、良かった。五の方と一緒だと聞きましたが、心配しておりました。貴女の可愛いらしい顔を見られ、安心しました。」
ただ一人だけに向ける微笑みを浮かべて紅葉の手を取り、自然な流れで指先に口づける。
壁際に控える慧羅は驚愕に目を瞬くが、五の方は気持ちは分かると言いたげに、微笑ましげに眺めていた。
「…っ壱刄、もー!」
恥ずかしさに耳まで赤く染めた紅葉は、赤色の瞳を向けて壱刄に「恥ずかしいから、今はやめて…」とぼそぼそと呟く。
「…申し訳ありません。モミジがとても可愛いらしかったので。貴女は、不思議と俺をおかしくしてしまう…。」
ううっ…イケメンめー!
瞳を細めて、愛していると目だけで訴えられれば、何も言い返せず口をパクパクと開閉するだけとなる。
ガタッ
不意に、椅子から立ち上がる音が、室内に響く。
視線を向けると、三の方が椅子からよろめく様に立ち上がり、ゆっくりと此方へ近付いて来る。
三の方の顔色は血の気が無く、蒼白いとさえ言えるだろう。
「…紅神子…様…。」
「…三の方、貴方にモミジ様に話し掛ける権利は有りません。」
紅葉に近付く前に壱刄が紅葉を抱き寄せ、守来がその前に立つ。
消え入る様なその声に、守来の冷たい声が続く。
偽者の甘言に乗り、本物の…初代の記憶を持つ紅神子を処刑しようとした。
気付かずに偽者を匿い、更には逃がしてしまったのだ。
壱刄も氷の如く冷たい瞳で見据える。 壱刄があの日、来るのが遅れたら紅葉は処刑されていたかもしれない。
それを思えば、壱刄と守来の怒りは最もなのだ。
清風は、おろおろと視線を巡らせるが、慧羅に腕を引かれて部屋を出て行く。
美しく華やかに存在を主張する三の方は、今や絶望に瞳を曇らせ膝を着き項垂れる。
あーあ…馬鹿な人。
でも…そんな所も好きだったわ。
紅葉の頭が割れる様に鳴り、思わず押さえる。
「…モミジ?」
心配そうな壱刄の言葉も、耳に入らない。
紅葉の目の前には、美しい花畑が広がっていた。
『あら…これ、貰っても良いの?』
『はい、紅神子様。』
照れてはにかむ美しい少年に、モミジは釣られて微笑む。
最後に十神衆に加わった、最も年下の美少年。
彼の純粋な行為は、恋慕は、真っ直ぐにモミジに届いていた。
『…決めたわ。貴方の名前は…』
視界が開き、心配そうに覗き込んでくる壱刄と守来に「大丈夫」と苦笑して、壱刄から離れしっかりと歩き出す。
「…紅神子様………?」
おずおずと見上げてくる曇天の様な彼の顔を見つめ、三の方の前に腰を下ろししゃがみ微笑む。
「…魅影、また…あの花畑を見に行きたいな。」
その言葉に、三の方の瞳からみるみる大粒の涙が流れていき、その場にひれ伏した。
美しく嗚咽を洩らす三の方を、静かに見つめる。
「………仰せの、ままに…!」
.




