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地下牢の神子  作者: 雪香
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3の国へ

明朝、3の国の最も豪奢で広い謁見の間では、物々しい空気が漂っていた。


中央の丸テーブルには、三の方と五の方が向かい合わせに座り、それぞれの右後方に侍従長が控える。


重苦しい雰囲気の中で口を開いたのは、柔らかい笑みを携える五の方だった。


「我が国の侍従長への無礼は一先ず置いておきますが…いつ頃紅神子様に拝謁出来ましょうか?」


ごくり、と三の方の喉が鳴る。一先ずという事は、侍従長慧羅への 仕打ちは忘れないという事だろう。


五の方は穏やかで物腰の優しい人物だ。…しかし、それは紅神子に対して特に顕著だ。

彼が3の国に来た理由は、勿論慧羅の仕打ちへの事だけでは無い。


紅神子への謁見である。五の方は、代々の紅神子の側室を務めてきた。まず、見間違う事はないだろう。



「…紅神子様は、現在沐浴に入られていらっしゃるので…少々かかるかと。」


三の方の遠回しの拒否にも、全く五の方は気にせず頷く。


「そうですか。ならば、構いません。お待ちしましょう。」


もしも、3の国の紅神子が偽物であれば、五の方はどう出るのか。


三の方は、きっと本物の筈だ…と拳を握るのだった。



静かに淹れられた茶を口にした時、扉が軽く叩かれ3の国侍従長がメイドに呼ばれる。


「…………!」


驚きに目を見張る3の国侍従長は、慌てて三の方に耳打ちをした。


(…急な報せで、一の方様がいらっしゃり三の方様に御用がありますと。…何やら、あの゛偽¨神子も一緒だと)


(何だと?!)


三の方の顔から血の気が引く。ふと、目が合う五の方には引き吊った笑みを浮かべて置く。


「大変申し訳ありませんが、少々私用ができまして席を外しますが…どうぞおくつろぎ下さい。」


それだけを言って、直ぐに出ていく三の方の出ていった扉を見つめる。


「…慧羅。」


「はい。」


後方の侍従長慧羅に言葉だけを投げ、椅子から立ち上がり視線を交わす。


長い付き合いの二人には、それ以上は必要無かった。



「…っご、五の方様!?」


「何でしょうか?」


扉に向かう五の方に困惑するメイドに微笑み、首を傾げる。それ以上近づけぬ様に、慧羅が手で制す。


「あ、あの、三の方様が此処でお待ち下さります様にと。」


部屋を出るなという事か。五の方の瞳が冷たい光を放つ。


「厠に行くだけですが?」


「…で、ではご案内を。」


それでも食い下がるメイドに向けて、最後の追い討ちをかける。


「結構。案内をされたら牢屋だったなんて、笑えませんからね。」



その一言に、3の国の者は思う。もう、3の国と5の国は危うい所まで来てしまったのだと。


この状況を打破出来るのは…。








五の方は慧羅と少数の護衛を連れて、何やら慌ただしい回廊を歩いて行く。


何が起きているのか?

先ほど、微かに一の方と聞こえたが。


五の方は涼しい表情のまま、ただ思案する。


3の国で偽神子を囲っているなら、戦争も辞さない覚悟なのだが…上手くいかない物だ。


視線の先では、梅の花が風に揺れる。




「…うう~。…迷っちゃったな。」


風と共に、不安そうな少女の声に気付き足を止めると、後ろを歩いていた筈の慧羅が「あ」と声を上げる。


「え…ああ!そこの方!」


「…ん?あ、ああー!」


慧羅が指を指し声を上げた先の相手は、驚きに目を見張ると共に嬉しそうに駆け寄ってきた。


「ケイラさん!わあ、良かった!怪我は大丈夫ですか?」


「…あ、ああ…。」





嬉しそうな少女…紅葉とは裏腹に、慧羅の反応は悪く少し距離を取ろうとさえしている。


ううん?何で?


首を傾げる紅葉の背後から「紅神子様…?」と声がかかった。


紅神子?あ、私だった。


ゆっくり振り返る視線の先に、優しい雰囲気の男性が見つかる。


栗色の枝毛すら無い透き通った長い髪をうなじから纏めており、梅の花弁が一枚舞い落ちた。


「…紅神子様?」


伺う様な相手の瞳と重なる。


「…………っ」


その瞬間、紅葉の頭がズキリと痛み強く目を閉じた。


また…自分の中のモミジの意識だろうか?






…ええ。壱刄は、私を守る始まりの刀だから壱刄。


え…貴方?

そうね…。


痛みを訴える頭を抑え込み、記憶の映像を思い浮かべる。


穏やかに微笑む青年は、自分にその先をやんわりと催促していた。





………



そこで、映像が途切れる。本当にもう時折現れる昔の記憶?を止めて欲しい。


だけど…あまりに現実味のあるこれは、私の記憶なのだと実感するのだ。


「大丈夫ですか?ご気分でも…。」


気付くと紅葉の足下に片膝を着く男性は、心配そうに顔を覗き込んでいた。じっと紅葉の赤い瞳と合わさる誠実なそれは、知らず安心させてくれる。


思い出したよ。

私の記憶での、優しい五の方で側室。


「…大丈夫です。えっと、守来(しゅうらい)さん。」


私の未来を守る人。


にこりと笑いかけた紅葉の言葉が終わるのを待たず、言葉なく五の方…守来の胸に閉じ込められる。


壱刄の激しさとはまた違い、加減され優しく抱き止められ黙って身を任せた。


私はモミジじゃないけど、彼らの気持ちを無下にしたくないな。


「…はい、守来でございます。ずっと、ずっとお待ちしておりました。モミジ様…。」


気を利かせて慧羅は下がっており、二人だけの空間が作られる。


「…あの、でも私…紅神子の記憶は微かにあるんですけど、違うかもしれないですよ?」


不安を込めた紅葉の問いにも、守来の態度に変わりは無い。

そっと体を離し、ゆるゆると微笑む。


「いいえ、その名を知るのはモミジ様だけ。その瞳も変わらない美しさ。1つ違うとしたら、初代紅神子様は美しく…」


うう…普通?

子どもっぽい?

オーラが無い?


その後の守来の言葉に、紅葉は赤面する事となった。


「貴女は、とてもお可愛らしい事でしょうか。」



て、天然なの?!







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