31 獣の帰還と王の苦悩
ちょいと短いですが、次回はちょと長いかも、です。
――南方の村々で異変が起きていると、アシューに頼んで放った密偵から一報をもたらされたのは時刻が夕暮れを過ぎた頃だった。
「ほぃ。ただいま」
その一報がもたらされた頃、やっとシャワーを浴びて一息ついたウォロンがプロングスの部屋に戻ってきた。予想された時間を大幅に超えてからだった。いつもの黒革の上下では無く、濃紺のジーンズにシャツというラフな格好だ。洗濯にでも出したのだろう。
「遅すぎるっての」
トナが不満そうにぼやく。当然、シャワーを浴びていた事を叱責しているわけではない。ウォロンの実力があれば状況を確認して、幾つかイレギュラーがあったとしても、もっと早く戻って来られると思っていたからだった。
「わりぃな。乗っていった馬が馬肉に変わってて、走って戻ってくるしかなかったんだよ」
少しだけすまなそうに答えた。馬を全力で走らせて二時間以上かかる場所へ向かったのだ。走って戻ってくるとなると数倍の時間がかかるだろう。確かにそれを考えれば人間とは思えないほどの速度で戻ってきた事になる。
脅威の力の一端を垣間見せているのだが、それをトナは一蹴する言葉を頭に持ってきた。
「ま、それはどうでもいいや。現状打破が優先だな。ともかく街に居る人たちの避難は終わってるから、外周の壁使って待ち受けますかね」
愛用の杖と分厚い本を持ったトナはすぐに退室していった。部屋に取り残されたウォロンはトナの一言――それはどうでもいい――を何度も口の中で繰り返し、薄暗い部屋でしばらく立ち竦んでいた。哀愁の漂う背中だった……。
予想された事態――最悪な方向――を予見していたトナのおかげで混乱は最小限で抑えられ、国と同名の街レダの人々と近隣にある村人達は城へ招待されていた。最初は城でパーティーをするという触れ込みだったが、さすがに街の住民だけでは無く、南方にある村々を中心に集められ、通常であれば入る事すら許されない大広間までぎっしりと人々で埋め尽くされていれば不審に思う者は出てくるだろう。
城の中庭や鍛練場も開放され、敷物を敷いた人が陣地を主張している。子供達は普段遠くからしか見られない建物の中へ来た為に探検と称した迷惑行為に奔走し、大人達は明らかに名目と違う異常事態に戸惑いを隠せないでいる。
窮屈な思いはさせているだろうが、しばらく我慢するだけで親や子、恋人や友人の命を守れるのだ。少しくらいは良いだろう。
城の最上階。テラスに出て城へぞくぞくと入城する人々を王は優しげな眼差しで眺めていた。
国の根幹であり、王を名乗る事が出来るのも彼等が居るからこそなのだ。
その気持ちを大事に持っている王だからこそ、今回の無茶苦茶な立案を受け入れた。重臣や宮廷魔術師からはかなりの反感をかったようだが、それは時間をかけてまた信頼を積み重ねれば良いと考えている。
感慨深げに眺めていた王が視線を正面へと向けた。街を取り囲む外周の壁があり、街へと入る南門がある。その街側にレダ国で動ける騎士達が集められている。自分の国を守る騎士の実力を知っているだけに不安が募るのだ。欠ける事無く生還してくれる事を祈りつつ、それは戦いに措いて幻想でしかない事だとも知っていた。様々な想いを込めた言葉が一言漏れる。
「皆、頼むぞ……」




