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25 一匹の獣、踊り踊らされる……のか






 訪れたのは裏通りの奥。見た感じ無法地帯にしか見えない通りだ。実際、間違ってはいない。毎日数人の人間が姿を消し、路上で肉の塊になっているような場所なのだ。


 ウォロンはこういう場所に好んで訪れる。その土地の特色が解るからだ。もちろん裏側の、だが。


「ほぉ……。結構品揃えいいな」


 清掃という概念の無い通りを歩くと、右側にショーウィンドウがあった。いや、正確に語るとショーウィンドウがあったのであろう場所に数多くの武器が所狭しと並べてあるのだ。建材の余りなのか、人間の腕回りほどの鉄骨を格子状に組み、空いた空間に細い鉄棒でさらに格子を組んでいた。かろうじて中身が確認できるが、腕を伸ばして手に取るという事は出来ない。


 並べられているのは主にナイフだった。チンピラが所持するような安い、数回人間を斬ると刃が鈍る程度の物から、さぞ名のある名工が作ったのでは、と思えるほど鋭い刃を持っている物。炎のような形をした目的を明確にしているナイフ。拷問用で皮を剥ぐ為のナイフなども並んでいた。


 そのナイフ専門店とも思われる品揃えを食い入るように見ている男のジャケットからは動くたびにジャラジャラ、カチャカチャと金属音がしていた。


 様々なナイフが大量に仕込まれているからだ。主に使うのが投擲用(とうてきよう)の投げナイフ、野外で重宝する多目的ナイフ、主戦用武器が無い時に使う少し肉厚のナイフ。袖口に仕込んだ小さなナイフ。裾の背面に縫いこんだ、縛られた時用の折り畳みナイフ。完全に見た目の格好良さのみで所持しているナイフなどなど……。


 裏地に仕込んだナイフの並びは鱗鎧のようになっている。それでも使う、使わないに関わらず欲しいと思ったナイフは全て購入する悪癖を持っていた。ちなみに、ベルトのバックルも革ズボンの裾にもナイフを仕込んである。全身ナイフ男と評されてもまったく違和感の無い装備をしている。


 すでに所持出来る容量を遥かに超えているはずなのだが、涎を垂らさんとばかりに見ているウォロンの背後に人の気配(けはい)を感じた。足音を消そうとしているようだが、完全にばれている。その程度の実力ならば警戒する必要も無いためにウォロンは背後の気配(けはい)には関心が無かった。


「なんかようか?」


 数分待ったが、一向に声を掛ける様子も襲い掛かる様子も無く、さすがに後ろにぴたりと張り付かれると気になって仕方が無いためにウォロンから声を掛けた。背後を振り返る事無く問うウォロンに背後の気配(けはい)がぴたりと立ち止まった。


 逃げるなり、敵意を見せればすぐにでも動くのだが、止まったまま動かない気配(けはい)にため息をつき、しょうがなく振り返った。


 ある意味予想通りの男が立っていた。


 典型的な路上生活者だ。水浴びすら滅多にしていないような臭気と肌の色、洗濯という概念を捨て去った衣服。さらには頬が痩せこけて食事すらまともに取れていないだろう。


 その男がウォロンを見て止まっていた。声を掛けられて驚いているのか、長年、傭兵として生きていく中で男が身に付けた雰囲気を感じ取って動けないのかは解らない。ただ、肩に手を伸ばそうとしているのか、空中に片手が浮いた状態だった。


「な・ん・か・よ・う・か?」


 はっきりと伝わるように同じ台詞を区切って、ゆっくりと聞いた。第三者が居れば挑発しているようにしか聞こえない。


 そこでやっと男が意識を取り戻したように動いた。


「お前、最近城に出入りしてるな?」


 意外にはきはきとした口調だった。


「だから?」


「なら、お前の知り合いに騎士は居るか?」


「居るとしたら?」


「はっきりしろ!」


 確認ばかりで、一向に本題に入らない。苛立っているようだが、むしろウォロンの方が怒りたい気分だった。だが、先に怒りに任せている姿を見ているため、逆に冷静になってしまうものだ。


「居るから、本題入れよ」


 ウォロンの答えに男は黙り、じっと見つめていた。余りにも軽く返答したので、真偽を確かめるためだろう。だが、路上生活者にじっと見られるというのは気分が悪い。


「用がねぇなら飯でも探しに去れ」


 あっち行けとばかりに手を振る。野良犬を追い払うように。


 普通ならば怒って去るなり、逆上して襲い掛かったりすると思うのだが、目の前の男は観念したように口を開いた。


「俺の相棒が死んだ……」


 男の言葉にウォロンは呆れるしか出来なかった。今居る場所は裏通りの奥である。それこそ毎日数体の死体が転がるような場所なのだ。今更一人、二人が追加で死んだからといって、騎士に報告したところでどうにもならない。だが、男の言葉には続きがあった。


「相棒は死んだんだ……。確認もした……。けど……」


 思い出しているのだろう。色々と染み付いていて顔色に変化は無いが、表現するとしたら青い顔だ。悲しみではなく、恐れからくるものだった。


「続きを話せよ」


 少し興味が湧いたのか、先ほどとは違って拒否する雰囲気は消えていた。


「三日前にダッドが死んだんだ。墓を作ってやりたかったんだけども、そんな金もなけりゃ人手もねぇんだ。だから、水葬する事にしたんだ。近くの川まで運んで、花を添えて流したんだぁ……」


 勝手に流すなよ、と思いつつも頷いて先を促す。地方の風習なのかもしれないからだ。


「そしたら、一昨日の夜に街でダッドを見かけたんだよ! 青白い顔してて虚ろな目でよぉ。よたよたと酔っ払ったみてぇに歩いててよぉ……。俺は怖くなってその場でお祈りしたんだ。そしたら姿が消えたんで、大丈夫だと思ったんだけどぉ……。

 次の日に気になって墓場まで行ってみたら、見ちまったんだよ! 墓場近くを同じように歩いてたんだよぉ……。墓が欲しくて彷徨ってるかと思ってたんだけど、ダッドの奴が墓場に入ると他にも死体がたくさん居たんだよぉ……。仲間は誰も信じちゃくれねぇし、詰め所の下っ端騎士は俺の身なりを見て相手にしようともしてくれねぇ……」


 ウォロンは神妙な顔をして頷いていた。が、下っ端騎士の態度は間違って居ないとも思った。目の前に居る男の同類達は適当な情報を売り、金に換えて生活している者も居るからだ。それも嘘の情報が多く、徒労に終わるために相手にする事はまず無い。だが、極稀(ごくまれ)に本当の情報が混ざっているだけに性質が悪いのだ。


「俺はこの国でこんな生活してるけどよぉ。この国が好きなんだよぉ。ダッドの事も気になるし、どうにかしたいと思ったら、仲間が城へ出入りしている男が居るって言うから探してたんだよぉ。なぁ、あんた何とかしてくれねぇかぁ?」


 半泣きですがり付こうとする男を本気で嫌がって止めた。さすがに触られたく無い。だが、それはともかく情報として気になるものだった。


 精神が壊れて妄想や虚言癖になっている者も多い。非合法で質の悪い薬をやっている者も居れば、金が欲しくて言い寄ってくる者さえ居る。


 そのどれかだと断言しても良いとは思うのだが、どうもそれだけで片付けて良い問題とは思えなかった。一番の理由として、生きる事に貪欲な生活している男が、それだけの情報を口にしているのに金をせびろうとも、匂わす事もしない。さらに気になる事が一つ。さきほどの気配(けはい)を消した技術。ウォロンの知る者ほどの実力は無いが、それなりに通用する消し方だ。


 それらを総合して、気になる。


 男の口にした“この国が好き”という言葉が、住むのに都合が良いのか、それ以外の理由があるのか判断できないのだが。


 それよりなにより、ウォロンの獣並みの感がどこかに引っかかった。今の話だけ、では無く。この二ヶ月の生活の中で得た情報、見て聞いた情報全部を含めて。


「解った。知り合いに話して調査するように伝える。それで良いか?」


「本当か? 本当なんだな? ありがとう!」


 余程嬉しいのか、抱きつこうとする男に懐から出したナイフを突き出して、渾身(こんしん)の拒否を見た目で解りやすく教えてやった。


「あぁ、すまねぇ……。俺はこの界隈(かいわい)で生活してるから、何かあったら来てくれ。出来るだけの事はするからよぉ」


 路上生活者に何が出来るのか知らないが、気持ちだけは十分に伝わってはいた。


 言いたい事だけを言うと笑顔で走り去る男。その男にウォロンが声を掛けた。


「せめて名前くらい名乗れ!」


「バーモぉぉ~……」


 立ち止まるなり、戻ってくれば良いのにそのまま走り去った。


 嬉しさからの行動だとは思いたいが、虚偽の情報を伝えたために走り去ったとも取れなくも無い。


 信憑性も無く、信頼性も確証も無い情報。さらに相手は路上生活者が相手であり、金銭の催促も無く、逃げるように走り去る。


 しかし、ウォロンが今まで蓄積してきた経験が本当にそれだけで否と、偽だと、断じきれなかった。どちらに身を任せるか……。


 さっきまで興味津々だったナイフの事は頭から抜け落ち、今は与えられた情報が気になってしまい、城へと足を向けた。














 次回の更新も予定通り行うつもりではありますが、仕事の関係で難しいかもしれません。

 なるべく週に一回の更新を心がけます(´・ω・`)

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