23 あの男、再び。
袋を借り受け、ウォロンは一般の傭兵とは比べられないほどの成果を上げていた。
基本的には一人で森へ行った方が効率が良い。必要となれば、もしくは気分が向けば複数で仕事を請け負う事が過去にもあったのだが、気楽な独りで動く事がほとんどだったからだ。
すでに暇を見つけて十数回ほど森へ行き、数年分の成果をウォロンは短期間で狩って来た。
下はEランクから上は数体のBランクまで。
報酬もまたそれに合わせて莫大な金額を叩き出しており、傭兵ギルドはしばらく様々な処理を行うために、朝から晩までてんやわんやだろう。また、報酬そのものも一度で払いきれるものでは無いため、月々の分割払いとしている。
その十数回の狩りのうち、数回はベラとサーラを連れて行った事もある。
元々は連れて行くつもりはまったく無かったのだが、無理やり付いてきたのだ。
異常な強さを見せ付けるウォロンにベラは驚きながらもすぐに我を取り戻し、些細なものだったが、ウォロンの援護として矢を放っていた。
サーラは実際に目にして驚きから脱するのに時間がかかったが、ウォロンの援護として攻撃と支援の魔術を行った。
彼女達としては格上の相手と戦ったため、それなりに良い経験となっただろう。まだまだ未熟と言わざるを得ないのだが、連携も取れるようになった。
が、やはり基本の実力に差があり過ぎるため、ウォロンにしてみれば負担の大きな狩りだった。
だが、互いに背中を任せる程度の信頼関係は築けたはずだ。
軽口を言い、それを苦笑や微笑を浮かべて軽く流すくらいには。
三人が東門よりギルドを目指して大通りを歩いていた。
中央にウォロン。右にベラ、左にサーラ。
「んまぁ、今回もそれなりに狩れたかなぁ~」
首を傾げ、骨を鳴らしながら呟くウォロンにじと目でベラが睨む。
「あなたねぇ、Cランクのスチールスキン・ライノを四体も倒しておいて、それなりなんて言わないでよ。普通は援護があっても一人じゃ狩れない魔獣なのよ?」
サーラもまた呆れを隠さずに今回の成果を思い出す。
「他にも数が多いEランクの鬼が四十一体にDランクのアーミー・アントが三十四体でしたっけ……。数体程度でしたらFランクからDランクまでそれなりにっと……。私達の魔力と矢が尽きるまで援護して狩ったのに、一人で狩りした方がもっと大量に狩れるんですよね…………」
「慣れだよ。慣れ」
「この異常を慣れで片付けて欲しく無いわ……」
頭を抱えるベラとサーラに苦笑を浮かべるしかウォロンには出来なかった。
ギルドへと向かう途中、噴水のあるちょっとした広場へと入り、今度はウォロンがため息を吐き出す。小さく吐き出したため息を獣人の敏感な聴力で聞き取ったサーラが正面に視線を向けて納得したように目を伏せた。
二人の様子にベラが小首を傾げた。
「どうしたの?」
「客だよ…………ベラの」
「しつこいわね……」
ウォロンの一言で全てを察したベラ。
夕刻の人影も減った広場で待ち伏せしていたのは三人。
髪を短く切った男が敵意を隠そうともせず、堂々たる仁王立ちにて道を塞いでいる。背負う武器は斧であり、腰にはショートソード。どれほど待っていたのか解らないが、腕を組んで不機嫌そうにしている。
道行く人々が余りにも剣呑な雰囲気に当てられ、誰もが道の端へ避けて行く。
その背後に仲間らしき男が二人。呆れつつも仲間意識があるのか──放ってもおけず、さりとて一般民をも威嚇する男と仲間とまでは思われたく無い──そんな気持ちを表すようにちょっと離れ過ぎにも見える位置に立つ。
「待っていたぞっ、この時をっ!」
勝手に待っていたのは顎を何度か割って差し上げた、あの男だ。
さすがにウォロンへ向かって行くのは自殺行為だと何度目かの突撃で理解した男は、ベラにしか向かっていかなくなった。
「今日こそ俺と一緒に着てもらおうかっ!」
今では掛ける言葉が悪役になっている。
最初はウォロンのことを悪し様に罵り、自分と一緒に居る事がどれほど良いか、を懇々と諭すようにベラに問いかけていたのだが、まったく相手にされていない事に気づいた時から力任せに連れ出そうとまでしているのだ。
「邪魔よ」
ベラははっきりと断りの言葉を告げていたのだが、男は耳を貸そうともしない。
なぜか最初の頃は言葉巧みなウォロンに騙されていると考えていたのだが、今では実力のあるウォロンに無理やり従わせられていると考えているようなのだ。
自分に都合の良い方にしか頭が回らないらしい。
大きな、とても大きなため息を吐き出したベラはゆっくりと男へと近づいていく。
男はベラが近づいてくる事に満面の笑みを浮かべた。
が、歩みよりながら剥ぎ取り用に使うナイフを抜くベラの姿に驚愕の表情を浮かべ、憎悪の視線をウォロンへと向けた。
今度はウォロンの指示で武器を持たせたとでも考えているのだろう。
ウォロンは苦笑を浮かべるしか出来ない。
男はベラへ向かって笑みを浮かべ、優しく諭すように言葉を掛ける。武器を下ろすようにと伝えているようだ。
ベラは呆れ果てつつ、男の背後へ視線を向けると、仲間の男二人が諦めたように首を横へ振り、申し訳なさそうに頭を下げた。
それを目にしたベラが一足飛びに男へ近づくと、ナイフを逆手に構え、柄を顎へ向けて下から上へかち上げた。
口を切ったのか、血が弧を描きながら仰向けに大の字になって倒れた。女性の攻撃ではあったが、無防備な状態で受けたため、気絶もしている。
面倒だと言わんばかりに髪をかきあげたベラは仲間の男達へ視線を送り、さっさと片付けろと顎で動かした。
馬鹿を引き摺りながら去っていく男達をベラは一瞥する。
「いやぁ、今日も元気一杯だったな」
苦笑を浮かべたウォロンが声を掛ける。
「あなたが刺されれば良いのよ」
ベラが悪態つく。確かに今まで顎を割ってきたのはウォロンだが、そもそも絡まれているのはベラなのだ。明確に断っても諦めない男にも問題はあるが。刺されたら良いと言われる筋合いは無いように思うウォロンは意趣返しとばかりにベラへ向き直る。
「俺のグレートソードで貫くぞ?」
ウォロンが腰をくいっと前へ突き出す。何を意味するのか、すぐにベラは気づいたのだろう。
「いやぁ~ん…………」
恥ずかしそうに頬に手を当てて身体をくねらせたが、じっとウォロンの股間を見つめ、
「ショートソード?」
冷たい視線を向けた。
「誰が刃の欠けた投げナイフだって?」
誰もそんなことは言っていないのだが、売り言葉に買い言葉とばかりにまくし立て、互いに胸をぶつけあって睨み合う。
「往来で馬鹿な事言わないでくださいよ。早く行きますよ」
サーラが二人のやり取りが一段落した事を確認すると、呆れたとばかりにため息を吐き出し、ベラの腕を掴んで引き摺る。
女性二人が対話しながらギルドへ向かう姿を見ながら、ゆっくりと後を追う。
その視線はとても優しいもの。
ウォロンは楽しく生活出来ている今をとても大事に思っていたのだった。




