22 ギルドマスターの心配、にこめ。
次の支援は手渡した革の袋。
古代遺跡から時々発見される最も価値のある発見物であり、ウォロンの手元にあるのは『最上級の魔法袋』と呼ばれる品だ。この大陸にあるギルドの情報網で確認出来たもので、四つしか報告されておらず、未報告分があったとしても十は無い、最も希少価値が高い魔道具と呼ばれている。
魔法袋は食料や長期的に必要な物資などを大量に持ち運ぶのに重宝する魔道具であり、冒険者だけで無く、商人や貴族など欲しがる者は多い。
それなりに発見報告されている『中級の魔法袋』には大きな樽が五千、入る事を確認出来ている。それ以上は入らない。
だが、最上級と冠される袋となるとどれだけの量が詰め込めるのか、現在も不明である。上限が解らないため、最上級の魔法袋は無限に入ると言う者が居るほどだ。
魔道具屋で購入するとなると『最下級の魔法袋』しか扱っておらず、大型の馬車一台分ほどの量を収納出来る容量を持ち、販売価格は金貨数十枚という高額を支払う事となる。最下級で金貨数十枚である。中級となれば百枚は余裕で超え、最上級となると国が買えるほど高額となるだろう。
そして、生きたモノは入れる事が出来ない。魔法袋の中では時間の経過が遅いらしく、出来立て熱々のパンを袋へ入れ、数年後に取り出すと、まだ内部が熱いパンになっていたらしい。
ちなみにその袋は北方にある魔術国家ギャラクアで、唯一『最下級の魔法袋』のみだが作る事が出来る。
才ある魔術師を各国に輩出する魔術系統に特化した国家があり、錬金術にも造詣が深く、魔術師ギルドの総本山がある大国の一つである。
その魔術国家ギャラクアが持つ技術の粋を集めて作成して『最下級の魔法袋』が限界なのだ。
当然、『最上級の魔法袋』である事実は内密にする必要がある。袋を狙って襲撃する者が必ず現れるだろうし、国で管理していた魔道具をウォロンが所持している事が他者にばれると、それを口実に利益を得ようとする者も出てくる。
国が、おそらく賢王が強行に主張してまでそれほどの魔道具を渡した理由として、妖魔の森へ頻繁に行くのであれば、魔獣本体から討伐部位など、余すことなく大量に持って帰ってきて欲しいからだ。
森の奥へ行くのであれば食料や野営用の道具も簡単に持ち運べるようになるため、さらに大量に討伐が出来るだろう。
妖魔の森に出る魔獣達は脅威であるが、重要な資源でもあるのだ。大量に確保が出来るのであれば、ギルドとしても潤うし、市場へ流れれば活性もする。そこで生活する人々も潤う。その結果、最終的に国庫も潤う。
色々なリスクよりも、触れずに指を銜えるだけだった妖魔の森の資源を活用出来るリターンを重視している。また、この考えは賢王だけでは出てこない。当然、二人の男が助言したのだ。余りやる気の無い仕事を任せても逃げ出して放置するウォロンの性格を理解しているため、趣味と実益を兼ねた仕事を割り振ったのだ。
つまり、ウォロンには妖魔の森での討伐を主に行ってもらうという事だ。
ユーバの長い説明を聞いているような仕草を見せたウォロンは袋をじっと覗き込んだが、何も変化が無く、引っ張ったり、匂いを嗅いだりし、とりあえずとばかりに懐に手を入れてナイフを複数取り出し、袋へ投入。
見た目の容量に対し、それ以上の角ばったナイフを入れたが、重さも見た目にも変化は無く、手を差し入れて任意のナイフを取り出すという行為を数度繰り返し、袋の使い方は理解出来たようだ。
その様子を眺めたユーバが口を開く。
「さて、どれほど重要な事だったのか、理解出来たじゃろ?」
「………………すごく、良い袋のようだな」
求めた答えが返ってこない。しょうがないと笑みを浮かべようとして浮かべられなかった。顔を引きつらせ、苦い表情のままユーバは唸る。
ユーバは気づいたのだ。
だから、どれほど重要な道具なのか、そしてどれほどの人々から期待されているのかをもう一度口にしようとして、止めた。おそらく伝わらないだろうと理解した。
そして、ユーバが端的に表現した、討伐した魔獣は全てギルドに持ってきて換金したら良いと言う言葉に「あぁ、そう言うことか」と理解を示したウォロンが立ち上がる。
ユーバはギルドのマスターとして、賢王の友として、誠心誠意説明したつもりだった。断られる可能性もあり、不快に思うかもしれない部分はぼかし、また下手に出てお願いと言う形で伝えている状況を利用して更なる報酬を提示してくる可能性もあったからだが、それは杞憂に終わった。
伝え聞いている通りに政治に一切関心が無いのだ。
本人は便利な袋と換金方法を知るだけで十分。それ以上の事は考えようともしない。
表面上だけを見れば簡単な事だったと結論を出しても良い。
だが、先ほど気づいたのは簡単な相手だと認識した事では無い。裏を返せばとても危険だと理解したからだ。
本人の気持ち次第でどうとでも変わると言う事。
外部の利害関係はまったく考えないという事。
また、その我がままとしか言えない事を押し通す事が出来る実力を秘めている事……なのだ。
扱い易いように思えて、一番気を使わなければならない。なぜか無警戒に信頼をする賢王という最高権力者と繋がっているため、面倒だと邪険にも出来ない。
ユーバの思い悩みをまったく気にしないウォロンが去り行く。その背中をユーバは拭いきれない不安を抱えながら見送ったのだった。




