21 ギルドマスターの心配、いっこめ。
次の日。
早朝からギルドの受付にサーラが座っていた。青い顔をし、頭を抱え、時々水を飲む姿を見れば、どういう状況なのかすぐに分かるだろう。
二日酔いである。
時折唸りながら、苦笑を浮かべた同僚と苦笑を浮かべた傭兵達に気遣われながら、業務をなんとかこなしていると、見慣れてきた男が女性を連れて近づいてきた。
「何で私達の数倍飲んだあなたがそんなに元気一杯なのですか……」
どこか楽しげなウォロン。サーラと同様に青い顔して歩くのも大変そうなベラである。
「俺も酔いたいんだがな。ある一件から酔えなくなっちまったんだよ」
苦笑を浮かべるウォロンの言葉に疑問が浮かんだようだが、サーラもベラも口を開く事すら億劫そうにしている。
「んじゃ、今日もちょっくら森へ行って来るか」
「ちょっと待ってくださいぃ……うっぷ」
ウォロンが片手を上げて出て行こうとすると、頭を押さえたサーラから声がかかる。語尾が色々とやばそうだ。
サーラは色々と限界が近いようなので、別の職員が三階へとウォロンを連れ出した。
三階の奥にある部屋へ通されると、中にはソファーに座る老人が一人待っていた。
白髪を伸ばし、ウォロンのように髪を後ろで結んでいる。顔の皺を見れば高齢であるだろうとは思うのだが、目に宿る意思がまだまだ現役と言わんばかり。腕や首は太く、鎧の如き筋肉に衰えとは無縁に思われる。
「よく来た。お前は戻っていいぞ」
案内してくれた職員を帰すと、老人は獰猛な笑みを浮かべて対面に座るよう促す。
好戦的な笑みに対し、ウォロンもまた同様の笑顔を浮かべて座る。
そこからは互いに無言で睨み合う。
視線を動かし、互いの動きを牽制しているのだ。
脚、指、腕、首と常人には解らないであろうわずかな動きで座った状態で戦っていたのだ。
どれほどの時間が経ったのか…………。
睨み合う姿に変化が目に見えて解るようになった。
老人は額から汗を流し、呼吸も少し荒くなっている。それに対してウォロンは涼しげな笑みを浮かべたままだ。
さらに時が経ち、老人が大きく呼気を吐き出した。
「末恐ろしいな……まったく歯が立たんとは……」
「ジジイにしては良い腕だな。ここへ着てから初めてそれなりに戦える人間に会った」
「……それなり、か……。さすが異大陸からの来訪者よな」
老人の言葉に初めてウォロンの表情に変化が生まれた。
「はっはっは、レダの賢王とは酒飲み仲間よ。昨日になってお主の事を耳にしてな。それでご足労を願ったわけじゃ。ワシは傭兵ギルド、レダ国支部長のユーバじゃ、よろしく頼む」
「登録したばっかりのFランクのウォロンだ。よろしく。それで用件は?」
「うむ。先に国より説明があれば警戒せんで良かったんじゃが、ギルド登録が先じゃったからな。少し不便をかけたの」
「いや、かまわんよ。不信に思うのは当然だろ。俺たちですら自分の立ち位置を探すのに必死だからな」
「ふむ。そこで賢王から預かった物があってな。それと今後のお主の行動に便宜を図って欲しいと言われての」
ユーバはそう言うなり、懐から取り出した。まず最初に、と渡されたのは腰に下げる程度の丈夫そうな革の袋。
怪訝そうに袋を手にしながら説明を求めると、ユーバは人好きしそうな笑みを浮かべて口を開いた。
ギルドマスターとして、今朝になってウォロンへ対する情報収集(監視も含む)を取り止めにし、全面的に支援する事を通達した。また、プロングスとトナにも後日時間が有る時に登録しに来るように伝えてあるそうだ。
ギルドマスターのお墨付きとなったため、今後は表向き傭兵ギルドのレダ国支部が後ろ盾となる。
利点は色々な便宜をギルドとして図る事が出来る。欠点はそれを良く思わない者が当然出てくるため、それに対しては個別でギルドが対応する事とする。
ユーバがしつこいくらいに口にしたのは後半部分の欠点にあたる説明だ。何かあればギルドへ報告して欲しいと念を押すように伝えてくる。
それは、ウォロンに独断で余り動いては欲しく無いからだった。過激な方法しか知らないと賢王との謁見時に同席した二人の男達から忠告を受けたから。
だが、何度も説明するユーバは眉を寄せた。耳を傾けてくれたウォロンが首を傾げるのだ。どう見ても理解しきれてないように感じたため、いい加減に面倒になったユーバが諦めたように告げる。
ウォロンの立場をユーバ個人の秘蔵っ子としても良いかと。ウォロンの情報を知りたければギルドマスターを探る必要があるとしたのだ。よほどの馬鹿で無い限りこれ以上の詮索は出来ないだろう。どこのギルドであれ、ギルドマスターへ喧嘩を売ってただで済むはずが無いし、済ますつもりも無い。
ウォロンは頷くだけで今の話が終わると、ユーバの色々な努力とこれからの努力を無にするような理解をし、「それで良いよ」と簡単に返事をした。
ちょっと短いかも(´・ω・`)




