10.
ジェシカは戦いから一時離脱してトライセラのところに来た。するとトライセラは見るからに取り乱し始める。
「うわあああああ! ジェシカが来たぁぁぁぁぁ! 嫌だぁぁぁぁぁ!」
「殿下、落ち着いて、早まってはなりませんっ!」
「彼女は味方ですっ! 殿下ッ!」
トライセラは恐怖のあまり、あろうことかジェシカに斬りかかってくる。だが、王子の剣などジェシカに届くはずがない。
「わあああああ!」
「休息のために眠れ。必殺イーヴィルテイル!!」
ジェシカは向かってくるトライセラの剣を己の剣ではじき返した。カウンター技だ。そしてトライセラをその勢いで吹っ飛ばして地面に叩きつけてしまった。
「ぎゃあっ!」
「殿下ぁぁぁぁぁ!」
「ジェシカ殿、なんてことを!」
コアトルとコークは倒れたトライセラの側に寄った。幸い気絶しただけのようだが、ジェシカのしたことは恐ろしいことだ。
「安心されよ。峰打ちだ」
「それにしても派手ではないか!?」
「もっと穏便な方法はなかったのか!?」
「問題ない……貴殿も望むか?」
「いえ、問題ないですはい」
コアトルとコークもジェシカに怒りに近い感情を抱くが睨まれただけで何も言えなくなる。ジェシカと敵対したくないため、これ以上文句を言って機嫌を損ねるわけにはいかない。すると、いつの間にかリリィがトライセラの側まで来ていた。
「ジェシカ。この人は任せて。これでも婚約者だから」
「分かりました。戦場に戻ります!」
「はい、いってらっしゃい」
リリィは笑顔でジェシカを送り出し、ジェシカも満面の笑みを返して戦場に戻った。こんなやりとりをコアトルとコークは信じられないものを見るような目で見ていた。
「……あんなに容赦ない恐ろしい女騎士が満面の笑顔……」
「リリィ嬢、ヒーリングプリンセスの名は伊達じゃないですな……」
ジェシカが戻った戦場では近衛兵は後三人だけ。三剣士サム、マル、ベルが残っていた。そして、用心棒の二人ショウとフィルは相当消耗しているらしい。二人で格上三人を相手にするのは厳しかったようだ。
「あ、ジェシカ、もう戻ってきたのかよ~……」
「もう少し王子様を相手してても良かったのに~」
からかう口調だが見た目どおりきつくなっていることはジェシカにはお見通しだ。
「二人こそ休め。後は私がやる」
「そーかい。譲ってやっか……」
「えへへ、かなわないな……」
ジェシカは三剣士の前に出る。ただ、彼らもショウとフィルとの戦いで二人ほどきつい状態だった。ジェシカと向かい合うのは老剣士サムだけだ。




