第七話 棘心の砲撃手
元盗賊、ノワレと出会い、近くの街にたどり着いた俺たち一行。
その街で俺は今、無数の棘付き砲弾を浴びています……やばい。
俺は後ろに下がりながら『リンドウ』で小さな砲弾を弾いていく。予想外の攻撃だったので捌ききれず、後ろに思いっきり転んでしまった。
「うーん。これじゃ死なないか〜」
「充分死にかけたっすよ!」
ファウナと名乗った女が、今度は横にいたグラン様とノワレに『ラフレシア』の砲口を向ける。
つられてそちらを見ると、なにやら二人は言い争っている。
「グラン! ウチの『シオン』返して!」
「断る。お前も暇ならテルスと共に住民を避難させろ」
「もう! 『シオン』の能力はあの『ラフレシア』と相性いいから返して!」
「『シオン』の能力?」
その時ラフレシアの三発目が二人の方へ迫る。それを見たグラン様は、瞬時に立ち上がり避けるための予備動作を開始した。
……俺は見逃さなかった。
グラン様が立ち上がった瞬間、ノワレはグラン様のズボンの腰に引っ掛けられていた『シオン』を綺麗に抜き取ったのだ。
めっちゃ手際良いというか……手癖が悪い。そう思って見ていると、次の瞬間不思議なことが起こった。
二人の眼前に迫っていた砲弾が急に進路を変え、二人の横を回って後ろに抜けていったのだ。
砲弾がひとりでに二人を避けていった形だ。ファウナは忌々しそうに舌打ちなどしている。
グラン様は完全に避けるつもりでいたのに肩透かしを喰らい、呆然とノワレに問いかける。
「これが『シオン』の能力か?」
「そうだよー。『シオン』はね、物体を公転させられるんだ」
公転? つまり、地球が太陽の周りを回るように、自分を中心に物を回転させるってことか。
遠距離系の武器とはとことん相性良い能力だな。
砲弾を回避されたファウナは、今にも噴火しそうなほどに顔を赤く染めている。
「ちっ。『シオン』か……なめやがって」
ファウナとしてはやはりやりづらいようで、四発目を撃つのを躊躇っている様子だ。
これを好機と捉え、グラン様が仕切り直して指示を出す。
「しょうがないな……雄助、ノワレ、三人で包囲するぞ!」
ノワレはほぼノータイムで動き出した。ファウナの背中を取り、いつでも攻撃できるぞと彼女を牽制するノワレ。
俺は少し遅れてファウナを囲む位置に走った。三方向からファウナの行動に目を光らせる。
「うーん。どうしよっかな〜」
ファウナはそういってフリルをひらひらさせながらくるっと回り、俺の方に『ラフレシア』を向けた。計画通りだ。
俺はかわす必要があるが、他の二人はこの隙に攻撃できる。三人で囲むことの利点はここにあるのだ。
「グラン様、ノワレさん、今っす!」
『ラフレシア』が火を吹いたのと同時にグラン様とノワレがファウナに向かって走り出した。
しかしファウナのすぐそばまで二人が迫った瞬間、ファウナは自分の足元に向けて再び『ラフレシア』を発射する。
すると俺の方に飛んできていたはずの鉄球は綺麗に消え去ってしまった。
代わりにファウナの足元に直径十メートルはありそうな超巨大な鉄球が生み出され、ファウナの体がふわりと宙に浮いた。
ファウナはそのまま宙を舞い、先ほどまでノワレがいた方向に着地した。要するに、簡単に包囲網を掻い潜られてしまったわけだ。
「なかなかやり手だな」
「あの超巨大な砲弾を撃った時、前に撃った砲弾が消えたっすよね! もしかして一発ずつしか撃てないんすかね?」
俺がそう言った瞬間、石ころサイズの砲弾が大量に吐き出された。
慌てて回避する俺たち三人。
そうだった。一発ずつしか撃てないならこんな使い方できないはず。
ということは……
「『ラフレシア』は撃てる弾の体積に上限があるようネ。数は関係なさそうだワ」
リンゴが解説してくれた。
要するに射出した弾の体積が一定の値を超えると、古い方の弾から消えていくわけだ。
……ならどうすれば良いんだ?
残念ながら相手に合わせて最適解を出せるほど、俺には戦闘の経験値が無い。
こういう時はとにかく自分にできる事をやるしかないのだ。とりあえず近づいて投げ飛ばせる体勢を作りたい。
「とにかく動き回りながら接近するぞ。砲口は一つしかないからな」
グラン様がこの短い時間で有効な作戦を弾き出す。流石の戦闘経験値だ。
俺たちはそのままファウナに対して別々のルートで襲いかかっていく。
俺は最前線で左右にステップを踏んでファウナを撹乱する。
ファウナはやはり『シオン』を警戒しているようで、なかなか照準が定まらない。
「うーん。王子様の割にはなかなか脳筋だね〜」
「そう褒めるな。背中が痒くなる」
褒めてるかなそれ?
とは言え作戦は効果覿面だったようで、ファウナはひたすら後退していくしかない。
あと一歩でファウナの腕を掴めるところまで追い詰めた時、おもむろにファウナが砲口を真下に向けた。
……さっきもやっていた、超巨大な砲弾で離脱するやつか!
「そのまま刺さっちゃえ!」
予想通り『ラフレシア』から十メートル級の棘鉄球が発射される。俺は慌ててブレーキをかけ、鉄球の棘に刺さるのを回避した。
しかしグラン様とノワレはそのまま止まることなく、むしろ発射された鉄球の棘を足場にしてファウナの元へ駆け上がっていく。
「ちょ、来ないでよ!」
ファウナは駆け上がってくる二人に砲口を向ける。そして再び砲弾が発射された瞬間、二人が足場にしていた鉄球は消え去ってしまった。
代わりに二人の眼前、すぐにでも刺さってしまいそうな距離に新たな棘鉄球が出現した。足場の無い空中では、まさに致命的ともいえる状況だ。
「まずいか……」
「ウチに任しといて」
しかし二人が砲弾に突っ込みそうになる瞬間、それは急激に進路を変えた。
ノワレの周囲をぐるっと周り、ファウナを横から叩く棘鉄球。
「……っ! 小賢しいっ!」
ファウナはギリギリで『ラフレシア』本体を盾にして、身体への直撃を避けた。
あまりにも『ラフレシア』と相性が良すぎる『シオン』に、ファウナは怒りを隠せていない。
鉄球をぶつけられた勢いで、地面に墜落して土埃をたてたファウナ。
「今だ雄助!」
空中にいるグラン様に言われるまま、ファウナの元へ走る。土煙が舞っていて姿が見えづらい。
しかし、俺にははっきり見えた。ゆっくりと着地しようとしているノワレを狙う砲口の、ワインレッドの輝きが。
俺はその輝きを目印にファウナの腕を掴んだ。骨ばった華奢な腕の感触に、無意識に力が緩んでしまう。
しかし、あとはちょっと心苦しいけど投げるだけ……!
「な、離して!」
「これ以上街を荒らすのは許さな……」
そこまで言った瞬間、目の前を綺麗な紫の布が覆った。慌ててファウナの腕から手を離し、後ろへ転びながら距離を取った。
晴れていく土煙の中から、ファウナのものとは違う、力強い女性の声がする。
「……うちのファウナが世話になったね。ここらでお開きにさせてもらうよ」
土煙が完全におさまった。晴々とした空間に足を踏み締める女性。
長い赤毛を煌めかせ、紫の宝石があしらわれた金の王冠を載せた騎士風の女性がそこにはいた。
端正な顔は自信に満ち溢れており、恐らく敵であろうと分かっていながらも惹かれてしまうカリスマ性を備えていた。
彼女はその身長よりも長い旗を地面に突き立て、ファウナを片腕だけで支えている。
「アコ様ぁ! ファウナ、アーククラフトとれなかった〜……」
「ファウナ……あたしはケミアに行けって言ったよね? ここは違うよ……」
「え? ……ごめんなさいアコ様ぁ……」
「まったくしょうがない子だよ……」
何が何やら分からないままその会話を聞いていると、ノワレがアコ様と呼ばれた女性に詰め寄っていく。
「アコ!」
「ノワレ……あんたもしつこいね。そんなんだからひとりぼっちになるんじゃないのかい?」
アコがノワレを一瞥して口角を釣り上げた。どうやら知り合いだったようだ。しかも何やら修羅場っぽい。
痺れを切らしたグラン様が口を挟む。
「個人的な問題は後にしてもらえるか、ノワレ。貴様らは何者だ」
「ああ、例の王子様だね。初めまして、あたしはアコ。あんたらと同じ御使いだよ。……このくそほど忌まわしいアーククラフトのね!」
唐突に激昂したアコが地面を蹴り、グラン様に襲いかかった。
旗を用いたロングリーチの打撃。そして旗がひらひらと舞い、なにやら液体がしたたっている。
「旗型のアーククラフトか……その液体が能力か……?」
「さあね? 今はあたしに集中してもらおうか!」
しばらく旗とレイピアによる打ち合いが続く。グラン様も相当な使い手のはずだが、むしろ少しアコに押されているようだった。
俺も慌てて『リンドウ』を抜き、グラン様のサポートに入る。
しかし感触は良くない。真横からいきなり介入したのだが、まるで横に目がついているかのように完璧に対応されてしまった。
「ん? あんたの太刀もアーククラフトなの?」
「……どうっすかね?」
「……ははっ。そりゃああたしが言わないならそっちも言わないのが自然だね。失礼したよ」
どうにも掴みどころがないというか、舐められている感じがする……
ならば!
俺は『リンドウ』を投げ捨て、アコの旗を掴んだ。
一瞬ギョッとした顔を浮かべるアコ。俺はその腕を掴みなおし、投げの体勢を取ろうとする。
アコはそれに対して、掴まれていない方の腕を俺の顔面に向けて伸ばしてきた。恐らくは反撃のパンチを狙っているのだろう。
しかし、たとえ一発食らってでも投げて仕舞えば組み伏せられるはずなので、俺は歯を食いしばって殴られる覚悟を決めた。
……いや、何かが違う。アコはその手を硬く握りしめてはいない。脱力して手のひらをこちらに向けているのだ。
明らかにパンチをするつもりなど無いのが分かる。なんか多分やばい!
アコの手が俺の顔に当たる直前、グラン様が俺の襟首を掴んで後ろに引っ張ってくれた。
「雄助。あの液体はおそらく……毒だ」
アコの両腕と旗から滴る液体は、心なしかどす黒く濁っているように見えた。




