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神代の御使い  作者: 逆巻多巻
ノワレ編
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第六話 突然の不審者

「ウチも王都に連れて行ってくれませんか、王子様?」


 不審者の女が上目遣いで宣う。

 ダウナー気味で、落ち着いた声。

 グラン様がものすごく怪訝そうな顔で答える。


「断る。第一、誰なんだ貴様は。なぜ王都に行きたがる?」

「ウチはノワレ・オルベール。王都に行きたいのはー……道に迷ったから?」


 なんで疑問系なんだ。絶対良からぬことを企んでるだろ。


「道に迷ったのならまず目的地を言え」


 真剣な顔でもっともな事を言うグラン様。


「あー……世界の果てのどこかだよねー……」


 悟ったような目をして俯くノワレ。やっぱ嘘じゃねぇか。

 二人のやり取りを見かねてテルスさんが口を挟む。


「ノワレ・オルベールと言えば、盗賊団ミツバチの幹部に同じ名前があったはずですが?」


 盗賊団!?

 めっちゃ怪しい人じゃん!


「あ、そうそう。それウチ! ミツバチはもう無くなっちゃったけどね!」

「ならなおさら王都には入れられんな。盗賊を招き入れる王子など、この世界のどこにもいないぞ」


 俺の元いた世界にもいないな。

 それにしても元盗賊が王都に行くのにわざわざ王子に接触してくるのは何故だろうか。


「まあまあまあ。この先に街があるからさ、続きはそこで話そうよ! 実は交渉材料も持ってるんだよね。……ニロビが持ってたアーククラフトの出どころ、知りたくなーい?」


 ニヤニヤと笑いながら情報という餌をちらつかせるノワレ。

 ニロビのアーククラフト、『アサガオ』のことか。


「なんであんたがそんな情報を握ってるんすか?」

「ウチが昨日までニロビの部下だったからだよ」


 そう言えばニロビがグラン様に追い詰められた時、"この前配下になったアイツ"と叫んでいたな。

 なおさら信用できないだろ!

 とは言え、ニロビの元部下からのタレコミなら逆に信頼度は高いのか……?

 グラン様は少し逡巡し、ノワレの手に下がっているトンファーへ目を向ける。


「……分かった。話だけは聞く。その代わり、その手に持っている武器。アーククラフトだろう?」

「ああ、確かにこのトンファーはアーククラフトだよ。『シオン』って言うんだ」

「それをこちらに手渡せ」

「うーん、まあ良いよ。『シオン』は渡すねー、はいっ!」


 そう言ってノワレは『シオン』をこちらへ放り投げた。それをグラン様が回収し、ノワレを馬車の方へ手招きする。


「お邪魔しまーす!」


 馬車に四人で乗り込み、この先にあると言う街へ進路を定める。

 それぞれ簡単に自己紹介を済まし、何から話そうかと考え始めた時だった。


「ヤレヤレ、なんとかなったようですわネ。ノワレ」


 五人目の声が聞こえた。それもノワレの鞄の中から。

 俺とテルスとグラン様は思わず顔を見合わせてから、声の出どころへ目線を逸らした。ノワレは勝手に飼っていた子犬が母親に見つかった時みたいな顔をしている。

 驚いて固まっていると、ノワレの鞄がもぞもぞ動き出し、ひとりでに口が大きく開いた。

 中から出てきたのは……くまさん人形? いやそれにしてはかなりメタリックだけど。

 白銀色のボディーに光を反射する目玉、腕には三本の真っ赤なボルトが輝いている。だがしかし絶対にくまさんである。ふくよかボディーにまんまる目玉、短い腕の先には肉球が覗いている。正直可愛い。


「ノワレ……さん? これはなんなんすか!?」

「そもそも何故人形が喋っているのですか!?」


 俺とテルスさんが我先にと質問を飛ばす。

 俺たちとしてはノワレに質問をしたつもりだったのだが、返答はくまさんの方から返ってきた。


「ワタクシは『リンゴ』。人形型のアーククラフトですワ」


 アーククラフトとは神の時代の兵器、というグラン様の言葉を思い出す。


「……これが戦争で役に立つのか……?」


 グラン様が『リンゴ』の目を見て訝しむ。


「ワタクシは特別製なのですワ。"自我を持つ"という能力を持ったアーククラフトでして、いわゆる記録媒体として作られたんですノ」


 なるほど。戦争の記録だったりアーククラフトの性能だったりを後世に残すために作られたのか。


「ということは、アーククラフトの能力は全部わかるってことっすか?」

「ワタクシが実際に見たことがあるアーククラフトなら大抵分かりますワ」

「じゃあ例えば俺の『リンドウ』はどうっすか?」

「『リンドウ』は刃の部分で触れた魔力を吸収できる能力ですわネ。ちなみに吸いすぎると暴走して最悪死にますワ」

「マジっすか!?」


 危なっ! 怖っ!

 俺昨日結構吸ったぞ!? でもそう言われてみると体めっちゃ熱かったよな。あれが暴走のサインだったのかな……


「あの、じゃあ『エンシェント』は?」

「『エンシェント』? 知らないですワ。アーククラフトには基本的に植物の名前が付けられるものですし、そんなアーククラフト聞いたことないですワ」


 流石にそんなに上手い話はないか……

 アーククラフトの記録用に作られたらしいリンゴが知らないとなると、捜索は難航を極めそうである。

 するとグラン様が、我慢していたことを吐き出すようにノワレに詰め寄る。


「それよりノワレ。私はアーククラフトを渡せと言ったはずだぞ? なぜリンゴを一緒に渡さなかったのだ?」

「ウチは『シオン』を渡すって言ったよ?」


 トンチじゃねぇか! でも確かに言ってた気がする。

 グラン様はちょっと嫌そうな顔をしてノワレを睨んでいる。一触即発の雰囲気の中、馬車が目的の街へ到着したようで、ガタンと揺れが来た。


「……まあ良い。とにかく、ニロビのアーククラフトの件についてはしっかりと説明してもらうぞ」


 不服そうなグラン様と共に馬車を降り、街へ踏み入る。

 ケミアよりは小さな街で、小高い山にでも登れば全体が見渡せそうな感じだ。ケミアでも思ったが、建物は大抵木造か石造りになっており、鉄筋コンクリートなどの現代的な技術はまだ未発達のようである。

 それにしても流石は王子様、ここでも街の人たちからの視線はグラン様に集まっている。

 こんなに視線がある中だと重要な話はできないな。


「とりあえずどっか人が少ない方に行かないっすか? これだけ人が多い中だと……」


 俺の提案はすんなり受け入れられ、少し先にあるというこじんまりしたレストランへ足を進める。

 ちなみに案内はノワレさんがやってくれている。前に来たことがあるようだ。

 ノワレさんがアルトケス王国の人なら、王都に行きたい理由が本当に分からないな。


「ところで、ノワレさんが王都に行きたい本当の理由ってなんなんすか?」

「ノワレで良いよー。……まあ、人探しかな。王都は人が多いから、そういうのには向いてそうだし?」


 これはどうやら本当っぽいな。元とは言え盗賊の人探しって、なんか不穏だな。

 しばらく歩くと目の前に、大きめの木造家屋が見えてくる。ノワレ曰く、人は少ないが料理は美味い、穴場的なレストランらしい。


「さっきよりはみんな打ち解けたんじゃないかなー? これなら食事も楽しめそうだね!」

「……貴様が言うことか?」


 グラン様が呆れたように言った。

 ノワレが来る前はちゃんと和やかに会話してたし、これはグラン様が正しい。

 そんな軽口を叩いていると、店の前にフリフリした服を着た女が見えた。

 この世界に来てから初めて見るゴスロリだ。

 年齢は十代、華奢な印象の女性。腕や首に包帯を巻いている。

 隣には布でぐるぐる巻きにされた二メートルくらいの何かが置いてある。ちょっと嫌な感じだ。

 その女はレストランに向けていた目をこちらへスライドさせた。黒い髪に真っ赤な瞳。ゴスロリとしか形容できないフリル満載の服に、華奢で真っ白な肌。

 こっちの世界にもこういう文化あるんだなーなんて考えていたら、向こうから俺たちに声をかけてくる。


「あ〜。お兄さん、御使いさんですか〜?」


 俺の腰に下がっている『リンドウ』を指差し、甘ったるい声を響かせる彼女。その目を見つめた時、俺の全身に悪寒が走った。

 これダメな人だ。

 警察官だった親父が昔言っていた。ネジが外れた人間は目で分かるって。彼女の瞳からは生気を感じない。

 リンゴよりもよっぽど人形のような目をしてる。俺は危険を感じて『リンドウ』に手を掛ける。


「みんな気をつけて、あいつは……」


 神妙な面持ちのノワレがそこまで言ったところで、女は側にあった何かから布を引っぺがし、『それ』をこちらへ向ける。

 二メートルはあろうかというそれは……大型の大砲、ランチャーだった。

 彼女はそれを両手で持ち、その砲口を俺たちに向ける。


「あなたたちのアーククラフト、頂戴?」


 彼女の声と共に、ランチャーから轟音が響く。その砲弾はただの砲弾ではなく、明らかに砲口より大きな棘だらけの鉄球だった。

 直径三メートル以上はあるその砲弾は、すんでのところで横に跳んだ俺たちの背後へと飛んでいく。

 幸い後ろには人はいなかった。その代わり地面が大きく抉れ、後ろにあった家の柵が粉々に砕け散る。

 明らかに普通のランチャーではない。色もなんかワインレッドでゴテゴテしてるし、あれは……


「アレはアーククラフト、『ラフレシア』ですワ! あらゆる大きさの棘鉄球を発射できますノ!」

「あら、よく見たらノワレにリンゴじゃない。最近見ないからどっかで死んでるのかと思ってたのよ」

「あんたこそこんなところに一人で……ご主人様には捨てられたのかな?」

「……生きて帰れると思わないで」


 そう言った彼女の『ラフレシア』から二発目の砲弾がノワレに向かって飛ぶ。

 ノワレはギリギリでそれをかわした。後ろにあった二階建ての民家が、一階の大部分を失って崩れていく。


「テルス! 住民の避難を!」


 グラン様の号令と共にテルスさんが走り出す。


「何者なんすか、あんた! なんで俺たちを狙うんすか!」

「ファウナはね、ファウナって言うの〜。あなたたちのアーククラフトが欲しいんだ〜……あとそっちのチビは殺す」


 ノワレにえげつない殺意が向けられている。深い因縁があるようだが、これは触らない方が無難か。

 次の瞬間、砲口がまたも俺に向けられる。

 しかし『リンドウ』を構えた俺に向かってきたのは、三メートルを超える巨大な球ではなく……

 直径十センチほどの小さな棘鉄球、それらが無数に乱射されたのだった。

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