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神代の御使い  作者: 逆巻多巻
アーククラフト戦争編
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第六十二話 遊撃の鉄鎖

 アルトケス北門。


 モルヴァの森、果てはフリス公国へと繋がる門である。


 ここに襲撃をかけたのはギースケスの王選神兵長カイナリン・カイナ。


 神獣の密売で裏社会に顔を売った彼女は、神獣の兵器利用という策を持って軍隊に自分を売り込んだ。


 それを可能にさせたのが、彼女の首にかかる鎖型アーククラフト『スイレン』。


 その能力に、アルトケス最強の"剣聖"アハト・フィルツィーヒは苦しめられていた。


「キリねぇなこれ」


 さっきから何度大太刀を振ったことか。

 アハトの腕はとっくに限界を迎えていた。


 アハトの『ヒマワリ』が次々と神獣たちを切り捨てていく。


 ヨブコオオカミ、フウセンタカ、デコイモグラ。

 他にもヘビやクマにウマといった神獣たちが、北門のすぐそばに跋扈していた。


 その数、数百体。


 アハトが居なければ一瞬で壊滅してもおかしくないのがここ、北の戦地である。


 そんなアハトに一つの朗報が届いた。


「隊長! 援護いたします!」


 東側を守っていたネロセーヌと近衛兵が、アハトの元に到着した。


 東側には三国同盟の兵は来なかったので、最も近い北の戦場へと駆けつけたのである。


 近衛兵達は到着し次第、神獣の一部を引き受けてアハトの負担を減らしにかかる。


「ネロセーヌ殿!? 東側にいとかないと……」

「隊長、ソルカは南だそうです」


 それを聞いた途端、アハトの表情が曇る。


 彼を含むアルトケス側の予想では、ソルカは西に来るはずだった。


 西側が最もエスピケスに近く、ソルカという巨大戦力を活かしやすいと踏んだからである。


「南か……早くいってやらねぇと、グランセーヌ殿も無事じゃすまなさそうだな」

「ええ。……カイナリンですか。また面倒なのが来ましたね」


 カイナリンについては情報があまりにも少ない。


 彼女が軍に入ったのはつい最近のことであり、アルトケスを含む他国に流れている情報は少なかった。


「そうだな。アーククラフトの能力もはっきりしないからな……まあ動物を操る系だとは思うけど」

「動物を操るなら、人間も操れるんでしょうか?」

「……あんまり考えたくはないな」


 アハトは嫌そうに目を細めた。

 現実逃避しそうになり、慌てて気を引き締める。


 すると、上空から舐め腐ったような甲高い声が聞こえてくる。


「ニヒッ。待ってたよアハトさーん? 元気ー?」


 カイナリンがフウセンタカの背中に乗って現れた。


 神獣の成体は人間を含む動物を主食としており、フウセンタカも例に漏れず人間を食う。

 背中に人間を乗せて飛ぶなど考えられないことだった。


 この事実からも、彼女の持つアーククラフトが動物を操る能力を持っていそうだという確信が得られる。


「カイナリンだな!? 元気だ! お前は元気か!?」


 アハトが元気よくカイナリンに返事をした。

 それを聞いてカイナリンは馬鹿にされたと感じて眉を顰めた。


 ネロセーヌがアハトの脇腹を肘で強めに突く。


「隊長。目的をお忘れですか?」

「すまん。カイナリンはきっちり捕らえて情報吐かせるよ」

「頼みますよ」


 小声での会議を終わらせ、ネロセーヌがカイナリンに向き直る。


 当初から、アハトが対峙した敵の御使いは捕らえて情報を引き出すという方針を決めていた。

 カイナリンを生け捕りにするため、隙を探る二人。


「カイナリン、あなたたちはなんの正当性があってアルトケスを攻めるのですか!」

「ボクも知らなーい。ボクはお金もらえるからやってるだけだしね〜」

「なら金やるから引いてくれよ」


 カイナリンが真顔になってアハトに詰め寄る。


「あんたんとこの国は国家予算の一割、出せる? エスピケスとギースケスは出したよ。これが覚悟の差ってやつだよね?」


 一方的に言いたいことを告げると、カイナリンはフウセンタカと共に再び上空へと飛び上がった。


「俺には覚悟が足りないって言うのか?」

「そうだよ。だから負けるんじゃん?」


 カイナリンがニヒルに笑って下を指差した。


 その瞬間、アハトの足元からデコイモグラが顔を出す。


「ニヒッ。デコちゃんはやっぱ便利だなあ。いっぱい連れてきてよかった!」


 次の瞬間、アハトとネロセーヌがいる地面が大きく抜けた。


 雄助たちの時と同じように、デコイモグラによって大きな窪みへと引き込まれてしまったのだ。


「これ雄助たちが戦ったやつか?」

「そのようですね……」


 地面にぽっかりと空いた窪みの底で、二人の周囲に無数の泥人形が現れる。


「報告にあったより泥人形が多いですね」

「まあ、モグラは複数体いるだろうな……」


 アハトの予想通り、その場には十体ほどのデコイモグラが潜んでいた。


 アハトとネロセーヌはそれらを一体一体地面から引き摺り出して処理していく。


「隊長!」

「そのまま固定しとけ!」


 ネロセーヌが『シロツメクサ』のツルで固定し、アハトが『ヒマワリ』で叩き斬る。

 細やかな連携攻撃が、デコイモグラの優位を許さない。


 二人がデコイモグラを処理し終わり、窪みから這い上がるまでに十分も掛からなかった。


 カイナリンは忌々しそうに二人を睨んでいる。


「ふーん。ソルカさんの言う通り、ちょっとめんどくさいんだね。じゃあ次はこの子達ね!」


 カイナリンの指パッチンと同時に、シンカイワシの群れがアハトとネロセーヌに突っ込んできた。

 イワシは単純な人型であり、素早い動きで二人を撹乱する。


「……ネロセーヌ殿。カイナリンの動きおかしいよな?」


 背中合わせになった二人は、イワシの動きに目を配りつつ話す。


「何がおかしいのですか?」

「デコイモグラと同時にシンカイワシをけしかけて来ればよかっただろ。なのにむざむざデコイモグラを失ってる。多分だが、俺たちを殺すつもりは無い」

「……時間稼ぎですか」

「考えてみれば当然だが、ソルカが来るのを待ってるんだろうな」


 アハトが『ヒマワリ』を両手で固く握る。


「……今何を考えてます、隊長?」


 ネロセーヌは嫌な予感がして冷や汗をかきながら尋ねた。


「ネロセーヌ殿と同じことだな」


 アハトが『ヒマワリ』を大きく振り抜いた。

 遠心力を巨大化する能力が炸裂し、周囲の木々が吹き飛ばされるほどの暴風がシンカイワシを薙ぎ払った。


「時間稼ぎに付き合う気はない! 情報は別のやつに吐かせる。カイナリンにはさっさと退場願うぞ!」

「残念だけど、まだまだボクと遊んでもらうからね?」


 未だに百体以上残っている神獣達がアハト達の息の根を止めようと迫り来る。


 しかし、次の瞬間カイナリンは唖然として言葉を失った。

 彼女の目の前で、強大な力を持つはずの神獣達が次々と葬られていくのだ。


 アハトが『ヒマワリ』を振るうたびに神獣達の巨体が吹き飛ばされていく。


 一瞬のうちに、アハトの周囲から神獣の気配は無くなった。


「……嘘でしょ。こんなに強いの!?」


 カイナリンは先程までの余裕を完全に無くし、フウセンタカを飛ばしてアハト達と出来る限り距離を取る。


「やばいやばい……このままだと時間稼ぎにもならないよ……ソルカさんに怒られる……」


 カイナリンの一人言をよそに、アハトとネロセーヌはどんどんカイナリンの方へ近づいてくる。


 カイナリンがしばらく打開策を考えているうちに、神獣の数は当初の半分ほどまで減ってしまった。


「カイナリン! 打つ手が無いならもう諦めたらどうですか?」


 ネロセーヌが『シロツメクサ』でヨブコオオカミを締め上げながら高らかに叫んだ。


 カイナリンはそれを聞いても唇を噛んで睨みつけることしか出来ない。


「調子に乗るなよ、王子風情が! ボクにだって隠し球くらいあるんだよ!」


 そう言うとカイナリンは鎖型アーククラフト『スイレン』を首から外し、8の字を作った。


 その8の字をアハト達の方へ向けた時、『スイレン』から桃色の光が溢れ、周囲の空間を妖しく満たした。

 目が眩むほどの光を遮ったのは、赤色の巨体。


 グググと心臓を握り潰すような唸り声をあげ、8の字になった『スイレン』から顕現した死の象徴。


 大きな翼に鋭い手足の爪、まさに王者にふさわしいうねりを帯びた角。


 十メートルを超える巨大な龍がそこに聳え立っていた。


「ツバサトカゲか……デカいな」

「……あれはドラゴンですね。ツバサトカゲに近いですが、火を吹くのでドラゴンという別の属に分類されています」

「……火を吹くトカゲってことで良いのか? 結構強そうだな」

「全ての神獣の中でもトップクラスに強いですね」


 ドラゴンの龍鱗が逆立ち、低い唸り声が戦場に響き渡る。

 その破滅的な轟音は、周囲にいた神獣達を気絶させるほどの威圧を放つ。


 そして次の瞬間、禍々しくうねる角が赤く煌めき、ドラゴンの口から超高温の炎塊が解き放たれた。


 それを見るや否や、ネロセーヌは咄嗟に『シロツメクサ』のツルを後方の木の幹に伸ばした。


「アハト隊長、掴まって!」


 アハトは反射的にネロセーヌの手を取る。

 ツルが高速で縮められ、ネロセーヌとアハトの体を後方へと引っ張る。


 そして二人が今までいた場所に、ドラゴンの炎が落ちた。


 炎が地面に着弾した瞬間、激しい爆発を伴って、辺りは生命の存在し得ない火の海へと沈められた。


「……助かったよネロセーヌ殿」

「凄まじい火力ですね。絶対に街には入れられない……」


 二人のやりとりを、上空の安全圏から満足そうに聞いているカイナリン。

 自らが呼び出したドラゴンの猛威を目にして、邪悪に目を輝かせる。


「ニヒッ。この子はあんまり出したくなかったんだけどね。もうなりふり構ってなられないかな」


 『スイレン』に備わるもう一つの能力。


 獣を一匹まで完全隷属させることが出来るのだ。


 完全隷属させた獣はどこにいても『スイレン』で作った8の字の輪っかから呼び出すことができる。


 それこそがカイナリンの奥の手であった。


「本当にえげつないなあれ……」


 アハトの額に冷や汗が滲む。

 その時、ネロセーヌがあることに気付いた。


「隊長。あのドラゴンまだ幼体ですね」

「……は? あの火力で? それに見た感じ十メートルはあるぞ」


 アハトは信じられないと目を見開く。


「ええ、成体なら二十メートルは軽く超えるはず。……幼体ならまだどうにか出来そうです」


 ネロセーヌが自信に満ちた声で言った。


「……あ、幼体ってことは魔法は使えないのか」


 アハトの言葉に、ネロセーヌが大きく頷いた。


 神獣の幼体は、魔力を生成する器官が未発達のため魔法を使えない。

 二人はここに活路を見出した。


「ええ。火を吹くだけのトカゲなら、どうにでもなるでしょう」


 ネロセーヌがニヤリと笑いドラゴンに目を向けた。


 二人の予想通りカイナリンのドラゴンはまだ発展途上の幼体であった。

 それ故に今回の戦争で使う気はなかったカイナリンだったが、アハトの想像以上の突破力を前に呼び出さざるを得なくなった。


 その時、ドラゴンの翼のはためきが大きくなる。


 その翼で竜巻の暴威を撒き散らしながらアハト達へと迫りくるドラゴン。


「ニヒッ。焼け死んじゃえよ!」


 カイナリンの声と共に炎の幕がアハト達へ迫りくる。


 二人はそれぞれのアーククラフトをドラゴンの喉元に向けて構えた。

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