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神代の御使い  作者: 逆巻多巻
アーククラフト戦争編
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第五十九話 圧倒の鉄蛇

 アルトケスの南側、旧ドラクロワ領。


 当初のアルトケス側の想定とは異なり、この地が一番の激戦地となっていた。


 ソルカの挨拶がわりの一撃によって、地面は黒く焦げついている。


 そしてソルカの他にも……


「なんだァ? こっちはハズレかよ」


 王選神兵長の一人、ドロ。


 着崩された軍服によく似合う粗暴な物言いで、自身の敵の弱さを嘆いている。


「心外だな! 確かに御使いではないが、私も戦士だ!」


 ドロと相対するのは警察隊第一小隊長クルビ・ゼクス。

 今、アルトケスで最も御使いに近い人物である。


 そしてその傍には、くるくるパーマに短剣を構える戦士がいる。


「俺とも遊んでもらうで! ニ対一やったら少しは楽しめるやろ?」


 ネズが短剣を手で弄び、余裕を演出する。


 しかし、あくまでも演出である。


 ネズ以外の隊員たちは、死んだものと戦意喪失したものが七割であった。


 だから実際には、ネズに余裕はない。


「……ちっ。お前ら二人とも御使いじゃねぇんだろ? なら何人いようが楽しくねぇよ!」


 ドロが手に持っていたモーニングスターを不機嫌そうにブンブンと回す。


 ドロのモーニングスターは持ち手の棒に鎖がついていて、その先に棘付きの鉄球がぶら下がっているシンプルなものだった。


 持ち手と鎖は濃い緑色、先の鉄球は鮮やかなオレンジ色をしており、『ホオズキ』の名に相応しい外観をしている。


「ということでだな、俺はお前らを潰してからさっさと御使いども殺しに行くんだよ! どけや!」


 ドロの先制攻撃。


 『ホオズキ』の鎖から鉄球にかけてが二股に別れた。


 二本の鎖がひとりでに伸び、鉄球がクルビを襲う。


「アーククラフト『ホオズキ』か! 魔力で鎖と鉄球を作り出し、それを自在に操ることが出来る能力だったな! お前のことは事前に聞いているぞ、ドロ!」


 クルビは自前の手斧でモーニングスターを受け止めた。


「ネズ!」

「おす!」


 ネズがクルビの横を走り抜ける。


 鎖を掻い潜ってドロとの距離を縮め、彼の心臓を狙って短剣で突きを繰り出した。


「おせぇな。本当に軍人か?」


 しかしネズの一撃はドロに届かず、逆に腕を掴まれ強引に投げ飛ばされた。


 上手く空中で体を捻り受け身を取るネズ。


「うるさいわ! こちとら一年目やぞ!」


 ネズは負けじと攻撃を繰り返す。


 心臓や首などの急所は防御されやすいと踏み、今度は関節や脇腹に狙いを定めた。


 しかし、そのことごとくがドロによっていとも簡単にいなされていく。


「なんやこいつ……当たらん!」

「……こんなのに当たるようじゃ、王選神兵長なんて恥ずかしくて名乗れねぇよ!」


 次の瞬間、ドロが無造作に放った蹴りがネズの股間に命中した。


「……んのボケが! なんてとこ狙ってんねん……」


 ネズは痛みに耐えかねて距離を取り悪態をついた。


 ドロは呆れたようにネズを見下している。


 そこにクルビが手斧を振り下ろした。


 しかし、それもドロにひょいとかわされてしまう。


「そうだぞ! ネズくんが子どもを作れなくなったらどうするんだ!」

「小隊長、心配するとこそこやないです……」

「……ちっ」


 クルビの手斧による攻撃が鋭さを増していく。


 ドロはバックフリップやハンドスプリングといった異様にアクロバティックな動きでそれらを全てかわし、隙を見てクルビの腹に膝蹴りを入れた。


 そしてそのままクルビの襟元を掴んで投げ飛ばす。


 ドロは一連の攻防の後、頭を抱えて深くため息をつく。


「……ちっ。やっぱりつまんねぇな。お前らな? 俺は今まともに『ホオズキ』使ってねぇんだぜ? なのにこんなに圧倒してちゃ、アルトケスの御使いだって大したことねぇって思っちまうじゃねぇか!」


 ドロが残念だと言わんばかりに首を大きく横に振った。


 股間の痛みから立ち直ったネズがもう一度ドロに突っ込んでいく。


「安心せぇや。俺らにはまだ隠し球がおんねん!」

「……隠してるほど余裕ねぇだろ。あるなら早く出してみろや!」


 ネズの素早い連撃がドロに襲いかかる。


 はたから見ればネズが一方的に攻めているように見えるが、その実ネズはただ遊ばれている。


「小隊長!」


 ネズの声に合わせ、クルビもドロを狙って手斧を振る。


 しかもクルビは、背中に隠していた鉄製の警棒を左手に装備していた。


 ネズの短剣と合わせて三つの武器がタイミングを合わせてドロを狙う。


 金属がぶつかり合う音の後……


「弱ぇな……」


 ネズが驚きで目を丸くする。


 ネズの短剣は左腕、クルビの手斧は『ホオズキ』、警棒は右脚で同時にガードされ、結局ドロには傷一つ付いていない。


 三方向からの攻撃を悠々と受け止めたドロは、つまらなさそうにため息をつくと、次の瞬間には高速の蹴りで二人を弾き飛ばした。


 ドロの圧倒的なまでの実力に、二人は攻め手を失って呆然とするしかない。


「……ちっ。飽きた。殺すから並べ……いや待てよ? 『あれ』やってもらうわ」

「なんやねんあれって。お前に何言われてもやらんぞ!」

「大丈夫だよ。拒否できねぇようにしてやるからさ」


 ドロが『ホオズキ』を堅く握り直した。


 次の瞬間、先程までは二股に別れていた『ホオズキ』から、さらに六本の鎖と鉄球が現れた。


「……ほんまに遊んでたんかい」

「本体と魔力体、合わせて八又のモーニングスターか……」

「おし、じゃあさっさと済ますぜ」


 それからはドロによる一方的な惨劇だった。


 『ホオズキ』の能力で作り出された魔力の鎖は、御使いであるドロの意のままに動かすことが出来る。


 ドロはその能力を使い、先程までとは逆に手数で二人を押し込み始めた。


 ドロの意思で大蛇のようにうねる半透明の鎖と鉄球に、ネズもクルビも対応することが出来ず、肢体には生々しい傷跡が増えていく。


「やはり御使い相手は難しいな! ネズ!」

「なんでそんな余裕あるんですか!」


 ネズはクルビの発言を余裕と捉えているが、実際クルビには少しも余裕がない。


 四方八方から飛んでくる棘鉄球を、手斧と警棒だけで受け続けるしかなかった。


 そして攻防の末に、一切の油断は無かったにも関わらず、クルビはドロに背中を晒す格好になってしまった。


 これが残酷なまでの戦闘経験の差。


 元傭兵のドロにとって、その背中は格好の餌食だった。


「よっ、と」


 ドロは片手でクルビの首筋を鷲掴みにし、動きを制限する。


「がはっ」


 次の瞬間、魔力でできたモーニングスターの一つがクルビの腹に穴を開けた。


 いくつもの棘がついた鉄球は、クルビに致命的なダメージを与えた。


「小隊長!」


 ネズが慌ててクルビを助けようとドロに駆け寄る。


「その手を離せや!」

「おっ。手間が省けた」


 ネズの攻撃はもちろんドロには届かず、代わりに重い蹴りを腹に食らった。


 吹っ飛んだネズは、近くの民家の壁に激突して止まる。


「う、ぐぅ……」


 腹にもらったダメージと、壁に叩きつけられたダメージが連鎖し、ネズの俊敏な動きをカケラも残さず奪い去った。


「やめろ……殺すな!」


 クルビが血を滲ませながら叫んだ。


 大きな声に混じって、小さくこぽっと血が逆流する音がする。


 ここでドロはクルビの首から手を離し、腹を抱えて笑い出した。


「何が……おかしいねん!」

「おかしいって! 考えてもみろよ? 俺がお前らを殺すつもりならよ、そもそも今こいつが生きてんのがおかしいよなあ?」


 ドロがニヤけた顔のまま地面に突っ伏すクルビを指差した。


 ドロの言うことは事実であり、本当に殺すつもりなら、首を掴まれた時点で勝負は決まっていたはずである。


「じゃあ、なんで殺さへんねん……」


 ドロが待ってましたとばかりに笑顔で軍服の内ポケットに手を入れた。


 大きく膨らんだ内ポケットから出てきたのは、灰色一色の『靴』だった。


 それを無造作にクルビの前に落とす。


「それな、アーククラフトなんだよ。なんて名前かも知らねぇけど。……お前、これ起動させろよ」


 ドロがクルビを生かした理由はアーククラフトを起動させること。


 アーククラフトを起動させるとはつまり魔力を注ぎ込むということであり……


「お前、クルビ小隊長の命使ってアーククラフト動かそうとしとったんか……!」


 ドロがその顔をさらなる邪悪な笑顔に変える。


「じゃなきゃてめぇらなんて生かす価値ねぇもんなぁ〜?」


 クルビは今、ドロによって死の選択を迫られた。

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