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神代の御使い  作者: 逆巻多巻
アーククラフト戦争編
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第五十八話 征服の闘牛士

 ガロンは違和感を覚えていた。


 スイとのやり取りの後、両軍の兵士たちが次々とぶつかっていく。


 そこで感じる異変。


「優勢すぎるな……」


 ソルカを確認してすぐに南側から呼んだ援軍は、想定していたよりも圧倒的に早く到着した。


 それにしてもアルトケス側が優位に立ち過ぎているのだ。


 自らの中に湧いた違和感を拭えず、隣で戦局を見守るビッカーに話しかける。


「……ビッカー。ソルカはなんで動かないと思う?」

「……分かりません。事前に聞いていた彼のアーククラフトの能力なら、初手で動くのが最善策のはず……」


 ガロンは顎に手を当てて考える。


 ソルカは未だ微動だにしない。

 ただ黙って戦場を眺めていた。


 考えた結果……彼は自分の経験を信じることにした。


「決めたぞビッカー! ワシは前に出る!」

「……もう少し慎重になるべきでは?」

「ソルカも動かない、弓矢のやつも動かない、ならワシが動く! 今のうちにあのスイとかいうやつをやっちまえば良い!」


 ビッカーが理解できないといった風にガロンを見やる。


「……では、それに失敗した場合は?」

「そん時は……お前に『アジサイ』やるからなんとかしろ!」


 一方的な宣言と共にガロンが戦場に降り立った。


 ビッカーは頭を抱えて自らの上司の背中を見送った。


 ガロンが戦場に降臨した途端に、敵の兵士たちが複数人でガロンを取り囲む。


「ジジイだからと言って舐めないでもらおうか!」


 『アジサイ』から飛び出したのは、無数の小さな水球。


 その一つ一つがガロンの意思を受け、敵兵たちに突進していく。


 水球が小さくなった分、爆発も小規模だが、間近で喰らえば無事では済まない。


 ガロンはあっという間に兵士たちを昏倒させ、自分の道を切り開いていく。


 その道の先で、忌々しくガロンを睨むのは王選神兵長のスイ。


「……伊達に戦場で長生きしてないようだな。モクビ、やれ」


 同じく王選神兵長で、後方に待機していたモクビが弓を引いた。


 ガロンが開けた道を、強弓がビュンと駆け抜ける。


 それに対しガロンは、『アジサイ』で大きな水球を出して矢の勢いを殺した。


「ワシにそういうのは効かんよ」


 水球はすうっと空中を移動し、スイとモクビの近くで爆裂した。


 それをギリギリで回避した二人に向けて、ガロンが距離を詰める。


 スイはしっかりと『チューリップ』を握り直し、ガロンの攻撃に備えた。


 しかしスイの予想とは違い、スイの眼前でガロンは進路を変えた。


 ガロンの視線が射抜くのは、不動を貫く三国同盟の大将。


 ソルカは少し離れた位置で、未だに馬からも降りず戦場を観察している。


 ガロンはそれを見て違和感を覚えつつも、『アジサイ』の水球を拳に纏わせた。


 ガロンの『アジサイ』を装備した右腕が、無防備なソルカの体にめり込む。


「咲き爆ぜろ、『アジサイ』!」


 ガロンの大音声と共に、ソルカにめり込んだ水球が爆発した。


 ガロンの右腕は『アジサイ』本体に守られダメージはない。


 ただソルカの体に大穴が空いただけ……


「……やられたなこりゃ」


 ソルカの体には確かに穴が空いた。


 しかしそこから溢れたのは血ではなく……土くれだった。


 その瞬間、ガロンの右半身に強烈な衝撃が走る。


 スイが『チューリップ』でガロンにフルスイングをお見舞いしたのだ。


 ガロンの巨体はゴム毬のようにぶっ飛ばされた。


「抜かったな、ジジイ」

「……その土人形が能力かい……」

「少し違うな」


 そう言ったスイが、ハンマー型アーククラフト『チューリップ』を近くで死んでいた兵士の鎧に振り下ろす。


 ガチンという金属同士の衝突音が響いた。


 するとその鎧からソルカの形をした鉄人形が現れ、ガロンに襲いかかる。


「叩いた場所から、その材質で出来た人形を作る。これが私の『チューリップ』だ。……さあ、ここから巻き返してみせろよ老兵!」


 勝ち誇ったように言ったスイ。


 ガロンはソルカの鉄人形の腹に右手を押し付け、水球を爆発させた。


 鉄人形は動きを止め、ボロボロとその場に崩れる。


「老兵の意地を味わったことはあるか?」


 ガロンも強気にスイを見据える。


 しかし、内心では別の不安があった。


 ソルカは偽物だった。

 この場にソルカがいない。


 そして自分の号令で南側が手薄になっている。


 これが指し示すことは……


「二人でやるぞ、モクビ」

「……」


 ガロンは自分の失敗を反省する暇もなく、御使い二人と死闘を繰り広げることとなった。


            ⚫️


 同時刻、アルトケスの南門の内側。


 こちら側には千人近い警察隊メンバーの半分が集まっていた。


 そして彼らを束ねるのはグランとノワレ、そしてテルスである。


 そんなテルスは先ほどからソワソワしていた。


「大丈夫かテルス?」


 グランは、初めての大きな戦で緊張しているのだろうとテルスを案じている。


 自らも初めてであり緊張しているのだが、王子としての責任感が、それを表には出させない。


「はい、大丈夫です。……あの、どうしても雄助が必要だと思うのです。少し会いに行かせていただけませんか?」


 グランはテルスに笑顔を向けて答える。


「構わんぞ。早めに引きずり出してこい」


 グランもこの一週間、何度も雄助に会いに行っているが、未だにトラウマを克服できておらず、『リンドウ』を引き抜けない状態が続いていた。


 テルスなら何か変えられるかもしれない。

 そんな一縷の望みをかけて、グランはテルスの背中を押した。


「はい! 行ってまいります!」


 テルスはグランの返事を聞くなり、明るい笑顔を灯して猛スピードで王城の方向へ駆けていった。


 ノワレは何を心配しているのか、目を細める様にしてテルスが去った方向を見つめている。


 そして何かを見つけたようで、すぐにグランに向き直った。


「グラン、あれ何に使うの?」


 ノワレが指差す先には大きな大砲が三門鎮座している。


「ああ、あれか。敵が門を潜った瞬間に大砲を放ち、雑兵を全滅させるのだ」


 グランが自身ありげに答えた。


「……やっぱグランって脳筋だよねー」


 ノワレが呆れ顔で呟いた。

 そして思い出したようにグランに尋ねる。


「それって周辺の民家にものすごく被害が出るんじゃない?」


 その問いに対しグランは寂しそうな笑顔で答える。


「ここは旧ドラクロワ領と言ってな。十年前の内乱で壊滅的な被害を受けて以来、人は住んでいないのだよ」

「そうなんだー……アルトケスも苦労してるよね」


 グランは祖国に思いを馳せるべく、腕を組んで目を瞑る。


 春が近づいているというのに、季節外れなほど寒い風が吹き抜けていく。


「寒いなぁ、この街は」


 グランがぽそりと呟いた。


 そこに、西からの伝令が届く。


「西側より伝令! 敵軍御使いソルカ、スイ、モクビ! 総員西の援護に来られたし!」


 最短で西の戦場の熾烈さをアピールする伝令兵。


 こちらを取り仕切っていたグランは瞬時に警察隊員に命令を下す。


「警察隊! 第一小隊を残して後は西へ! ソルカはガロン殿に任せろ! 間違っても直接戦おうとするなよ!」


 グランの号令で隊員たちが一斉に動き出した。


 クルビを筆頭に第一小隊だけがその場に残ることになった。


「グランセーヌ様! こちらの御使いの相手は誰がいたしますか!?」


 クルビが不必要なほどの大声で叫んだ。


 グランは少し痛む耳を揉みながら思考を巡らす。


「西に敵の御使いが三人いるなら、こちらにくるのは多くても三人でしょうから、私とノワレと、場合によってはクルビさんに一人頼みたい」

「はい! この身に変えても!」


 グランはこんなクルビのことも頼もしく思っていた。


 なにせ御使いを除けばアルトケスでも一、二を争う実力者である。


 グランは大きく頷き、敵の襲来を待つ。


 ……と、グランはクルビの横に、またも見慣れた顔を見つけた。


「ネズ……本当によく会うな」

「あ、え! 王子様!? また会いましたね!」


 ネズは相変わらず緊張しているようで、反応はしどろもどろだ。


 それでも闘志は人一倍あるようで、短剣を強く握って気合を入れている。


「どんなやつが来ても俺が撃退してみせますよ!」


 空回りしそうな雰囲気がある。


 その雰囲気を察して呆れたようにグランが頭を抱える。


「ネズ。気合いを入れるのは良いがな、御使いに御使い以外が対応するのは自殺行為だと思え」

「はい! 気をつけます! やっぱ向こうの御使いも強いんですか? ソルカのことは聞いたんすけど、他のやつのことはあんまり詳しく知らんのですわ」


 ネズが呑気にグランに尋ねた。


「強いさ。全員分情報があるわけではないが、少なくともソルカは強すぎる。なにせ……」


 その時、うっすらと響いてきたのは軽快なリズム。


 門の外から聞こえてくる馬の足音に、グランが最初に気づいた。


「来たようだな。さっきの三人を抜くなら、テンカ、ドロ、カイナリンのどれかか……総員持ち場につけ!」


 グランの号令で第一小隊の隊員たちが砲台に着いた。


 全員が砲門を南の大門に向け、誰が入ってこようが先制攻撃を撃ち込む準備をしている。


 緊張感から、誰も声を出さない。


 鳥のさえずりが聞こえるほど、その場は静寂に包まれた。


 やがて、馬の足音がやんだ。

 人が降り立つ足音がした。

 キン、と金属同士がぶつかるような音がした。


 その音を聞いたグランの頭に、事前に仕入れていたある情報が浮かんだ。


 途端に青ざめたグランが隊員たちに叫ぶ。


「総員回避! 門から離れろぉ!」


 次の瞬間……


 レーザービームのような極大の火柱が、大門を溶かしてアルトケス国内に侵入した。


 グランの叫びで回避できたものは良いが、逃げ遅れたものたちはその場で焼かれてしまった。


 周囲の酸素を吸い尽くし、猛々しく燻る火柱。


 青い顔をしたネズが、そばにいたグランに聞く。


「グランセーヌ様、これアイツやないですか!?」


 グランが答えるより先に、その正体が姿を現した。


 真っ赤なマントをひらりと振るい、燃え盛る炎をどかして入場してきたのは……征服の闘牛士。


「ソルカ・ロレル……」

「……オーレ!」


 ソルカの咆哮が、隊員たちを絶望に沈める。


 靡く金髪に情熱的な真紅の瞳。


 そしてバラの模様が刻印されたロングソード。


「ソルカ……あのロングソードがアーククラフトでしたっけ!?」


 ネズの問いかけに、グランが苦い顔で答える。


 ネズは事前にアハトから情報を一部聞いていた。


 しかし、それは完全な情報ではなかった。


 ソルカと直接出会う可能性が低い隊員たちには、余計な恐怖を与えないようにという配慮だった。


 結果的にその配慮は全くの裏目となってしまったわけである。


 全てを知っているグランは、隊員たちに絶望の事実を告げる。


「そうだ。ソルカの右手にあるのはロングソード型アーククラフト『バラ』。……そして、背中にあるのがマント型アーククラフト『カーネーション』だ……」

「……二個持ち……?」


 その絶望的な事実は、隊員たちの脳裏に敗北の二文字をつきつけた。


 煌めく『バラ』とゆらめく『カーネーション』。

 燃え盛る炎のような二つの神器が、ソルカという軍人にさらなる力を与えている。


 さらに最悪なことに、ソルカの後ろからドロとテンカが現れた。


「お、ソルカさん。あれ第二王子っすね! 探す手間省けちゃったな〜」


 ドロが嬉しそうにグランを指差した。


 それを聞いたソルカがキッとグランを睨み宣言する。


「第二王子グランセーヌ! 貴様の首はこの私、ソルカ・ロレルがいただく!」


 グランは何も言わず『ダリア』を構えた。


 二人の武人には、それで充分だった。


 アルトケス第二王子グランと、"征服の闘牛士"ソルカの闘いが口火を切る。

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