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神代の御使い  作者: 逆巻多巻
アーククラフト戦争編
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第五十四話 密売人の交渉

 常夏の南国、ロコモ王国にて。


 王城は一枚の手紙によって、蜂の巣をつついたようなパニックに陥っていた。


「……早急にミリモウイを呼ぶのだ! 緊急だ!」


 王の叫びによって、従者たちが我先にと王宮を駆け巡る。


 しばらくして、五代目ミリモウイことテーサミリモウイが玉座の前に現れた。


「お呼びでございますか、王よ」

「テーサ、しかと聞け。……エスピケスから宣戦布告の書が届いた。まもなく敵軍が攻めてくるであろう……」


 テーサは驚きで身を固めた。


 三国同盟に加入する話を断ったことは覚えていたが、まさか話し合いの席すら設けられず攻め込まれるとは予想していなかったのだ。


「……左様でございますか。まさかこのような短い時間で攻めに来るとは……」

「おそらく同盟の話が来た時点で既に準備はできていたのであろう。我らの返答次第で直ぐにでも攻められるように」

「それにしても一度も会合すら開かず攻めるとは……国際的な倫理に違反しています」


 王は難しそうに頭を捻りながら、腰を深く玉座に預ける。


「あくまで倫理だからな。守らねばならんことでも無い。それより、とにかくこの場を凌ぐ必要がある。大丈夫かテーサ」


 テーサは心の中にあるモヤモヤした気持ちを振り切り、改めて王に首を垂れる。


「ええ、リックカウアイーも復帰しております。必ずや、正義を忘れた不届きものどもを母なる大海へと沈めて見せましょう」

「期待しているぞ。必要なら『あれ』を出してもかまわん。……こんな時、カルダが居れば……」


 王の顔に影が落ちた。


 王が呼んだ名はカルダ。

 テーサの先代、四代目ミリモウイである。


「師匠は……いまや消息不明ですから。しかし、あの御方のロコモへの愛は本物です。真にロコモが窮地に陥れば、何を置いても駆けつけてくださいます」

「そうであったな……。ではテーサよ、カルダの分までしっかりと勤めを果たすのだ。我が国の未来のため、必ずや敵を滅ぼせ!」

「御意。王は取り急ぎ、アルトケスへの通達をお願い致します」

「承知した。死ぬでないぞテーサミリモウイ」


 テーサは一礼した後玉座に背を向け、王城を後にする。


 王の腹心、ミリモウイの名を継ぐものとして、彼の覚悟は決まっていた。


 テーサはその足で軍部の基地へと向かった。


 その訓練場には、棒術に励むリックの姿があった。


「リック。そろそろ出番だ。いけるか?」


 リックはニヤリと笑み、手に持った棒をぐるぐると回してみせる。


「当たり前だ。こいつにもかなり慣れたさ」

「早いな。……『ハイビスカス』を失ってから数ヶ月で別のアーククラフトを使いこなすとは。俺様は鼻が高いぞ!」


 テーサがバンバンとリックの腕を叩いた。


「……何様のつもりだ、テーサ」


 リックが迷惑そうに目を細める。


 リックはアコとの戦いで『ハイビスカス』を奪われた後、テーサが回収した新しい棒形アーククラフトの御使いに選ばれていた。


「で、出番とはなんのことだ? 誰か攻めてくるのか?」

「ああ、エスピケスが来る」


 相手国の名前が思ったより大国だったことで、リックは少し放心した。


「……二人でやれるか? お前の『ガジュマル』に戦闘力は無いし、アルトケスに援軍を頼んだ方が良いのではないか? 刀堂雄助さんやノワレ・オルベールさんなら駆けつけてくれるだろう?」

「まあまあ、俺様に任せとけよ! 策はある。……それに、アルトケスも近いうちに攻められるだろうからな、援軍は見込めん」

「そうか。……なぜお前がそんなことまで知ってるのかは聞かないでおく」


 リックを含むほとんどのロコモ国民は、テーサが王の側近であることを知らない。


 リックはテーサが積み上げてきた軍部の参謀としての実績を信用しているため、余計な詮索はしないと決めていた。


 テーサが言葉の代わりに親指を立てて答える。


 その時、港の方から怒号が聞こえてきた。


 それと同時に、敵襲を知らせる甲高い警報が町中に鳴り響く。


 緊張していそうな顔をする周囲の軍人たちとは対照的に、テーサがニヤリと笑ってリックの肩を叩く。


「行くぞリック!」

「……だから何様なのだお前は!」


 口では文句を垂れながらも、リックはテーサと共に走り出した。


 目指すは港、戦場の最前線となる場所である。


 街を駆け抜け、高波を防ぐために植えられた防波林を抜けた先の海岸には、多数の軍艦と……トライデントを握る神経質そうな男が待っていた。


 ロコモ側の軍人たちが、将の命を受け敵の軍に突撃していく。


 それを見たリックは手に持った棍棒を掲げ、高らかに宣言する。


「御使いはあのトライデントのみか。ならば私と、この『デンドロビウム』で対応する!」


 リックの手に握られているのは棍棒型アーククラフト『デンドロビウム』。


 次の瞬間、『デンドロビウム』を構えトライデントの御使いに向かっていくリックの目に、信じられないものが映る。


「いーや、リック。あいつは俺様が貰うぜ」


 そう言って先を走るテーサの手には、『あれ』が握られていた……


            ⚫️


 三国同盟の一角、ギースケス王国の王城にて。


 青色の髪を後ろ手に撫で付け、凛々しく輝く瞳の男がいる。


 スイ・ラング。


 ギースケス王国の軍事顧問である。


 弱冠22歳にして、ギースケス軍部の中で彼よりも偉い人間は既に居ない。


 アーククラフトの力と、本人の類稀な戦闘適正により、史上最年少の軍事顧問として君臨していた。


 そんな既に英傑と呼んでも差し支えないスイが、最近どうにも掴めない人間が一人。


「ニヒッ。スイさーん。この前の話、考えていただけましたか〜?」


 ギースケスの王城を歩くスイの後ろから、ちゃらちゃらした口調で話しかける女性がいた。


「カイナリン。……何度も言うがあれ以上は出せんよ」


 スイに話しかけた人物はカイナリン・カイナ。


 数ヶ月前に従軍した新入りだが、既に王選神兵長という役職に名を連ねている。


「強情だな〜スイさん。今のお給金二倍にしてくれって言ってるだけじゃないですか〜。ボクはきちんと仕事してるし〜?」

「……既に一般兵卒の十倍近い額払っているだろう。それに、仕事をしてるなんて言葉は、アルトケスをきっちり攻め滅ぼしてから言って欲しいものだな」

「ニヒッ。そんなこと言うならもう『スイレン』貸してあげないですよ〜?」


 カイナリンが首に巻き付いた桃色の鎖を見せつけるようにじゃらつかせて言った。


 カイナリンの鎖型アーククラフト『スイレン』。

 巻きつけた生物を隷属させ、自由に使役出来る能力を持っている。


 カイナリンはこの能力を使い、数百体の神獣を使役して軍部に供与しているのだった。


「ニヒッ。『スイレン』で作った神獣軍団、実に使えますよね〜? ボクがギースケス側について良かったですよね〜?」

 

 カイナリンが左右にクネクネと体を揺らしながらスイへと詰め寄っていく。


 スイはうざったいという気持ちを隠すことはなく、表情筋を総動員して嫌な顔をした。


「……それはそうだがな。どうにかならんのか、その守銭奴根性は」

「いや〜。生憎神獣の密売も好調でしてね〜。最近は金を枕にして寝てるんですよね〜。次は金でマットレスでも作ろうかなって!」

「それの何が楽しいのだ……ところで、この前言っていたデコイモグラの件はどうなった?」


 カイナリンが自慢げに鎖をいじりながら答える。


「デコちゃんね、アルトケスの人に売ったんだけど、兵器利用出来そうですね〜。デッカい穴開けてましたし?」


 カイナリンの本業は神獣密売人であり、ユズキにデコイモグラを売りつけたのも彼女である。


「……お前のことは勘付かれてないだろうな?」

「もちですよ〜。ボクはそういうヘマはしない方ですんで。……ところで、もう一個おいし〜い情報あるんですけど、買いません?」

「情報の内容によるだろ」


 スイが腕を組み、壁にもたれかかった。


 カイナリンの情報屋としての側面を知っているスイは、彼女の言う"おいしい情報"には興味があった。


 だからこそ、口では内容によるなどと言っておきながら、壁に寄りかかって長話をする体勢を整えているのだ。


「……『リンドウ』の御使い。とかどうです?」


 カイナリンが口角を鋭く上げ、手で金のマークを作る。


「……軍人としてそういう情報は無償で提供しろ」

「嫌だ。ボクは金のためにここに居るんだ」


 カイナリンが笑顔を消し、スイに詰め寄る。


 スイは一歩も引くことなく正面からそれを受けて立っている。


「スイ。今はボクも王選神兵長だからね、はっきり言わせてもらうよ。……情報を無償で提供しろ? 本気なの?」


 これに対しスイも毅然としてカイナリンから目を逸らさずに言う。


「当たり前だ。敵の御使いの情報だぞ? 有ると無いでは死者数が千人単位で変わってくる可能性がある。お前も王選神兵長を名乗るなら、一般兵卒のことも考えろ」


 カイナリンはしばらく押し黙ったのち、舌打ちと共に諦めて口を割る。


「……『リンドウ』は魔力を吸う能力を持った太刀型アーククラフトで、吸いすぎると暴走する。御使いの男は多分使い方に慣れてない。はっきり言って脅威じゃ無いよ。……はあ。せっかくの情報だったのに……」


 スイが満足そうに頷いて言う。


「良い働きだ。これはソルカさんにも共有させてもらう。……あと、給料の話に関しては善処してやろう」


 カイナリンが目をパチパチさせる。


 自分で言っていたものの、まさか給料の話が受理されるとは思っていなかったので、何を言おうか迷っていた。


「カイナリン。王選神兵長として……ギースケスの御使いとして、その働きに期待している」

「……そんなお世辞が、情報の代金のつもり?」

「お前の受け取り方次第だ」


 スイは片手を上げてカイナリンに背を向けた。


 スイが見えなくなった頃、カイナリンもくるりと後ろを向いて歩き始めた。


「ニヒッ。まあ給料上がるならいっか〜……隠し球のことはまだ言わないようにしよっと。またぼったくられても敵わないしね〜」


 カイナリンの独り言を聞く者はいない。


 ギースケス王国の王城には、カイナリンの笑い声だけが不気味に響き渡っていた。


            ⚫️


 エスピケスのさらに西。


 ギースケスと南北に別れ国境を接する国、モルケス王国。


 三国同盟の一角であり、世界の西端に近い国である。


 海や火山も近く、自然に満ち溢れたこの国で、御使い同士の戦いが過熱していた。


「これはちょっと面倒かもね……」

「ごめんなさいアコ様ぁ」


 彼女らは妖花連合リーダー、アコとその部下であるファウナ。


 モルケスにあるアーククラフトを狙って攻勢をかけていた。


 彼女たちが対するのは、弓矢のアーククラフトを操る老獪なる射手。


 ファウナはすでに脚を撃ち抜かれ、自力で歩けない状態になっていた。


 彼女たちは民家で斜線を切っているが、その位置にまで弓矢が曲線を描いて飛んでくる。


「ファウナ!」


 アコがファウナを庇って腕に傷を負った。


 紫と白の矢尻がそれぞれ前後に付いた特殊な矢。

 それが二人の視界の外から無限に飛んできていた。


「遠距離相手は『トリカブト』では難しいね……。とりあえずシュウジと合流しようか」


 そこまで言ったところで、再び矢が彼女らに飛来した。


 アコがファウナを肩に担ぎ、全力で弓矢の御使いから距離を取る。


 モルケスの路地裏を抜け、街中を全力で駆けていくアコ。


 そのまましばらく走ると、大通りに出た。


 大通りの片側の端は王城へ、反対の端は国外に出る大門へと続いている。


 その時、道の脇に並ぶ民家の屋根の上で戦うシュウジをアコの金の瞳が捉えた。


「シュウジ!」


 シュウジは相手に蹴り飛ばされ、アコのすぐそばに落ちてきた。


 後転で受け身を取り、肩をグルグルと回すシュウジ。


 シュウジの相手もまた御使いであり、尻尾型のアーククラフトを巧みに操りシュウジを手玉に取っていた。


「……ちっ。アコ、一旦逃げるか?」

「そうだね……また今度リベンジにしようか」

「ああ。アルトケスにも用があるのに、ここで無駄に消耗するわけにはいかん」

「……時期が悪かったですわ。戦争前は気が立っていますのよ」


 アコに抱えられたファウナが考えを述べた。


 アコもシュウジも、これにはおおむね賛成である。


 そして逃げる意思を固めた妖花連合の前に、尻尾の御使いが屋根の上から飛び降りてきた。


 黒色のロングヘアーを靡かせる長身の女性。


 腰から伸びる鉄製の尻尾が、ドゴンと音を立てて彼女の着地をサポートする。


「ファウナ、頼むよ!」

「はい、アコ様!」


 アコに担がれているファウナが、尻尾の御使いに向けて『ラフレシア』を撃ち込んだ。


 余裕を持って尻尾でガードする御使い。


「よし、逃げるよ!」


 妖花連合はその後、弓矢の追撃を振り切ってすんでのところで離脱に成功した。


 相手の御使いたちに彼女らを追う意思はない。


 なぜなら彼らもまた、アルトケスとの戦争を間近に控えているからである。


 モルケス王国での静かなる抗争は、こうして幕を閉じた。

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