表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代の御使い  作者: 逆巻多巻
友達編
PR
44/55

第四十四話 暴竜の開眼

 ネズの脇腹に深く刺さった短剣から、血が溢れていく。


 ネズはその痛みに耐えながら、ユズキの顔面を一発殴った。


 しかし罰走の疲れも相まって思ったように力が入らず、ユズキもすぐに起き上がった。


 短剣は未だネズの腹に置き去りである。


「なんでや、なんでこんなことを……!?」

「……僕が生物オタクなのは知っているだろう? 特に神獣にはずっと憧れがあった」

「それで飼い始めたんか? 違法やって知ってて!」


 ユズキの表情が怒りに染まり始める。


「そうだよ! 僕はただ純粋に神獣と交流したかったのに! 法律が僕のことを邪魔したんだ!」

「アホなこと抜かすなや! 法律も守れんやつに、動物なんぞ守れるわけないやろ! 現に今、そいつはどこにいるんや!?」


 ユズキが言葉を詰まらせた。


 明らかにネズの言うことは正論だった。

 それを分かっていながら、ユズキはもう止まれない。


 ユズキはポケットに入れていた警棒を取り出した。

 

 短剣と警棒は、本来どちらかを携帯すれば良いと決められているが、ユズキはこうなることを見越して最近はどちらも持ち歩いていた。


「ネズくん! 何を言おうが君に僕の気持ちは分からないんだよ!」


 ユズキがネズに警棒を振り下ろした。


 ネズはそれを自らの短剣で受け止める。


「うっ……!」


 ネズの脇腹に深く刺さった短剣が、じわじわとネズにダメージを与える。


 しかしこれを抜いてしまうと大量に血が噴き出る可能性があるので、ネズはこの短剣を受け入れて戦う必要があった。


 ネズは覚悟を決め、ユズキの腹に膝を入れる。


「ぐっ……! ……邪魔させない。僕とモグラの生活は誰にも邪魔させない!」


 ネズに余裕はない。


 四方八方から襲いくるユズキの警棒を、痛みに耐えながら弾き続ける時間が始まった。


「こんなことして、何になるんやユズキ! 俺を殺したところで、アハト隊長もネロセーヌ副隊長もいるんやぞ!」

「……後のことは後で考える!」


 この一言でネズがキレた。


「そないな無責任なやつがな、動物なんぞ飼うなや!」


 ネズの頭突きがユズキの頭を襲った。


 鈍い音と共に両者の脳みそが揺れる。

 腹と頭から血を流しつつ凄むネズ。


「ユズキィ……! 投降するんや! 今やったら……罪にはなるけど! 人を殺す前ならやり直せる!」


 ユズキは痛む頭を抑えながら悲しそうに呟く。


「……無理だよ。そろそろデコイモグラが民間人を食ってる頃だ。それを育てた僕が許されることなんてない!」


 それを聞いたネズは……フッと小さく微笑んだ。


「何の心配をしとるねん。そっちには雄助とウィルダーと健生がいるんやで? 死傷者無しに決まっとるやろが!」


 ネズが距離を詰めた。


 右腕を大きく振りかぶり、狙いをユズキの顔に定める。


 ネズの言葉を聞いたユズキも小さく笑って言う。


「僕は、無邪気にそれを信じられるほど馬鹿じゃないんだ」


 ネズの腕が空を切った。


 世界に絶望したような諦観の笑いを浮かべたユズキの右手が、ネズの腹に刺さっている短剣を握る。


 これを引き抜けば、それだけで勝負アリ。


 ネズは、出血多量で死ぬだろう。


「ごめんね、ネズくん……」


 ユズキの瞳には、悔しそうに歯を食いしばるネズの姿が反射している。


            ⚫️


 俺とウィルダーはデコイモグラによって陥没させられた地面の下に引き摺り込まれた。


 アリジゴクみたいだなこいつ。


 俺たちは運良く一緒に倒れてきた民家を足場にすることができ、いまはモグラの次の動きを待っていた。


 幸いなのは、健生がギリギリ穴に落ちずに済んだことである。


「雄助! 暴走は平気?」

「まだいけるっす! まずはモグラを探すっすよ!」


 そうこう言っている内に、また泥人形が湧き出した。


 俺は『リンドウ』で泥人形から魔力を吸い取り、一瞬で泥の塊に戻していく。


 ……ダメだ。

 さっきはイケるって言ったけど、頭がぼーっとしてきた。


 そうやって長期戦を強いられ、俺たちが一瞬油断した隙。


 それをモグラは見逃してくれなかった。


 いきなり地面から出て来たモグラの大爪がウィルダーを狙う。


 まずい!


「ウィルダー!」


 俺は必死にウィルダーに手を伸ばすが、間に合わない!


 その時、上から健生が降ってきてウィルダーと一緒に倒れ込んだ。


 モグラの爪は空を切り、やつはもう一度地面の中へ潜っていく。


「健生、ウィルダー! 大丈夫っすか!?」


 健生が手を差し伸べ、ウィルダーを助け起こした。


「ありがとう健生!」

「気にするなよ。余たちは友であるからな!」


 俺の心に揺らぎが生じた。


 今の一幕で、もし健生が少し遅れて飛び込んできていたら……


 恐らくウィルダーは爪に貫かれて死んでいただろう。


 健生が裏切り者?


 本当に……?


 俺たちは……


「雄助! そっちである!」


 俺はハッと我に帰り、後ろに迫っていた鉤爪を『リンドウ』で受け止めた。


 ……今はこっちに集中!


 モグラはまた地面に潜ろうと企んでいるようだ。


 だがさせない!


 俺はモグラの爪を掴み、上半身だけを出していたモグラを引き摺り出した。


「おりゃぁぁぁあ!」


 そして背負い投げ!

 久しぶりに俺の柔道経験が火を吹いた。


 『リンドウ』の強化があったおかげで、デコイモグラの巨体でも楽に投げることができた。


 モグラを背後の地面に叩きつけると、ギッと小さな悲鳴をあげた。


「雄助! とどめを!」


 俺は心の中でごめんなさいと叫びながらモグラの腹に『リンドウ』を突き刺した。


 しばらく『リンドウ』を突き立てていると、モグラは動かなくなり、完全に息を引き取っ……


「よし! 雄助よくやったの……」

「すごいよ! 僕たち神獣を討伐しちゃ……」


 ……二人が何か言ってる……?


 聞きとれない……


 俺……俺は、何を……?


 ダメだ…………逃げ……。


「雄助……?」

「ウィルダー、『リンドウ』がまだモグラに突き刺さっているのである。つまり、今も魔力が流れ込んでいるということである」

「……やばそうかな……」


 雄助がゆっくりとモグラから『リンドウ』を引き抜いた。


 その目は赤く血走っていた。


 全身に雷が走ったかのようなひび割れが発生しており、青紫色のオーラが漏れ出ている。


 荒々しく不規則な呼吸音が、遠く離れたウィルダーと健生の耳にも届く。


 明らかに正気を失っていた。


「これが……『リンドウ』の暴走……!」


 雄助はそばにあったモグラの死体を邪魔だとばかりに蹴り飛ばし、『リンドウ』を強く握り直した。


「どうやら意識はなさそうだね」


 ウィルダーが内心焦りながらも冷静に分析した。


 そんなウィルダーと雄助の目が合った。

 次の瞬間、その場にしゃがみ込んだ雄助。


 凄まじい悪寒がウィルダーの全身に鳥肌を立たせる。


 これまでの人生でも最も強く感じる、生命の危機。


 しゃがみこんだ雄助の足の筋肉が収縮し、次の瞬間爆発的な加速でウィルダーに襲いかかった。


 魔力を過剰吸収した雄助のスピードは、本来の十倍近くにまで上がっている。


 ウィルダーはほぼ勘のみで横に跳び、偶然にも攻撃を回避できた。


 次は無いだろうという緊張感が、ウィルダーの身体をこわばらせる。


「ウィルダー、これは余たちだけでは手に負えないのである! 一旦逃げよう!」

「ダメだよ健生! 今逃げたら、雄助が民間人を殺しちゃう……!」


 これを聞いて健生も覚悟を決めた。


「……それは絶対にダメであるな。なんとかするのである!」

「うん! 友達だもんね!」


 ウィルダーが警棒を構えた。


 雄助は未だに血走った目で『リンドウ』を構えている。


 健生とウィルダーによる、雄助救出作戦が幕を開けた。


            ⚫️


 ネズとユズキの戦いは佳境を迎え、とうとうユズキがチェックメイトをかけた。


 ユズキの手は、ネズの脇腹に突き刺さった短剣にかけられている。


 これを引き抜けば、ネズは大量に血を吹き出して死ぬことになるだろう。


 冷たい死の感触がネズの腹を伝う。


「さよなら、ネズくん……」


 その時、大穴全体に響き渡るほどの大音声が響いた。


「させない!」


 短剣を引き抜こうとしたユズキの手を掴んでいるのは……


「クルビ小隊長……!」

「喧嘩はそこまでにしておけ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ