表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代の御使い  作者: 逆巻多巻
友達編
PR
41/53

第四十一話 汚泥の襲来

 俺たち四人のいるまさにその場所から、ゴゴゴという低く大きな音がする。


 これが報告にあった異音か。


「なんやこれ!?」


 俺たちは揃って周囲を見渡す。


 しかし、異音の発生源らしきものは見当たらない。


 空を見上げたり、民家の裏手も見てみたが、何もないのである。


 不思議に思っていると、次の瞬間俺たちの耳に悲鳴が届いた。


 真っ先に反応したネズがそちらへ駆けていく。


 道の脇で女性が襲われている。


 襲っているのは……


「なんやこれ! 泥!?」


 泥でできた身長1.5メートルほどの人型。


 二つの目と口、腕が生えている以外は何もない。


 足もなく、地面から生えてきている感じだ。


 昔テレビで見た、泥田坊という妖怪によく似ている。


 その泥人形にネズが短剣を突き刺すが、全然効いている感触は無いようだ。


 何度も虚しく泥を切り裂いている。


「雄助! あっちにもいる!」


 ウィルダーに言われてよくよく辺りを見回してみると、他にも数匹の泥人形が人々を襲っていた。


 よく分からないが、とにかく市民の安全が第一だ。


「ウィルダー、手分けするっすよ!」


 俺は慌てて目についた泥人形に『リンドウ』を突き立てる。


 その瞬間、泥人形がどろどろに溶けて無くなった。


 あまりの脆さに少し拍子抜けした。


 さっきネズの短剣が効いてなかったから、俺のも無理かと思ってたんだけど……


 ネズと俺の違いと言えば、やはり『リンドウ』か。


 俺はそばにいたもう一体の泥人形を『リンドウ』で袈裟斬りにする。


 これもまた斬った途端に崩れ落ちた。


 どうやらこの泥人形は魔力で出来ているらしい。


 そうと分かれば! 


 俺は泥人形から吸い取った魔力でブーストが掛かった体を動かし、全部で二十体ほどの泥人形を斬り捨てた。


 その間にネズとウィルダーも数体の泥人形を壊した。


 しばらくそれを続けていると、泥人形は全て跡形もなく消えてしまった。


 残ったのは動かない泥の塊のみである。


「なんやったんや今の?」

「わからないっす……でも『リンドウ』が効いたから、おそらく魔力で作られた人形だったと思うっすよ」


 魔力をあんな風に操るとなれば、犯人は人間ではなさそうだな。


「また神獣か……最近多いね」


 ウィルダーがうんざりしたように首を振った。


 ヨブコオオカミ、シンカイワシ、フウセンタカ。

 どれも極度にデカくて魔法を使う、人間からしたら化け物みたいな存在だ。


 それと比べると泥人形は小さい上に力も弱かったので、流石にあれが本体ということは無い……のかな?


「とにかく、怪我人がいないか確認してから本部に報告するっすよ」


 俺たちは周囲の人たちに確認をとり、怪我人がいないのを確認してから本部に帰還する。


 休まず全力で走ったので、ものの十分くらいで隊舎に戻ってこれた。


 転移してきた頃はこのくらいの距離で息が上がっていたのだが、最近体力がついてきた感じがする。


 隊舎では数十人の隊員たちが訓練に勤しんでおり、それを見守るクルビ小隊長の姿もあった。


 俺が代表してクルビ小隊長に状況を報告することになった。


 クルビ小隊長は俺の話を聞いて静かに相槌を打っていた。


「報告ありがとう! 急いで現場検証だ!」


 さっきまで静かに聞いてくれていたのに、急に鼓膜を破るレベルの音を出さないで欲しい……


 俺たちはクルビ小隊長と他の隊員たちを引き連れ、先ほどの泥人形がいた道へ戻った。


 さっきの戦いの痕跡がまだそこら中に残っている。


「確かに泥だな! これが動いたのか!?」

「はい。腕と目と口だけがある人形になってたっす!」


 俺はさっきの戦いを思い出しながら、手で大体の形を作り説明した。


 横でネズが精巧なものまねを披露しているのは無視である。


 クルビ小隊長は顎に手を当て、考えるこむように目を閉じた。


「……とにかく泥を回収する! 持ち帰って詳しく調べるぞ!」


 その日、結局俺たちは泥の回収で一日を終えた。


 あれから一度も異音は聞こえてこなかった。


            ⚫️


 かなり広い範囲に泥が飛び散っていたこともあり、結局隊舎に帰ってこれたのは日が沈んでからだった。


 俺たちは泥に塗れた服を洗ってから風呂に直行する。


「ああ〜生き返るわ〜……」


 ネズが大袈裟に声を出して湯船に浸かった。


「結局何だったんだろうね、あの泥。神獣の能力だろうけど……」


 ウィルダーは体を流しながら考察をしている。


 ウィルダーはかなり生物の知識があるので、そのウィルダーでさえ分からないということは、捜査は困難を極めそうだ。


 俺はウィルダーと共に湯船に移動し、ネズの隣に陣取った。


 ウィルダーは体が大きい分、大量の湯が流れ出していった。


 俺たちが湯船に浸かってあーだこーだと言い合っていると、離れたところにいた他の隊員が声をかけてきた。


「ウィルダー、ちょっと良いかな? さっきの泥のやつ、犯人の目星はついてる?」


 彼はユズキ・グルール。


 ウィルダーと同じ第三小隊所属だ。


 俺はたまに顔を合わせる程度だったが、ウィルダーとはかなり仲がいい。


「ダメだね。知らない魔法だった」

「泥を『操る』魔法というのは安直かな?」


 どうやらウィルダーと同じく生物好きらしい。


 そこから十分程度、俺たちにはよく分からない生物トークが展開され、最終的に進化論みたいな話が始まろうとしたところで俺が無理やり話題を変える。


「ウィ、ウィルダー? なんでそんなに生物に詳しいんすか?」


 ウィルダーは一瞬だけピタッと動きを止め、笑顔で話し始めた。


「父さんが異邦人だっていうのは言ったことあるよね? その父さんがね、元いた世界の生き物の話をよくしてくれたんだ。それからこの世界の生物たちとの違いを意識し始めてね、調べるのが楽しくなった。それが父さんとの一番の思い出かな」


 ウィルダーが懐かしむように目を細める。


「そうだったんすね。お父さんは今何をし……」


 そこまで言ったところでウィルダーの表情の変化に気づいた。


 俺はどうしてこう……


 人の踏み込んではいけないところに踏み込んでしまうのだろう。


「父さんは十年前の内乱で亡くなったよ。……その父さんの遺言がね、"人のために力を使いなさい"だったんだ。それで警察隊にね」


 ウィルダーが小さく笑った。


 それを見たネズが悪戯に笑って言う。


「あんな、雄助に声をかけようって言い出したんもウィルダーやねん。自分の父親と同じ異邦人だからって言うてな」

「確かに言い出したのは僕だけどさ……まさかあんなにノリノリで話しかけにいくと思ってなかったよ」


 ウィルダーも負けじと軽口を叩いた。


 俺はというと……少し泣きそうになっていた。


 でも泣いたら揶揄われるから絶対泣かない。


「まあ、俺も兄ちゃんが内乱で死んでもうてるからな……アルトケスの人間で内乱に思いがないやつなんておらん。もう誰にもあんな思いして欲しくないし、明日も頑張ろか!」


 こいつらのことは絶対に大事にしよう。

 俺はそう固く決意をした。


 ……テルスに私情を挟むなと言われたことは一旦忘れる。


            ⚫️


 ……その夜。


 隊員たちが寝静まった警察隊舎にて、コソコソと蠢く影があった。


「やっばい……靴磨くん忘れてもうた……」


 ネズが泥に塗れた靴を持って外にある水道に向かう。


 既に消灯時間は過ぎているため、アハトやネロセーヌに見つからないよう忍び足で移動している。


 警察隊では一日のはじめに服装点検を行う。


 服や靴に乱れや汚れがあればそれだけで罰走ということになっているのだ。


 泥まみれの靴なんて見せたあかつきには、脚が折れるほど走らされるのが目に見えているのである。


 ちなみに雄助やウィルダーは帰ってきてすぐに洗ったのだが、ネズはめんどくさいからと後回しにしていた。


 完全に自業自得であり、己の怠惰を恨むネズである。


 わざわざ昼でも人が少ない裏口側の水道に来たネズは、一番小さく蛇口を捻った。


 誰にも見つかるわけにはいかないので、周りに気を配りながら靴に付いた泥を落としていく。


 あらかた靴を磨き終わり、ギリギリで罰走を回避できそうなくらいになった頃、ネズの視界に人影が映った。


 巡回の隊員かと思い、慌てて身をかがめて様子を伺う。


 その人影は、裏口の門の手前で何かを探すようにしゃがんでいた。


 その瞬間、身をかがめていたネズの肩を誰かの手が掴んだ。


 ネズは声にならない悲鳴をあげて後ろを振り向いた。


 そこには不思議そうな顔で佇む雄助がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ