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神代の御使い  作者: 逆巻多巻
友達編
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第四十話 警察隊の日常

 『タンポポ』を巡る騒動から1ヶ月が経った。


 その間には健生や妖花連合が怪しい動きを見せることもなく、淡々と日々が過ぎていった。


 ノワレはあの騒動の直後からテルスと共に国外に行っていた。


 どうやらノワレがどうしてもやりたいことがあるらしく、テルスは見張りとして付いて行っているのだそうだ。


 あの二人、あんまり仲良さそうじゃないけど大丈夫かな……


 グラン様はここ最近公務が忙しいらしく、あまり顔を合わせていない。


 そして俺はと言うと、テルスに焚き付けられるまま警察隊の内偵に勤しんでいた。


「雄助! 早く立て!」


 アハト隊長から檄が飛んだ。


 俺は今、アハト隊長にぶっとばされてグラウンドに横たわっている。


 アハト隊長との特訓が始まってかれこれ一時間になるか。


「……まあ今日はこんなものか。一旦昼休憩にしろ」


 アハト隊長が『ヒマワリ』を鞘に収めた。


 そのガチンという音が、今の俺にとってはオアシスである。


「ありがとうございました……」


 俺はしばらく立ち上がることが出来ずに空を眺めていた。


 そんな俺の頭上からネズとウィルダーが声をかけてくる。


「おう、雄助も昼か? ほな一緒に飯いこや!」

「今日はかなり善戦してたんじゃない?」


 警察隊に所属してから約2ヶ月、俺の体は段々と戦闘に慣れてきた。


 我ながら恐ろしく思う。


人に対して刀を振ることに、少しずつ違和感が無くなってきているのだから。


 どれだけ時間を重ねても、最初の気持ちとか信念だけは忘れないようにしたいものだ。


 俺は勢いをつけて無理やり立ち上がり、少しふらつきながらも『リンドウ』を鞘にしまった。


 そんな俺を見かねて二人が肩を貸してくれる。


 ネズは俺より十センチほど小さく、ウィルダーは十センチほど大きいので非常に歩きづらい。


「……ありがとうっす。昼飯を楽しみに生きてたっすよ……」

「そんだけ食い意地張ってたら大丈夫やろ!」


 俺たちはそのまま食堂に直行し、思春期くらいの食い意地に身を任せる。


 狭い机の上に所狭しと料理を並べ、特に会話をすることもなくかき込んでいく。


 食事に夢中になっていると、俺たちの隣のテーブルに第一小隊のやつらが座ってきた。


 ネズと午後の訓練の話で盛り上がっている。


 ちなみにネズが第一小隊、ウィルダーは第三小隊である。


 俺はというと、小隊には所属していない。

 日によって各小隊を回り、御使い相手の模擬戦の相手役として使われているのだ。


 その関係で、かなりたくさんの隊員たちと関わってきた。


 ……その中に裏切り者がいるかもしれないんだよな……


 俺はなんとなく罪悪感を覚え、暗くなった顔を隠すように飯をかき込んだ。


 昼休憩を終えた俺たちは午後の任務に向けてグラウンドに集合した。


 平常時の警察隊では、鍛錬とパトロールなどの業務を小隊ごとに交代で行っている。


 今日は第二小隊が午前中のパトロール、第一小隊が午後からのパトロールと決まっていた。


 しかし、実際にグラウンドには第三小隊までが集められていた。


「雄助も午後はパトロールなんやろ? 三人揃ってパトロールってのも久しぶりやな!」

「前は三週間くらい前だったっけ? なんで急に第三まで集められたんだろうね」


 俺も午後はパトロールに参加するようにアハト隊長から指令を受けていたので、ネズとウィルダーの隣で指示を待っていた。


 三人でこそこそと話していると、集められた隊員たちの先頭から轟音が響きわたる。


「諸君! 午前中のパトロールの際、異音の報告があった! そのため、午後のパトロールは第一・第三合同で行うこととなった!」


 地を割くような轟音……というか大声。


 第一小隊のクルビ・ゼクス小隊長だ。


 彼を一言で表すなら、周りが引いてしまうほどの熱血漢である。


 赤に近いオレンジ色の髪、ありえないほど白く輝く歯。


 そしてなぜか裸足である。


 本人いわく"裸足の方が地面の感覚を掴みやすい! 犯人を追うときは裸足に限る!"らしいけど、絶対に靴は履いた方がいいと思う。


 ちなみに警察隊に来たばかりの俺を気に入って"俺の隊に来い!"と言ってくれたのも彼だ。


 馴染めるのか不安に思っていた当時の俺としては、クルビ小隊長の一言でかなり安心できた。


 だからひっそりと感謝しているのである。


「異音の詳細を報告する! 街中の至る所でゴゴゴと低く大きな音が聞こえたとのことだ! 異変を見つけたらすぐに報告するように! 健闘を……カハッ。祈る!」


 大声を出しすぎて咳き込んだ。


 アハト隊長は俺のことをバカ真面目と言ったが、それはクルビ小隊長のことではないか?


 ……と、気を取り直して俺たちはそれぞれ街中に散っていく。


 みんなで手分けした方が早いので、ネズとウィルダーとも隊舎の入り口で別れた。


 いつも通りの街並みに安心感を覚えつつ、細かい異変も見逃すまいと警戒を続ける。


 街の人に話を聞いたり、路地裏にまで目を光らせたり。


 それでも特に目ぼしい情報は得られなかった。


 ……低く大きな異音か。


 俺は前に戦ったヨブコオオカミの地を這うような咆哮を思い出し、身震いする。


 ……現時点で可能性を絞るのはやめよう。


 神獣のせいとは限らないしな。


 こういう時はあらゆる可能性を考えるべきである。


 そんなことを考えながらも俺はヨブコオオカミの影を振り払うことが出来ず、気付けば前にヨブコオオカミが現れた北の広場に足を運んでいた。


 流石にもう血の匂いはしない。


 街の人たちも、あの事件を忘れてしまったかのように笑い合っている。


 そんな平和を目にして思わず笑みが溢れた。


「なにを一人で笑っているのであるか? だいぶ怖いのである」


 前から歩いてきた健生が、少し嫌そうな顔をしながら言った。


 相変わらずの真っ黒なローブに身を包んでいる。


「健生! いや、平和だなーって思ってたんすよ」

「ふむ。まあその通りであるな。あ、ところで雄助よ、少し手伝って欲しいのである」


 俺は大きく頷いて同意し、健生の後について歩く。


 少し歩いた先には、見慣れた健生の出店があった。


「この出店を一度解体してな、もっと広場の中心に近いところに移すのである。昨日やっと運営から許可が出たのだ。どこの世界でも役所というのは時間がかかるものである!」


 健生がやれやれといった具合に肩をすくめてみせた。


 どうやら営業成績が良かったことで、もっとお客さんが多い位置に出店を移せることになったらしい。すごいじゃん。


「そういえば健生は"グラツィエ"っていうレストランで働いてるんすよね? どこにあるんすか?」


 この広場には国内外から出店が集まっている。


 健生の店にも是非行ってみたいものだ。


「ん、エスピケスという国である」


 え、国外だったの!?


「健生ってひょっとしてアルトケスの人じゃないんすか……?」

「ああ、言ってなかったのであるな。余は前世で死んだのち、エスピケス王国に転移してそこで保護されたのである。働き口のレストランもエスピケスにあるのである」


 そうだったのかよ!


 てっきりアルトケスの人だとばかり……


「じゃあ、エスピケスに戻らなくても良いんすか?」


 俺は木と鉄で組まれた出店を解体しながら健生に尋ねた。


 何気ない質問のつもりだったが、これがどうやらクリーンヒットだったようで。


「……オーナーシェフがな、こちらに残って集客して欲しいと言っているのである」


 明らかに健生の目が泳いだ。


 何かある。


 ちなみに俺は今絶賛パトロール中だ。


 本来はこんな風に油を売っていてはいけないのだが、明らかに怪しい健生の調査ということで……まあとにかく問題ないのだ。


「オーナーシェフっすか。どんな人なんすか?」


 俺は笑顔を崩さず、出来る限りの情報を引き出そうとする。


 申し訳ないが、健生の焦った顔には気づかないフリだ。


「彼も異邦人でな。同じ境遇の余にいたく同情して良くしてくれているのである。……それより雄助よ。そなたは何をしていたのであるか?」


 健生が話を逸らしてきた。


 これ以上突っ込むと怪しんでいるのがバレそうだな。


 でもせっかく掴んだ糸口だ。


 世間話を続けて、更なる情報を得る!


「ああ、俺はパトロール中っすよ!」

「せやな。お前はパトロール中やな雄助?」


 肩に手を置かれた。


 振り返るとそこには笑顔のネズと呆れた顔のウィルダーがいた。


「雄助、サボりはダメだよ」

「……ごめんなさいっす」


 俺は観念してパトロールに戻ることにした。


 多少なりとも収穫はあったから良しとしよう。


「雄助よ。パトロール中というなら良いことを教えてやるのである」

「良いこと? なにかあったんすか?」

「……これは内緒だぞ? 実はさっきな、すぐそこの道で異音を耳にしたのである! これは大事件の予兆に違いないのである!」


 腰に手を当て、俺たちを指差してドヤ顔をキメた健生。


 相変わらずのポンコツっぷりである。


 ネズなどは腹を抱えて笑っている。


「健生、俺たちは今まさにその異音を調査中っす……」


 健生の顔がみるみるうちに赤く染まった。


 前もこんなことあったな、なんて思い出していると、今回も健生の照れ隠しが発動する。


「よ、よし! では余が異音を聞いた場所まで案内するのである!」


 こうしてまたいつもの四人で行動を共にすることになった。


 四人でいる時なら油断して色々喋ってくれたりしないかな。


 俺は健生を疑うことに躊躇が無くなっている自分には気づかないフリをして、彼の話を聞く姿勢を整える。


「あっちの道を歩いているときにな、異様な音がしたのである」

「具体的にはどんな音だったの?」


 ウィルダーが健生の顔を覗き込むようにして尋ねた。


 その時だった。


「……ちょうどこの音である」


 俺たちのいる場所に、例の地を這うような異音が鳴り始めたのだった。

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