表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代の御使い  作者: 逆巻多巻
剣聖編
PR
34/41

第三十四話 心火の決着

 無数の鱗が飛び交う戦場で、俺たちは状況を打開する術を探る。


 球体となったシンカイワシは、矢じりのような鋭い鱗を撒き散らし、悠々と空に佇んでいた。


 どれだけ観察してみても俺たちの武器ではリーチが足りず、弱点である中心部の心臓に攻撃が届かない。


 一方のフウセンタカは、相変わらず上空からの突進を繰り返しており反撃の隙がない。


「健生! 危ない!」


 俺は咄嗟に健生の前に立ち、飛んできた鱗を『リンドウ』で弾いた。


 しかし全ては弾ききれず、いくつかの鱗が俺の腕や脚に切り傷を刻みつける。


「すまない雄助! 大丈夫であるか?」

「大丈夫っす。でもどうにかしないと、消耗戦になったら俺たちが不利っすよ」

「……なあ雄助、ノワレが使っている『シオン』はどのような能力なのだ?」

 

 今回、健生には知識や発想の面でかなり助けられている。


 その健生が聞いてくるということは、また何か思いついてくれたのか。


「確か……『シオン』又はその御使いを中心にして、物体を回転させる能力……だったと思うっす」

「なら、フウセンタカをシンカイワシにぶつけよう。フウセンタカがあの速度で突っ込めば、恐らく目に風穴を開けられるのである。そうなれば『リンドウ』も『ダリア』も中心に届くかもしれないのである」


 俺はその図を想像して、あまりの惨劇っぷりに顔を顰める。


「……健生、結構エグいこと考えるんすね」

「……生き残るためである」

「そうっすね……」


 やってみるしかない。


 健生の言う通り、まずはこの場を生き残らなければならないのだ。


 俺たちの本来の目的は『タンポポ』の捜索である。


 俺たちが生き残って見つけ出さなければ、また街に被害が出てしまう。


「グラン様、ノワレ! シンカイワシにフウセンタカをぶつけるから、タイミングを合わせてほしいっす!」

「なるほどねー。確かにそれなら、タカもしばらくは上空に戻れないかも」

「承知した! タイミングはノワレに合わせる!」

「はいはーい! じゃあ次の突進をイワシの方に逸らすからね!」


 ノワレはニヤリと笑うと、タカの攻撃を逸らす準備に入った。


 グラン様も、タイミングよくイワシを振り向かせるために視線を誘導する。


 そして俺は……


「……何をしているのだ雄助」


 俺は地面に散らばるイワシの鱗に『リンドウ』を突き立てた。


 硬すぎてなかなか刺さらないので、何回も何回も刃を打ちつける。


「落ちてるイワシの鱗から魔力を吸収してるんすよ。ノワレはタカの誘導、グラン様はイワシの誘導だから、とどめは俺が刺すしか無いっす。魔力を吸っとけば傷も回復するし……罪悪感も薄まるっすから」


 俺は笑顔で健生に向き直った。


 そんな俺を健生は真面目な顔で見つめている。


「……雄助よ。余はそなたが心配である。それは明らかに、人体には酷であろう。自己犠牲は必ずしも正義では無いのであるぞ」

「……まあ、そうっすね。確かに俺の親父も自己犠牲を繰り返して死んだっす」


 健生が目を見開いて顔を強張らせた。


 本当に芯から優しいやつだ。


 俺の境遇を聞いて、何も知らず説教してしまった自分を責めているんだろう。


 俺にはその漏れ出た優しさだけで充分だ。


「でも、今ならわかるんすよ。自分一人犠牲になるだけで、たくさんの人の命が救えるなら……俺は捧げるっす。警察官っすからね」

「……そなたが死んだら余は泣くぞ。命は平等に大切なんだろう? ならばそなたも生きていてくれよ」


 鱗を突き刺す腕が一瞬止まる。


 大きく息を吐き、自分の心と話してみた。


 俺はまた笑顔を作り健生を見やる。


「俺だって死にたいとは思ってないっすよ。極力泣かせないようにするから安心しててほしいっす!」


 俺は健生の手を握り込ませ、無理やりグータッチをした。


 健生は無抵抗でそれを受け入れつつも、何か言いたそうに口をパクパクさせている。


 でもそろそろ時間だ。


 フウセンタカが体を膨らませる。

 ノワレが『シオン』を体の前で構えた。


 風を切る音と共に、フウセンタカが弾丸のように急降下を開始した。


 それをギリギリまで引きつけてからノワレが叫ぶ。


「グラン!!!」


 フウセンタカはそのままノワレの周囲を公転し、遠心力を纏ってシンカイワシの方向へリリースされた。


 タカはそのまま勢いよくイワシの方へ突き進んでいく。


 強力な慣性によってか、それともフウセンタカの習性か。

 そのスピードは衰えることなく、瞬く間にシンカイワシの元へ到達した。


 グラン様はノワレの合図を聞いてすぐ、タカが飛んでくる方向へ体を投げ出した。


 そのグラン様の動きに反応したイワシがこちらを振り向く。


 その一つ目に、見事タカのクチバシが深く突き刺さった。


 見てるだけで気分が悪くなりそうなほどの血飛沫が飛び、イワシの低い絶叫が地を鳴らす。


 俺は『リンドウ』を構え、イワシの元へ走った。


 ひとしきりもがいたタカがイワシから離れたタイミングで、イワシの眼球に開いた穴へ『リンドウ』を突き刺した。


 イワシは雪山目掛けて最後の断末魔をあげ、その場に崩れ堕ちた。


 白銀の大地に赤黒い血溜まりが生まれ、自分が今一つの命を奪ったという実感が湧き上がる。


 後ろを振り向くと、グラン様の『ダリア』がタカの喉笛に突き刺さっていた。


 そのままタカは地面に墜落し、グラン様がとどめとして心臓部分を貫く。


 先程倒したと思った直後に、シンカイワシに復活されたことがよぎったのだろう。


 これにて二匹の神獣との戦いは、俺たちの完全勝利で幕を下ろした。


 俺は『リンドウ』を抜くと、それを傍へと投げ捨てた。


 そしてイワシの死体に向けて、赤く染まった手を合わせる。


「ふう……今度こそ終わったっすね」

「いやー……キツかったね」

「そうだな。無事か異邦人。助かったぞ」

「余は問題ないのである。あとケンセイ・ミムラである」


 なんとか全員無事に戦いを終えられた。


 これは自分にとって成長だと思う。

 ちゃんと健生を守り切ることができた。


 ……そう思わないと気が触れてしまいそうである。


 俺はなんとかそれを誤魔化したくて、全身の返り血を拭っては雪に振り落としながらグラン様に会話を振る。


「ところで、グラン様はどうしてここに?」

「『タンポポ』の御使いと戦う可能性が一番高いのがお前たちだったからな。兄上との会議が終わってすぐに走ってきた。……まさか神獣と戦っているとは思わなかったぞ」

「俺たちもまさかヨブコオオカミ以外の神獣と出くわすとは思ってなかったっすよ……」

「それが問題なのである」


 健生がその金髪の下で、神妙な面持ちで手を顎に当てていた。


「問題って?」


 ノワレが不思議そうに首を傾げて健生に尋ねた。


 健生は少しもったいぶってから話し始める。


「余はこれまで何度かこの森に来ているが、シンカイワシもフウセンタカも出会ったことがないのである」

「本来はこの辺りにはいない神獣だったということか?」

「いかにも。余は何か悪いことの前兆のような気がしてならん」


 グラン様も考え込むように下を向くが、すぐにまた顔を上げる。


「うーむ。とにかく今は『タンポポ』の捜索だな。行くぞお前たち」

「はーい。……ところでグラン、さっきは……」


 そこでノワレの言葉が少し止まった。


 真顔で少しグランを見つめるノワレ。


「……? なんだ?」

「助けてくれてありがとー」


 いつもより少し小さな声でノワレが感謝を述べた。


 それに対してグラン様は鷹揚に頷き、気にするな、と一言だけを添えた。


 そんなほっこりした場面をぶち壊すように。

 次の瞬間、グラン様の足が止まった。


「おい、あれ……」


 グラン様の視線の先、はるか上空。


 ふわふわと漂っているのは、先日見たヨブコオオカミ。


 先日と違うのは、数が十匹ほどに増えて隊列をなしていたということだ。


 途端にグラン様の顔が青ざめていく。


「……私は王都に戻り、オオカミの襲来を告げてくる! お前たちは反対方向へ走り、なんとしても『タンポポ』を見つけ出してくれ!」

「承知したっす! 行くっすよ健生、ノワレ!」


 グラン様が王都の方へ駆けていった。


 先程の『リンドウ』による身体強化がまだ残っているようで、ものすごいスピードで雪道を走っていく。


 急いで御使いを見つけねば、おそらくもっとたくさんの神獣が発射されてしまう。


 俺たちは先程の戦闘で疲れ果てた体に鞭を打ち、グラン様と反対方向へ駆け出した。


           ⚫️


 しばらく鬱蒼とした森を走り続けた先で、先頭を軽快に走っていたノワレが急にその場に停止した。


 よく見ると目の前の雪道に、人間の足跡が残っている。


 その足跡は俺たちの進行方向とは垂直に、左右の木々の間に伸びていた。


 まるで誰かが目の前を横切ったように。


「これ、足跡が残ってるってことは最近人が通ったってことだよね?」

「そうであるな。だが、ヨブコオオカミが飛んできていたのとは方向が違うのである」


 俺たちはヨブコオオカミが飛んできた方向に向けて真っ直ぐ進んでいた。


 つまり、『タンポポ』とは無関係な足跡である可能性がある。


「そうだけどさ。そもそもこんな森に用事がある人間なんてそういないし、ウチの勘ではこの足跡は追った方がいいね」

「じゃあ、また二手に分かれるっすよ。ノワレ、危なそうなら無理しちゃダメっすよ」

「当然だよー。雄助よりは修羅場潜ってきてるからね!」

「では雄助、余たちは直進を続けるのである」


 ノワレが右側の木々の間へ消えていった。


 神獣の出る森だから正直心配ではあるのだが、今はとにかく『タンポポ』を探そう。


            ⚫️


 ノワレは雪をものともせず、猛スピードで森を駆け抜ける。


 追っているのは目の前に続く足跡である。


 かなり森の奥まで来たところで、前方に黒い人影を見つけた。


 人影は二つ。


 ノワレは高速で思考を巡らし、制圧までの道筋を立てた。


 走ってきた勢いそのまま、一人に対しドロップキックをかました。


 蹴り飛ばした人物は、真っ黒なローブを着用している。


「そのローブ、ケミアで『オトギリソウ』をギャングに横流ししてたやつの仲間かな? とりあえず一旦連行させてもらうね。まあウチ警察隊じゃないけど」


 もう一人の黒いローブの人物が不敵にもフッと笑った。


 その笑みが、ノワレに違和感を覚えさせる。


 余りにも余裕がありすぎる。


 もしや罠……


「ギッ……!」


 その考えに辿り着いた瞬間、ノワレの首筋に鋭い痛みが走った。


 苦しい声を出して痛みに悶えたノワレ。


 バチンッという弾けるような音と共にノワレの体から力が抜け、その場に倒れ込んだ。


 薄れゆく意識の中、ノワレの目の前に三人目の黒いローブの足が見える。


 なんとか逃げないとなーとぼんやり考えていると、木々の間を強い風が吹いた。


 三人目の黒いローブの裾が捲れる。


 そこに現れた光景は、ノワレの頭に強く焼きついた。

 

 その記憶を忘れぬように反芻したのち、極寒の森の中、彼女の意識は途絶えた……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ