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神代の御使い  作者: 逆巻多巻
転移編
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3/20

第三話 リンドウの能力

 俺たちは改めて男の子に話を聞きつつ、ケミアの街の門をくぐる。


「悪い人はどこにいるんすか? 君は怪我はしてないっすか?」

「……」


 涙目で固まってしまった。一体どんな壮絶な体験を……


「刀堂雄助。あなたが怖いから泣いてしまいましたよ」


 え、俺なの!? 確かに子どもに好かれたことはないけど、泣くほど怖いかな……


「雄助。お前身長は?」

「182センチメートルっす」

「体重は?」

「78キログラムっすね」

「恵まれた体格だな」

「子どもにとっては大きくて怖い人ですね……」


 ……確かに。一応膝はついて話していたんだが、それでもデカい人間は怖いか。

 俺は男の子への事情聴取は諦めてテルスさんにバトンタッチする。


「悪い人というのはどこに? 怪我はありませんか?」


 テルスさんが優しく微笑みながら話しかける。


「怪我してないよ。……悪い人は、多分街のまんなか広場……」


 俺の時とは違い、スラスラと状況把握が進む。

 俺はちょっとばかり歯噛みする思いだったが、どうやらそんなこと言ってられない状況のようである。

 ちょうど男の子から話を聞き終わったタイミングで、甲高いラッパの音が街に響いたからだ。


「ラッパ? 街の中心の方から聞こえたっすね」


 すると急に男の子がテルスさんの足にしがみついて泣きだしてしまった。


「……ダメ。このラッパの音でみんなおかしくなって……」

「テルス、この子を守っておいてくれ。危なくなったら先に王都に戻って構わん。とにかく中心部に行くぞ雄助」


 男の子をテルスさんに預け、グラン様と共に街の中心へ向かっていく。

 閑静な住宅街……というか一人も人間がいない異様な街だ。静けさから少々不安が募ってきた。


「一緒に行くの、俺で大丈夫なんすか? さっき会ったばかりっすけど……」

「さっきも言ったが、御使いの力は強大だ。敵の御使いとまみえるなら、こちらも御使いが良い。それに、雄助は王都の位置は知らんだろう?」

「確かに。……頑張るっす……」


 責任重大である。自分が御使いであるという自覚はまだ薄いが、それでもあの男の子を泣かせたやつは許せない。

 そんな思いだけで、グラン様の隣りを愚直に歩いていく。

 十分ほど歩いたあたりだろうか、もう一度あのラッパの音が轟いた。さっきより音が大きかったからだろう、頭がキンキンと痛む。

 音楽に造詣が深いわけではないが、そんな俺でもわかるほどの不快すぎる不協和音。肺の中の空気を全部めちゃくちゃに吐いてみただけ、みたいな雑な音だ。

 ちらっと隣を見るとグラン様も嫌そうに顔を顰めている。

 直後、俺の目線の先、グラン様の奥から刃物を持った人間が近づいてくるのが目に入った。


「危ない!」


 俺は咄嗟に腰に挿してあった『リンドウ』を抜き、飛びかかってきた人影を斬りつける。

 嫌な感触が腕に伝わってくる。


「助かったぞ雄助。しかし傷は浅そうだな」

「あ、……うす」

 

 震えてしまって上手く声が出なかった。

 初めて人を斬った。

 神経が過敏になったからか、冷たい汗の感触が嫌というほど伝わってくる。

 もちろん命を奪う気などないので腹の辺りをちょっとだけ斬ろうと思っていたのだが、倒れ込んだ人影はどうやら立ち上がれないようだ。

 やばい、斬りすぎた……? スッと血の気が引いた。

 震える手で確認してみると、どうやら死んではいないようで、なにか呟いているのが聞こえる。


「……なぜ動けない……ニロビ様」


 なにやら気になる名前も出てきたが、それより襲ってきた人。どうみても普通の主婦にしか見えないんだよな。


「ふむ、この程度の傷なら動けるはずなんだがな。『リンドウ』の能力に起因するのか……一度深呼吸しろ雄助」


 どうやらグラン様から見ても真っ青な顔をしていたらしく、気を遣わせてしまった。

 一度『リンドウ』を置き、呼吸を整える。

 しっかりしろ。あの男の子のためにも頑張るんだろうが。

 高鳴る心臓を落ち着かせ、改めて斬った人に目線を向けるが、やはりその身なりからも悪人の印象は受けない。


「明らかに、普通の人にしか見えないっすね」

「さっきの子どもの話を考えるに、ラッパの音で洗脳されている可能性があるな」


 酷い話だ。無理やり操って人を襲わせるなんて。

 俺とグラン様はそのまま街の中心部へ急ぐ。道中何人かの刺客が現れたが、全員がただの村人にしか見えなかった。

 俺は『リンドウ』の使用を極力控え、襲ってくる刺客たちを次々と投げて昏倒させていった。

 そうしてしばらく進んでいった先に、大きな風車が見えてくる。


「あの風車があるところがケミアの中央広場だったはずだ」


 グラン様が『ダリア』を抜き、戦闘準備を整える。俺も『リンドウ』を握る手に無理やり力を込めた。


         ⚫️


 街の中心部、大きな風車が聳え立つ広場には大量の人が集まっていた。

 ここに辿り着くまで数人に襲われただけで、他の住民の姿が見えないと思っていたが、どうやらほぼ全員ここに集められていたようである。

 その時、またもけたたましいラッパの音が風車の方から聞こえてくる。……これはやばい。

 うるさいだけじゃない、何か別のものに心を乗っ取られる感覚がある。

 まるで子守唄を聞かされているような、意識を手放しそうになるふわふわした感覚。頭を抑えてなんとか耐え忍ぶ。

 するとその感覚を掻き消すように、風車の足元にあるお立ち台から大きな叫び声が響く。


「やっと来たなあ! 待ってたぜ王子様よお!」


 声でかっ!

 お立ち台の上から叫ぶその男は、やたらとボロボロな革の服に、ジャラジャラと大量のアクセサリーを纏っている。

 パンクロッカーかよ! でも手に持ってる楽器はラッパなんだよな……


「何者だ貴様!」

「俺はニロビってもんでなあ! この前からこの街の長をやってんだあ!」

「許可した覚えはないぞ。街の人々に何をした!」

「ちょっと操らせてもらっただけよお! このラッパ、『アサガオ』の力でなあ!」


 あいつめっちゃ喋るな。こんなに情報もらって良いんだ。

 グラン様も小さい声で「罠か……?」とか言ってるし。


「早速で悪いんだけどよお! テメェも御使いなんだろ!? アーククラフト置いてけやあ!」


 ニロビの大音声とともに周囲の人々が俺たちに襲いかかってくる。

 俺は覚悟を決め、『リンドウ』で向かってくる人々を少しだけ斬りつける。吐き気がするような感触だが、恐ろしいもので少し慣れてきてしまった。 

 今はとにかくあのニロビとやらを捕まえなければいけない。どれだけ嫌な感触でも、それを理由に逃げるわけにはいかないのだ。

 向かってくる人々の腹や背中を薄く切りつけていく。


「動けない……」

「ニロビ様……」


 先程と同じように、立てなくなるような傷ではないはずなのだが、斬られた人々は次々と昏倒していく。

 操られている人たちには申し訳ないが、ちょっとだけ倒れていてもらおう。


「操られている民間人はざっと五百人程か。流石に全員気絶させていくのは現実的ではないな」


 隣でレイピアを華麗に振り回し、住民たちを次々と昏倒させながらグラン様が呟いた。


「隙を見て元凶を叩く必要があるっすね」


 俺がグラン様に答えた時、一人の人間が俺に向かって長い槍を伸ばしてきた。

 慌てて飛び退いてかわし、相手を観察する。

 この身のこなし、パンクロックな格好。あといかにも悪そうな下卑た笑顔!


「よっ。その剣、あんたも御使いか」

「お前は元からニロビの仲間みたいっすね」

「おん。カパラってんだ。いやー、御使いとヤり合うの初めてだー。感激だな〜」


 悍ましい笑顔で自己紹介が済まされた。

 でも逆にやりやすいな。無実の村人より明らかな悪人の方が相手しやすい。


「んじゃあー、あんたの自己紹介とかは良いからさ! ヤろう!」


 俺には自己紹介の暇など与えず、いきなり戦闘が始まってしまった。

 カパラは長い槍を存分に使って四方八方から俺の命を狙ってくる。

 『リンドウ』を両手でしっかり握り、下がりながら受け止め続ける。

 でも『リンドウ』は刀なのでリーチ負けしてるんだよな……

 とか考えてたら槍が俺の頬をかすめ、血が滴った。やばい、超痛い……

 それでもなんとかポーカーフェイスは保ち、心臓をバクバク言わせながら血を拭う。


「んー……あんたなんで能力使わないんだよ? アーククラフトって言えば、炎が飛び出たり水が噴き出たりするもんじゃないのー?」


 残念そうに口元を尖らせながら聞いてくるカパラ。

 その態度に少々イラッときつつ、ご丁寧に情報を与えてやることもないので適当に返す。


「うるさい人っすね。戦闘中に情報をわざわざ与えるようなこと言わないっすよ」


 あんたのとこのニロビさんと違ってね。

 幸いなのは、どうやら俺が『リンドウ』の能力を全然理解してないことはまだバレてないということだ。

 これを使ってどうにか攻めに転じたいが……


「うーん……余裕ぶられるのはムカつくよね〜。まあ手数でも増やそうかな!」


 カパラの横から、合図を受けた住民たちが攻撃を仕掛けてくる。一人また一人と、正気を失った無実の住民を斬りつけていく……

 キツい……

 斬っていくと、その分住民がどんどん倒れていく。

 体力的には余裕だが精神的にどうにかなってしまいそうだった。

 俺の夢は警察官だったんだぞ! 市民を守る警察官が、不可抗力とは言え市民を刀で斬るとか……

 親父が生きてたら間違いなく勘当されてたな。

 必死で刀を振り続けた結果、気づいたら向かってくる住民はいなくなり、目の前には動けなくなった住民の山が築かれていた。

 命を奪ったわけではないが、後で土下座で謝ろう。


「やっぱあんた結構強いね! でも血だらけじゃん! そろそろ本気出しなよー」


 子どもみたいに地団駄をふむカパラ。本当にムカつくやつだ。

 確かに結構攻撃を受けてしまったし、現に俺は血だらけだけど…………うん?

 今気づいた。傷が塞がってる。血は出ていたけど、傷は完全に癒えていた。

 というか体もめっちゃ熱い。ちょっと動いただけで? 


「まあそこら辺のやつら何人か殺せば本気出してくれそうかな?」

「は?」


 その言葉を聞いて、俺は自分の体の違和感など忘れ、覚悟を決めて『リンドウ』を握り直した。

 カパラがそばで倒れている住民に向けて槍を振り下ろす。

 止めろ! と叫んだのが先だったか、走り出したのが先だったか。

 俺の踏み出した一歩は限界を超え、ものの二秒でカパラまでの約五十メートルを詰めきった。


「あ?」

「え?」


 カパラが吹き飛んだ。

 同時に頭に鈍い痛みが走った。

 俺も何が起きたかよく分からないが、自分自身の加速を止められずカパラの腹に頭突きをかましたっぽい。


「がはっ……」


 血を吐いて腹を抑えているカパラ。

 クラクラする頭を押さえながらなんとか立ち上がる。

 ひょっとしてこれが『リンドウ』の能力なのか……?

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