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神代の御使い  作者: 逆巻多巻
剣聖編
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第二十九話 救世の異邦人

「余こそが救世の異邦人、ケンセイ・ミムラである!」

「…………なんて?」


 反応が遅れた。


 これは何を言うのが正解なんだ? 


 俺があっけに取られていると、横から恐れ知らずのネズが話を切り出す。


「あっはっは! 兄ちゃんおもろいな! 俺ら警察隊のもんやけども!」

「ふむ。警察が余になんの用であるか」

「兄ちゃん……なんか心当たりあるんちゃうんかあ?」


 ネズが意地悪な表情でケンセイさんに問うた。


 心当たりとか言っているが、これはカマを掛けているだけだろう。


 あまり民間人をおちょくるのは……


「な、ななななな、なんの話であるか……? ……え、俺なんかやったっけ……ここ出店ダメだったのかな……いやでも……」


 お? 


 なんか小声でぶつぶつ言ってるぞ!


 よく分からないがネズの作戦? は有効だったようだ。


 でも全然違うことを心配しているようなので、ちょっと助け舟を出すか。


「あの、ただの聞き込みなので……神獣が出た時、教会にいたんすよね?」

「あ、あ、聞き込みか……いかにも。余はその時教会にて礼拝に勤しんでいたのである」


 喋り方はそれでいきたいんだ。


 というかさっきから思ってたけどケンセイ・ミムラって……


「あの……ところで、ひょっとして日本人だったりするっすか?」

「……え!? はい! あ、いや、いかにも。余は日本国より転移してきた異邦人である」

「マジっすか!? 俺も日本人なんすよ! こっち来て初めて日本人に会えたっす! 俺、刀堂雄助っす!」

「あ、俺も……違う。余も同郷のものと出会うのは初めてであるな。」


 もうその話し方やめたら良いのに。


 いわゆる厨二病というやつか。


 だが、たとえ厨二病でも、同郷と会えた感動に比べたら些細なことだ。


 俺はケンセイさんの手を握ってブンブンと振り回す。


「ミムラケンセイって本名っすか? どういう字書くんすか?」

「余の真名を知りたいと申すか。……これもノブレス・オブリージュ……か」


 なんかよくわからないことを言ってから、ケンセイさんが地面に木の棒で漢字を書き始めた。


 三村剣聖。


 まじで下の名前剣聖なんだ。


 ……おっと、本題を忘れていた。


「あ、ところで剣聖さん、神獣が飛んできた時、何かを見たとか聞いたとかはないっすか?」

「特に異常を感じたことはないのである。しかし雄助よ、妙だとは思わんか?」


 唐突に神妙な面持ちで剣聖さんが問いかけてきた。


 途端に俺たちの間に緊張が走り、次の剣聖さんの言葉を聞き逃すまいと息を呑む。


「妙って、何がっすか?」

「巨大なオオカミが飛んできたのだぞ。さらには着地の際に傷一つ付いていなかった。余の見立てではこれは……アーククラフトが使われたに違いないのである!」


 ……さてはちょっとポンコツか?


「ああ、それはもう分かってるんすよね……他に何か気づいたことはないっすか?」


 剣聖さんの顔がみるみる赤く色付いていく。


 満開のバラのようになってしまった顔を隠し、剣聖さんは言葉を続ける。


「と、特に無いのであるな……よし、これから調査をするのであろう? 余も手伝うのである!」


 剣聖さんが高い声で捲し立てた。


 これは多分照れ隠しだな。


 提案自体は嬉しいけど、調査に民間人を巻き込むのはなあ……


「ええやん! この辺の調査やったら危ないこともないやろし、人手は多い方がええわ!」


 ネズはちょっと楽観的すぎるところがある。


 ウィルダーの方に目配せすると、諦めたようにうっすら笑って頷いている。


 なんだかノワレに対する自分と重ねてしまうな……


 まあ貴重な目撃者だし、少し手伝ってもらうとするか。


「じゃあ、手伝ってもらうっすよ。危ないことはさせないから安心してほしいっす!」

「よし、そうと決まれば余の圧倒的な観察力を見せつけてやろうではないか!」


 絶妙に頼もしく無いセリフを吐きつつ、真っ黒なローブを脱ぎ捨てた剣聖さん。


 その下には明らかに家庭科で作ったドラゴンのエプロンが付けられており、右下に刺繍で名前が縫い付けられている。


 "三村健生"。


 ……いや剣聖じゃないのかよ!


 さん付けするのも馬鹿らしくなってきたので、こいつのことはこれから健生と呼ぶことにしよう。


 そうして呆れる俺の横で、ネズはドラゴンエプロンを見て目を輝かせている。


 あれを初めて見た男子は世界とか関係なくときめいてしまうものらしい。


 慌てて首を振り、気を取り直したネズ。


「決まりやな! そしたらオオカミが着地したあたりから少しずつ範囲を広げて異常を探すことにしよか!」


 ネズが軽い足取りで歩き出した。


 歩きながらネズとウィルダーも思い出したように自己紹介を済ませてしまう。


 少し歩いて広場の中央付近、まだオオカミの血の匂いが残っている噴水近くに到達した。


 辺りを少し見回してみると、広場は出店が片付けられたことで少し広く見える。


 立ち並ぶのは民家ばかり。もしかしたらあの時の痕跡も、既に消えてしまったかもしれないな。


 これは長丁場になりそうだ。


「じゃあ、それぞれ別の方に散って、少しでも怪しいものがあったら報告することにしよう」

「承知した、ウィルダーよ。ではまた後ほど落ち合おうぞ! ぶべっ」


 ……健生が一歩目で転けた。


 というよりは、振り向きざまに噴水に足を引っ掛けて水の中にダイブした。


 厨二病だけでなくポンコツまで重症なのかよ!


「ぶはっ! 敵の攻撃であるか!?」


 違うよ!


 俺は頭を抱えつつ、でもなんか愛嬌のあるやつだなと感心する。


「転けただけっすよ。足元気をつけないと」

「なるほどな。ところでこれはなんだと思う?」


 健生の手にはきらりと光る小さなバッジが握られている。


 銅製の硬貨のようだったが、見たところこの国の硬貨ではない。


 そのバッジの両面には何かの花が刻印されていた。


「なんやこれ? こんな硬貨見たことないわ」

「そうだね。しかも花の絵が刻まれてる……」


 花の刻印……


 アーククラフトって全部花の名前を冠してるよな……


「これひょっとして、健生、大手柄じゃないすか!?」

「なんか噴水の出っ張りの奥に落ちていたのである」

「とりあえず隊舎に持って帰ろう。もしかしたらアーククラフトの部品かもしれない!」


 かなりの確率で大手柄だぞ!


 俺たちは少々テンションが上がり、バシバシと肩を叩いて健生を称えた。


 そしてびしょ濡れになった健生も一緒に警察隊舎に帰ることにした。


 それにしてもつくづく運の良い男だ。 


 昨日まで警察隊の面々やグラン様たちが血眼になって探したであろうものを、まさかこんなに簡単に見つけてしまう……とは……?


「何しとるんや雄助! はよ行くで!」

「あ、今行くっす!」


 ネズに急かされ、慌ててみんなの後ろをついていく。


 それから十五分ほど歩き、俺たちは警察隊舎に戻ってきた。


 急いで隊長室に駆け込み、アハト隊長にバッジを見せる。


 というか多分リンゴに見せるのが一番早いよな。


「ネズ、ウィルダー。健生が濡れたままだと風邪ひくから、大浴場に案内した方が良いっす。俺は後から合流するっすよ」

「おう! 雄助もはよ来いよ!」


 そう言って三人をこっそり部屋から追い出し、カバンにずっと入っていたリンゴを出してあげた。


 クマ耳をメタリックな手で整えるリンゴ。

 人間が前髪をいじるのと一緒かな?


 一通り整えて満足げなリンゴに、さっき健生が拾ったバッジを見てもらう。


 アハト隊長もリンゴのことを知っているので、一緒に見てもらうことにした。


 しばらく表裏を確認したリンゴが、確信を持って言葉を紡ぐ。


「……間違いないわネ。あの健生って子、お手柄ヨ。これはアーククラフト、『タンポポ』の目標バッジですワ」

「『タンポポ』ぉ? どんなやつなんだそれは」


 アハト隊長が怪訝そうな顔でリンゴに尋ねた。


 タンポポといえば黄色い可愛い花のイメージしかないな。


 その名が冠された兵器というのは一切想像がつかない。


「『タンポポ』は投石器、いわゆるカタパルト型のアーククラフトですわネ。発射台に乗せて飛ばしたものを、目印に向けて確実に届ける能力を持っているのヨ。このバッジはその目印ネ」


 なるほど、それでオオカミがふわふわと飛んできたわけだ。


 確実に届けることまでが能力だから、オオカミは無傷で着地できたのか。


「なるほどな。あらかじめこのバッジを広場に置いて、ヨブコオオカミを発射台に乗せて飛ばしたわけだ。どれくらいの距離を飛ばせるんだ?」

「最長で五十kmってとこネ」


 五十km!? 


 そうなると、どこから飛ばされたのか特定するのは難しいな……というかそれより大事なことがある。


「これが置きっぱなしだったってことは、もう一回飛ばしてくるってことっすかね?」


 俺の問いを聞いてアハト隊長の顔が一気に険しくなる。


 バッジに向けて飛ばすなら、バッジを置きっぱなしにしてもう一度神獣を飛ばしてくる可能性は極めて高い。


 なんとなく見えてきたな。


 俺が疑問に思っていた、犯人の目的。


 一回目はやはり実験だったのだろう。『タンポポ』を使って神獣を届けた時、どれくらいの被害が出るのか。


 それを確認していたのではないか?


「それが問題なのヨ、雄助。『タンポポ』は同じ目印には一回しか飛ばせないのヨ。でもネ、もう一回同じ目印に飛ばせるようになる"条件"があるのヨ」


 嫌な予感がする。


「その条件ってのは?」

「目印を百メートル以上移動させることだワ」


 途端に血の気が引いていく。


 俺が不用意に動かしてしまったことで、『タンポポ』は再び装填されてしまったわけだ。


 結果論になるが、見つけたところから動かさずにリンゴに見せるべきだった。


 固まってしまった俺にアハト隊長が声をかける。


「あまり自分を責めるなよ雄助。防ぎようのない事故だ。それより、対策を考える方を優先するぞ」


 アハト隊長に心を見透かされた。


 隊長の言う通り、今は落ち込んでいる時ではない。


 一つ鼻を啜り、リンゴに向き直る。


「リンゴ、『タンポポ』の目印ってこの一つだけっすか?」

「何個も作られていたはずヨ。街中に設置されているかもしれないわネ」

「それなら一度街中を捜索した方がいいな。とりあえず、ネロセーヌ殿と相談して部隊を再編する。雄助は少し待機だ。早めに風呂入ってこい」


 今すぐなにか動きたい気持ちをぐっと堪え、隊長に敬礼して隊長室を去る。


 隊長室を出た途端、体から力が抜けた。


 俺の判断ミスで、街中を危険に晒してしまうかもしれない。


 その事実がただ恐ろしく、同時に己の軽率さと不甲斐なさを直視させられる。


 俺は震える手と瞼を抑えながらなんとか立ち上がり、何回か壁にぶつかりながらも健生たちが待つ大浴場へと向かった。

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