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神代の御使い  作者: 逆巻多巻
ロコモ王国編
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第二十四話 毒撃の妖花

「奥義!……ハイ・ソルバレット!」


 リックが右脚で強く地面を蹴った。


 土の地面は大きく抉れ、轟音と共に目にも止まらぬ速さでアコに迫っていくリック。


 光を帯びて超高速で敵に突撃するその技は、まさに弾丸と呼べる必殺の一撃だった。


 この技により、先程のノワレとの模擬戦でも勝利をもぎ取っている。


 だからこそリックは勝利を疑わない。


 アコがいくら強かろうと、初見でこのスピードと威力に対応できるはずがなかった。


 一秒も経たないうちにアコの目の前に光の塊が到達し、リックが『ハイビスカス』を振り下ろした。


 しかし……


「危なっ! 思ったよりは速かったよ」

「なっ……」


 アコは飄々とそこに立っていた。


 ただの一歩も動かなかったのである。


 『ハイビスカス』による一撃は、綺麗にアコの横の地面へと逸れ、その部分の土を深く抉っているのみ。


 アコの金色の瞳が鏡となり、驚愕の表情を浮かべるリックを映し出す。


 リックの頭の中に理解できない混沌が訪れた。


 自分の必殺奥義が対応された?


 自分が目測を誤り、攻撃を外した?


「そんなはずがない! 何故だ!? 人間が私のスピードに反応できるわけがないらるぅお!」


 自分の言葉の違和感をもって、ようやく自分の失策に思い至るリック。


「口が痺れて上手く喋れないかな?」

「まさか、わたひはすれに……?」

「そうだ。さっきから少しずつ、お前は毒を吸っているんだよ」


 慈悲に満ちた、まるで女神のような笑みをリックに向けるアコ。


「い、いつから……?」


 絶望した顔のリックは、毒によって回らなくなった思考を自ら放棄し、無様にもアコに答えを求めた。


「簡単じゃないか。ヒットアンドアウェイに切り替えることであえて懐に引き寄せた。そして旗を細かく振り続けることで毒の飛沫を撒き、呼吸と共に吸わせた……今ので理解できたかい?」


 ガクガクと膝を痙攣させ、その場へ崩れ落ちたリック。


 即効性の毒が神経を占拠し筋肉を侵しているのだ。

 リックにもう立ち続ける力は残っていない。


 アコの前にひれ伏し、主人の審判を待つように頭を垂らすのみ。


「ばから……あぜわたひは気づかず……」


 項垂れるリックの手から、『ハイビスカス』が零れ落ちた。


 傘を持つことすらままならない憐れなリックを見下ろし、アコが非情に告げる。


「怒りに身を任せるからだ。それは心に秘めるものであって、心を預けるものではないのだよ」


 アコはリックの口元へ手を伸ばし、その掌から強制的に毒を流し込んでいく。


 雛に餌付けする親鳥のように。


 しかし流し込むのは美味しい餌では無く、どす黒い神経毒である。


 リックは手足の痺れによって抵抗するのも叶わず、与えられる毒を甘受するしかない。


 次の瞬間には血を吐き、白目をむいて意識を手放すことになった。


 御旗に毒された勝利の女神は、アコに微笑まざるを得なかった。


             ⚫️


「リックが負けた!?」


 テーサが驚愕の表情を浮かべている。


 この状況は非常にまずい。


 俺は斬られて大きな傷を負っている上に、『リンドウ』と『シオン』を向こうに握られている。


 リックさんはアコに負け、テーサは無事だが戦闘力は皆無だ。


 対して向こうは、アコ、シュウジともにまだ戦える上、そのうちファウナが戻ってくる。


 ……絶望するなという方が無理がある。


 俺は痛みで上手く回らない頭で必死に対応策を考える。


「さあ、もう良いだろう。おとなしく『ガジュマル』を渡せば、無理に命までは取らんさ」


 シュウジに実質的な勝利宣言をされた。


 でも実際に絶望的だ。


 もうシュウジを睨みつけるくらいしか出来ることがない。


 しかしここで、勝利をあきらめていなかったテーサの一言によって一筋の光明がさす。


「雄助、ノワレ。シュウジの後ろにある磁石使えないか?」


 磁石?


 アーククラフトを回収するために軍艦に取り付けられている、あの強力な磁石か。


 確かに、シュウジの『ウツボカズラ』は磁力を操る能力らしいから、何かしら出来そうな気はする。


「テーサ、『ガジュマル』の精霊はまだ使えるの?」

「ああ、さっき雄助と山に登った時に呼び出した精霊がいる。今から笛を鳴らさなくても一体なら使えるぞ」

「だったら…………ていうのはー?」

「結構綱渡りっすね……でもやれることやるしかないっす……!」


 テーサの提案を受けて、俺たちは逆転の一手を弾き出した。


 その間もシュウジは特に攻撃してくる事なく俺たちを待っていた。


 おそらくファウナを待っているのだろう。


 抜け目がないな。


 直後にそのアコが、横から俺たちの船に乗り込んできた。


「アコ、大丈夫なのか? 随分と苦戦していたようじゃないか」


 シュウジがアコの腹に出来た青痣を目ざとく見つけ、多少煽るように言った。


 アコは優しく脇腹をさすりながら、船の甲板に優雅にしゃがみ込んだ。


「問題ないさ。ちょっと脇腹は痛むけどね。あんたこそ、未だに『ガジュマル』を回収できてないのかな? ノワレちゃん相手に情でも湧いた?」

「……ふん。冗談はよせ」


 俺たちに目を向けながら会話を続けるアコとシュウジ。


 チャンスは一瞬、二人が油断している今しかない。

 ノワレと無言の目配せのみでタイミングを揃える。


 俺はおもむろに立ち上がり、二人に向けてファイティングポーズをとった。

 

 俺はまだ動けるのだぞと、全力で誇示するように。


「やめておきな。その傷で動いたら出血で死ぬよ」

「余計なお世話っす」


 アコの忠告には耳を貸さず、一歩前へ踏み出した。


 アコとシュウジがそれぞれアーククラフトを構える。


 ……完全に上手くいった。


 次の瞬間、シュウジの体がグイっと後ろに引き寄せられる。


「な……磁石か!」


 シュウジの『ウツボカズラ』は磁力を操るアーククラフト。


 その能力を逆手に取った。


 船に取り付けられているアーククラフト回収用の磁石。

 『ガジュマル』の精霊がそれをシュウジの方に動かし、『ウツボカズラ』を吸い寄せたのだ。


 手負いの俺が注意を引けば、一瞬でもシュウジたちの油断を誘える。


 テーサの作戦通りだ。


 俺はガッツポーズしたいのをグッとこらえてシュウジたちの次の動きから目を離さない。 


「ちっ……」


 シュウジは能力を反発に切り替え、磁石の支配から逃れた。


 それと同時に『リンドウ』と『シオン』を固定していた磁力も解除され、ゴトンと床に落ちた。


 そこを見逃さず、ノワレが『シオン』を回収しつつシュウジにアッパーを食らわせる。


 鼻頭に拳をもらい、たまらず後ずさったシュウジ。


「雄助これ!」


 ノワレが『リンドウ』をこちらに投げ渡してくれた。


 それをキャッチし、抜刀しつつアコの方へ向き直る。


「まだ諦めなくて済みそうっす……!」

「『ガジュマル』……そういう使い方も出来るんだね。俄然欲しくなったよ」


 次の瞬間、テーサと『ガジュマル』に狙いを定めたアコが猛撃を仕掛けてくる。


 俺は落ち着いて二人の間に割って入る。


 『リンドウ』とアコの旗が激しくぶつかり合い、彼女の真紅の髪が至近距離まで迫ってきた。


「お互い手負いっすね……!」

「だからあたしに勝てるかもって思ってるの?」


 シュウジに斬られた傷の痛みが頭を占拠しようとするのを必死に抑え、どうにかアコを破る方法を模索する。


 正直言って厳しい相手だ。


 俺が一人では倒せないヨブコオオカミ、それをボコボコに殴れるノワレ、彼女に勝ったリックさん、そしてリックさんを圧倒したアコ。

 

 ……食物連鎖みたい。


 とにかく俺とアコには絶望的な実力差があることは明白だった。


 まずはなんとかアーククラフトを取り上げて、力の差を埋めるのだ。


 そしていくつかの攻防の末、改めて思った。


 アコの旗はとにかくリーチが長い。


 その上毒を撒けるので、まともに近づけないのだ。


 しかし、旗を取り上げるためにはどこかで一気に距離を詰める必要がある。


 俺はアコの肩付近を狙い、牽制の突きを繰り出す。


 アコは予想通り旗を縦に持ち、柄の部分で防御してきた。

 

 旗を縦に持った状態から攻撃に移るには少しタイムラグが出来るはずだ。


 今しかない!


 俺は狙いすましてアコの旗の柄を掴んだ。


「あんたもここを触ってるっすからね。ここには毒の効果は無いんじゃないっすか!?」

「それはどうかな?」


 旗を間にして組み合っていると、アコに腹を蹴りあげられた。


「痛っ!」

「深そうな傷だね」


 的確にシュウジにやられた傷を狙ってきたな!


「……見た目よりは深くないっす」

「……それは良かったね……?」

「だからナメないで欲しいっすね!」


 急激に力を込めて旗をひったくる。


 アコはビックリしたように目を見開き抵抗するも、俺の全体重には敵わず旗を手放した。


 アコが急に手を離すものだから、俺はゴロゴロと甲板の上を転がった。

 しかし旗からは絶対に手を離さない。


 じわりと滲む毒液を吸ってしまわないようにしつつ、旗を高々と掲げてみせる。


「よっしゃ! もう毒は使えないっすよ、アコ!」


 俺は勝ち誇ったように手を腰に添え、アコを見据える。


 アーククラフトさえなければまだ勝機はある!


 しかし、アコの反応は思っていたものとは違った。


 アコは暖かな笑顔を崩さない。

 

 美人の笑顔とはかくも恐ろしいものなのか。


「あんた、結構かわいいね」


 悪寒が体中を駆け巡った。


 次の瞬間、俺の顔を狙ってアコが手を伸ばしてくる。


 その手からは、黒紫の液体が滴っている。


 まだ毒が使えるのか!?


 ギリギリでアコの手を回避し、後ろへ倒れこんだ。


「なんでまだ能力を使えるんすか!? もうアーククラフトは持ってないのに!」


 俺は困惑の表情でアコを見やる。


 そんな俺の反応はアコにとっては面白かったらしく、彼女は少し笑ってから言葉を紡ぐ。


「そりゃあ簡単な話だよ。アーククラフトを持っているから能力を使えるのさ」


 持っている?

 旗は奪ったのに……?


 俺は手元の旗をじっと見つめる。

 一般的な金属の柄に、濃い紫の布が付いた旗。


 ここでアコと初めて会った時のリンゴの言葉を思い出した。


 旗型のアーククラフトなんて見たことない。


 二千年以上生きてきたリンゴですら見たことがない? 


 俺はもう一度アコの全身を見渡してみる。


 ……あ、そうか。


 また勝手な思い込みで、アーククラフトは武器なんだと思い込んでいた。


 だから旗がそれなのだと思考をロックしてしまっていた。


 違う。


 金色に輝き、紫の宝石を煌めかせる、あのド派手な……


「気付いたかな? あたしのアーククラフトはこの冠だよ。身につけている間、全身から毒液を分泌できるのさ」


 旗はおまけかよ!?

 じゃあなんで旗なんて使いづらい武器を使ってるんだと文句を言いたくなったが、それをグッと堪えて考える。


 毒、冠。


 なんとなくアーククラフトの製作者の趣味がわかってきた。


「ひょっとして、『トリカブト』とかっすか……?」

「お、正解。あんた異邦人だって? なかなか勘の良いのが王権側についたみたいだね」


 アコが適当な感じで拍手を送ってくる。


 ラッパ型や指輪型のアーククラフトがあるのだから冠型だってあるよな。


 俺はなんてアホなんだ。

 

 アコの拍手があまりにも皮肉に満ちているのもあって悲しくなってきた。


 今後はこういう思考ロックには気をつけよう……


 とにかく旗を奪っても残念ながら大きなアドバンテージは得られないようである。


 しかしリーチでは逆転できたのも事実だ。


 丸腰のアコから、蛇に睨まれているような圧を感じつつ、俺は逆転に向けた思考を巡らす……

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