第二十二話 金色の再開
海中にアーククラフトを見つけた!?
さっき言っていた、世界のどこかに隠れているうちの一つというわけか。
「とにかく大手柄じゃないっすか! 急いで引き上げるっすよ!」
「よし、軍部で船を出そう!」
俺たちは競い合うように、転げ落ちるように山を下っていく。
最初は山登りになんの意味があるんだとか思っていたが、結局テーサとの中は深まり、良い収穫もあった。
……今度ノワレと山登ってみようかな。
そんな馬鹿げた考えは鞘にしまいこみ、俺たちはダッシュでロコモ軍本部へ向かった。
⚫️
……山登りの末に海の中にある物を見つけた。
自分で言ってて頭がおかしくなりそうである。改めてアーククラフトの脅威を体験した。『ガジュマル』めっちゃすごいじゃん。
一息で山を下り切った俺たちは、息を切らしながら軍部の基地へと駆け込んだ。
基地という名称だけあって、グレーを基調とした物々しい雰囲気である。
テーサのおかげで俺も顔パスとなり、特に検査などもなく基地の中に通された。
そこでノワレとリックさんと合流したのだが……
「ボロボロじゃないっすか、ノワレ」
ひょっとして……
「まーけたー……」
「想像の数倍は難しい試合でした。奥の手を使わなければどうなっていたかわかりません」
なんとノワレが負けたらしい。
リックさんは『ハイビスカス』を日傘に澄ました様子で佇んでいる。
ヨブコオオカミとの一戦を見ていると信じ難いが、めちゃくちゃ落胆しているノワレの様子を見れば、その勝敗は疑うべくも無い。
「ノワレが負けるの想像できなかったっすよ」
少し正直すぎる本心を伝えると、ノワレは不貞腐れたようにそっぽを向いた。
「次はウチが勝つし。まあ今回はリックくんは味方だからね。ノーカンで!」
切り替え早っ!
めちゃくちゃ楽天的に笑うノワレに驚きつつ、俺たちはさっき見つけたものの報告へ移る。
「それよりもだ! 俺様たちは見つけたぞ、新たなアーククラフトを!」
それまで無表情だったリックさんが、表情を明るくしてテーサに詰め寄る。
「本当かテーサ! どこにあるんだ?」
「海の底だ! どうやって回収するか検討もつかん!」
俺はテーサのこういう正直なところにかなり好感を抱いている。
めっちゃ良いやつだよなこいつ。
「とりあえず軍部の船を出そう。たしか、強力な磁石を搭載した船があったはずだ。それで引き上げられないか試してみよう」
そう言ってリックさんは基地の内部に駆けて行った。
模擬戦の話を聞きながら少し待っているとリックさんが駆け戻ってきて、そのまま軍部の船を借りられることになった。
「許可降りるまで早かったっすね!」
「そりゃあアーククラフトは巨大戦力だしな。この国には『ガジュマル』と『ハイビスカス』の二つしかないし、何がなんでも手に入れたいのさ」
確かに『ガジュマル』の能力なんかを見てると、一つあるかどうかで戦略が全くもって変わってしまうほどの力があると感じる。
なるほどそういうものかと納得し、俺たちは船の準備が出来るまで待つことになった。
⚫️
一時間後、俺とノワレ、テーサ、リックさんの四人と軍部の数人で小さな軍艦に乗り込んだ。
驚いたのが、軍艦がエンジンで動いていたことだ。
こっちの世界にはエンジンを作る技術は無いと勝手に思っていた。
自動車とか見たことなかったからな。
「こっちの世界にもエンジンあったんすね」
そばにいたリックさんを捕まえて聞いてみる。
「ええ。と言っても実用化されたのはここ数年ですがね。まだまだエネルギー効率が良くないのが現状です」
なるほど。
技術的にはまだ未発達なようだ。
だから自動車の開発も遅れているのだろうか。
「ですから、気を付けてくださいね……信じられないくらい揺れますよ」
「……俺、遠くを見ておくっす」
発進した軍艦は、確かにびっくりするほど揺れている。
波はそこまで高く無いのだが、エンジンからくる小刻みな揺れが俺たちの体にガタガタと伝わってくる。
グングンとスピードを上げていく船に揺られ、酔わないように水平線を見つめ続ける俺。
ノワレは船酔いとは無縁なようで、船の高いところに陣取って気持ち良さそうに潮風を浴びている。
「ねぇ! 海の中でも磁石は使えるの?」
船のエンジン音が大きくなる中、掻き消されないようにノワレが大声で叫んだ。
それに共鳴するようにテーサが大声で返す。
「ものは試しだろ!」
先程から思っていたが、この国の人たちはおおらかすぎる。
元の世界でも南の国はこんなイメージだったかな。
俺は一抹の不安を覚えつつ、船に揺られて目的地を目指していく。
灯台を目印に十分ほど沖に進むと、波の狭間で目的のポイントに到達した。
そして船員の軍人たちがあくせくと回収用磁石の用意を始めた。
磁石と聞いて、深海まで届くのか不安に思っていたのだが……
「デッカいっすね!」
「この国で用意できる最も強力な磁石です」
軍艦の先端に滑車のようなものが取り付けられ、そこに錨みたいなサイズの磁石がくっついていた。
滑車にセットされたロープも三百メートルほどはあるため、これなら底に沈むアーククラフトにも届くかもと期待を抱かせてくれる。
「よし、磁石を下せ!」
リックさんの号令と共に、滑車が大きな音を立てて回り始めた。
後はしばらく待つだけだったのだが……
滑車のガラガラという大きな音のせいで、それに気づくのが遅れてしまった。
「おい、雄助。あれなんだと思う?」
テーサが指差す先。
輝く青い海のさらに沖の方から、一隻の小型船が猛スピードで迫ってくる。
その船頭に立っているのは、真紅の髪を揺らす精悍な顔つきの女性。
「アコ! 妖花連合っす!」
俺が叫んだと同時に、金色の円盤に乗った男がこちらの船に飛来した。
短い黒金の髪にロングコートをたなびかせ、甲板にドンと降り立った男。
空飛ぶ円盤だと思ったものは中心に穴が空いており、周りには鋭い刃がついている。
昔何かで見た、チャクラムというやつだろうか。空間を切り裂くような鋭い刃が金色に煌めいている。
その男を一目見たノワレが、か弱く呟く。
「シュウジ……」
あれがシュウジか!
緋色の目とこけた頬が、ギラリと圧を放っている。
身長は俺と同じくらい、少し痩せぎすな体躯だ。
ノワレと同じ、盗賊団ミツバチの元メンバーであり、現在はアコの右腕となっている男、か。
「久しぶりだな、ノワレ」
「シュウジ……もうやめようよ。団長は復讐なんて望んでなかったよ!」
団長?
さっきノワレが言い淀んでいたのは、ミツバチの団長のことだったのか?
「そうだな。あいつは復讐なんてことは忌み嫌うだろう。……だが、俺が復讐を望んでいるのだよ! 団長を殺した者に復讐し、奪われたアーククラフトを取り戻す! それ以外の道に生きる気はない」
俺は初めてシュウジと顔を合わせたが、説得は難しそうに見える。
シュウジは目が虚だ。
敬愛する人を亡くした人間の目、人生に絶望し、世界に失望している目だ。
……俺が親父を亡くした時も同じような目をしていたのだろうか。
だとしたら、母さんには心配をかけてしまっていただろうな。
「はいはい。そういうのは今度にしときなよ、シュウジ」
アコが俺たちの船にストンと飛び乗り、シュウジとノワレの会話を遮った。
「……承知した。では本題だ。貴様らのアーククラフトを貰うぞ!」
次の瞬間シュウジは思い切り地面を蹴り、俺たちの方へ突っ込んできた。
俺は即座に『リンドウ』を抜き、シュウジのチャクラムによる斬撃を迎え撃つ。
シュウジは両手にチャクラムを持っており、その直径は六十センチほど。
しかも空を飛ぶような能力を持っているようだ。
「アコから聞いている。魔力を吸収する能力を持った、太刀型のアーククラフトか。貴様、名は何という?」
情報はしっかり共有されてしまっているみたいだな。
これはもう一旦開き直って言ってみるしかないな。
「俺は刀堂雄助って言います! ノワレのためにもこっち側に戻ってきて欲しいんすけど!」
「事情を知らぬ者が首を突っ込むな! これはミツバチと妖花の問題だ」
「……ごもっともっすね……」
威嚇するように牙を見せて激昂するシュウジの圧に負け、俺は口をつぐむしかない。
こういう説得はあまり得意ではないので、もうシュウジと睨み合う以上のことは出来そうもない。
「ちょっと! 言い負かされるの早いって雄助!」
ノワレの視線が痛い。
痺れを切らしたように俺とシュウジの間に割り込み、戦闘に身を投じるノワレ。
ノワレがシュウジを相手している間に、リックさんが船員たちに指示を出す。
「撤退だ! 港に戻り、軍本部と落ち合う!」
リックさんの号令を受けて、俺たちの船は元来た方向へ舵を切った。
「ちっ……ファウナ! 水底のアーククラフトを回収するのだ!」
負けじとシュウジが船に残っていたファウナに号令をかけた。
船のエンジンがドルンと唸り、速度のギアを上げた。
これにより束の間の撤退戦が始まったのだ。
俺たちの船はスピードを上げて港へ直進を続ける。
もちろん穏やかな旅路になる訳もなく、激しく揺れる船上で俺たちの戦いは続く。
戦場ではシュウジが暴れ回っていた。
俺とノワレの二人と対面しているにも関わらず、互角以上の戦いを見せつけられている。
「……シュウジ、そんなんどこで手に入れたのさ!」
ノワレが恨めしそうにシュウジを睨んで言った。
先程から果敢に立ち向かっていくノワレだが、『シオン』を見えない力で弾き飛ばされ、なかなか攻められないでいる。
どうやらあのチャクラム型のアーククラフト、物を反発させられるらしい。
さっきは地面とチャクラムを反発させて空に浮いていた訳だ。
俺もシュウジの腕や脚を狙い何度か切り掛かるが、まるで強力な磁石の極同士を近づけているかのように、刃がシュウジの体を傷つけることを拒んでしまう。
そしてさらに厄介なのは、チャクラムが二つあると言うことだ。
片方で反発させて、もう片方の刃で反撃する。シンプルながらも攻防一体となった、使い勝手の良い武器だ。
その能力を惜しみなく発揮されて、俺とノワレの二人がかりにも関わらず、全く問題なく相手にされてしまっていた。
「ノワレ! シュウジのアーククラフトの弱点とか分かるっすか!?」
「わかんない! ミツバチにいた時シュウジはアーククラフト持ってなかったの!」
参ったな。
明らかに力量差がある。その上相手の能力の攻略法が一切分からない。
幸いなのはアコが動かないことだ。
リックさんと睨み合い、お互いに牽制し合っている様子だ。
つまり裏を返せばリックさんも迂闊に動けないってことなんだけど……
とにかく俺かノワレがシュウジにやられてしまうのが一番絶望的なシナリオなので、時間稼ぎをしてみるか。
「シュウジさん。あんたらの狙いは『ガジュマル』っすか?」
会話によって少しでも時間を使い、船が港に着くまで耐え切る寸法である。
我ながら悪くない判断ではなかろうか。
「答えてやる義理はないな」
「シュウジ。相手の時間稼ぎだよ、ちょっとは付き合ってやんな」
アコにすぐバレた……
バレた上で付き合ってやれって言われてる。顔から火が出そうだ。
ノワレの冷たい視線が、先程とは別の意味で痛い。
シュウジは手で顔を覆い、やれやれといった感じで答えてくれる。
「はぁ……そうだ。『ガジュマル』の能力でアーククラフトを捜索する。お前たちのやっていたことと同じだ」
シュウジが渋々時間稼ぎに乗ってくれたので、開き直って遠慮なく稼がせてもらうことにする。
「すべてのアーククラフトを破壊するってやつっすか。なんでそんなこと目指してるんすか?」
俺の言葉にシュウジは目の色を変え、チャクラムをさらに強く握りしめる。
「これは人間には過ぎた力だ。こんなものがあるから余計な争いが起きる。死ななくて良い人たちが死んでいく! 貴様も御使いなら、これまで争いの絶えない人生を送ってきたはずだ」
確かに俺も、こちらに来てからの日々は戦いの連続だった。
シュウジの言い分にも一理あるかもしれない。
でもどれだけ綺麗な目標を掲げても、そのために人を犠牲にしては本末転倒だ。
ケミアの後に立ち寄った街で、ファウナの暴挙によってたくさんの人が命を危険に晒され、住むところを失ったんだ。
そんな状況を目の当たりにしては、妖花連合が成そうとしていることなど無意味だと感じてしまう。
「それで、すべてのアーククラフトを破壊したとして、その後はどうするんすか。それだけで争いは無くならないっすよ」
「だとしてもだ。これらが争いを誘っていることは不変の事実。それに、俺にはもう一つやるべきことがあるからな。死ぬまで歩むのみ!」
「自分たちの目標のために、罪のない人々を犠牲にするのはどうなんすか!?」
「それが最終的により多くの人を救うなら、犠牲も致し方あるまい。違うか?」
相容れないな。
溢れた少数の人を見捨てることを、俺は正義と思わない。
「雄助! もう港に着くよ!」
結果的に時間稼ぎは功を奏し、ロコモの港がすぐそばに迫っていた。




