第二十一話 人探しの流儀
「ネタ切れってマジっすか」
「なにせ一週間以上、空いている時間のすべてを使って捜索したからな。ロコモ王国内はもちろん、アルトケス王国までな」
テーサが小さくため息をついてからジュースを飲み干した。
その姿から、今日までにかなりの労力を割いてきたことが伺える。
「アルトケスの中で、妖花連合が隠れていそうな場所に心当たりはないか?」
心当たりと言われても、俺がアルトケスに来てまだ数週間しか経っていないんだよな。
それでもなんとか頭を振り絞り、場所の候補を色々と出し続けた。
森の中や酒場の屋根裏、路地裏の奥など、人が隠れそうなところはあらかた探してもらったが、結局妖花連合が見つかるよりも早くテーサが疲労でダウンしてしまった。
「ダメだ、見つからん!」
テーブルにドンと身を投げ出し、拗ねたように口を尖らせるテーサ。
俺は溢れないようにジュースのグラスを抑え、まあまあとテーサを宥める。
「もう逆に人が隠れられなさそうなところ見るのはどうっすか? 灯台下暗し的な感じで」
「灯台か…確かに灯台の中は探して無かったな」
なんか意味がすれ違ってしまったが、結果的に新しいアイデアが出たので良しとする。
「誰もいねーなー。ハズレだ」
「うーん。もう俺もネタ切れっすね……」
「……よっしゃ! 外出るぞ雄助!」
「え、どこかアテがあるんすか?」
「無い! 歩く!」
新米刑事かよ!
とにかく歩いて聞き込みして証拠集めましょうってか……
「良いっすねそれ……!」
俺は自分でも分かるほどに目を輝かせ、勇み立ち上がった。
そもそも俺は元から警察官志望である。
刑事らしいことが出来るとなれば、断る理由などあろうはずもないのだ。
「決まりだ! じゃあまずはファウナが目撃された軍本部に行くぞ!」
俺たちは会計を済ますなり意味もなく走って店を出た。
しかも本当に意味もなく軍本部まで二十分ほど全速力で走り切ってしまった。
日本よりマシとは言え、常夏の国でこんなに走ったらキツいはずなのだが、今の俺はいわゆるポリス・ハイだ。
……つまりめちゃくちゃテンションが上がっているのである。
滴る汗も、頑張った証でしかない。気持ちいいな、走るって!
……いや違う違う。仕事で来ているんだから、あくまで冷静にファウナを見つけ出すのだ。
頭を振って気持ちを入れ直し、周囲の確認をする。
「ファウナはいないっすね……」
「じゃあ聞き込みだ!」
言い終わるより早く、テーサは駆け出してしまった。
リックさんと言い、この辺の人はみんなせっかちなんだろうか。
俺はテーサに言われるまま周囲の人へ聞き込みを開始する。
フリフリの服を着た怪しい女を見なかったかと聞いて回ってみたものの、これもやはり手応えはない。
痺れを切らしたテーサが次なる作戦を提示するが……
「よし雄助! 山登るか!」
「何で山!?」
いくらテンションが上がっているにしても流石にスルーできないぞ!
ハワイにあるような、なだらかな山を指差すテーサに疑いの目を向ける。
「上から見たら! いるかもしれないぞ!」
キラッキラな目をこちらに向けるテーサ。
テーサもだいぶテンションが上がっているようだ。
まあここまで来たら付き合うことにしよう。
俺は観念してテーサと共に山を登り始めた。
山といってもせいぜい数百メートルなので実際そこまで苦労はなかった。
……とはいえ一時間くらいはかかったけど。
「なあ、テーサ。妖花連合のシュウジって知ってるっすか?」
山登りの最中、テーサとの距離を詰めるために会話を試みる。
「ああ、あいつらのNo.2だろ? 元々は違う組織にいたって話だよな」
「盗賊団ミツバチっすね。ノワレも元はその組織なんすよ」
あ、これ言わない方が良かったかも。
普通に他国の御使いかつ元盗賊ってイメージ悪いかな。
「そうらしいな。まあ大事なのは今だろ?」
軽快な足取りを乱すことなく、テーサは笑顔で言い放った。
俺の心配は徒労だったようで、ホッと胸を撫で下ろす。
「ノワレと協力してシュウジさんを説得したいんすよね。こんなテロ行為は止めようって具合に」
「それはむずいな。アーククラフト渡したらやめてくれるんじゃねぇか?」
テーサがニヤッと笑って言う。
「アーククラフトは流石に渡せないっすね。……アーククラフトで思い出したんすけど、『エンシェント』って見たことあるっすか?」
俺の目的の一つ。
こちらの世界に転移してきた時に女神様に告げられた『エンシェント』と呼ばれるアーククラフト。
『ガジュマル』で世界中を見ることが出来るテーサなら、もしかしたら何か知っているかもしれない。
「『エンシェント』ぉ? そんなん見たことも聞いたこともないな。第一、アーククラフトには花の名前が着いてるもんだろ? ……まあどこかに埋まってるんじゃないか?」
「アーククラフトって埋まってるもんなんすか!?」
驚いて大きな声が出た。
地面から発掘される『リンドウ』を想像して少し可笑しくなって笑う。
「あれ無数にあるからな。いくつかは未だに世界のどこかに隠れてるし、そういうのを掘り起こして金稼いでるやつもいるらしい。……てか、じゃあ雄助のそれはどうしたんだよ?」
テーサが俺の『リンドウ』に視線を移した。
俺はどこまで説明すべきか迷ったが、一応全部話してみることにした。テーサは終始興味深そうに俺の話を聞いてくれる。
なんとなく居心地が良くて、言わなくていいことまで言ってしまいそうにもなった。
「ふむ。女神様とやらに渡されて……『エンシェント』? を探せって言われたのか。初めて聞くなそんな話。うちにも異邦人は何人かいるから、今度聞いといてやるよ!」
「助かるっすよ! 俺はもう世界中探すしかないかなって思ってるっすね……」
「なら俺様の出番だな! 『ガジュマル』はこういう時にも便利なんだよなー」
テーサが首から下がる薄緑の笛をプラプラと振って見せる。
「ちなみに『ガジュマル』はどこで見つけたんすか?」
「ロコモのアーククラフトは世襲制だ。先代から受け継いで……おっと着いたぞ。頂上だ」
いつの間にやらかなりの距離を登ってきていたようで、俺たちは山の頂上付近に到達していた。
眼下には賑わう街の様子と、雄大な海と森とが混在している。
「良いところだろ、俺様たちの国は」
テーサが愛おしそうに世界を見下ろしている。
その姿が誰かさんと重なり、転移してきた時を思い出して懐かしくなる。
「ほんとっすね……宝石みたいっすよ」
「アルトケスからしたら、結構田舎に見えるだろ?」
「こういうのは自然が綺麗って言うんすよ。ロコモとアルトケスにはそれぞれの魅力があるっすね」
「……そうか。またいつでも来いよ」
「え? あ、同盟関係だから来ても良いってことっすか?」
「ああ。……まあ雄助なら大丈夫だろ」
なにやら高評価を貰えているようだ。
テーサはさっき街に向けていた優しい目のまま俺の肩をバンバン叩く。結構力が強い。
改めて街へと視線を落とすと、軒先に鮮やかな花を飾っている家を見つけた。
「ところであの花はハナカンムリっすか?」
「そうだぞ。ロコモでも最近台頭してきたんだよな。ちなみにココン様が人気だ」
「ココン様?」
「ああ、ハナカンムリの御神体だよ。まだ11歳の少女なんだがな、あまりにも儚い佇まいと、神の加護を授かってるってことで人気なんだよな」
少女が御神体?
あまり聞き馴染みのないことだ。
神の加護とやらも気になる。
「神の加護っすか?」
「触れた人の病気を治したり、植物の種に触れただけで花を咲かせたりしたらしい。人伝に聞いただけだけどな。別に俺様は全然ファンとかじゃねぇし」
本当か?
ちょっと顔が赤らんでいるような気がしないでもないが、それは山登りのせいかもしれないからな。
それよりも、この世界では人間に魔法は使えないはずだし、神の加護とやらがどんな仕組みなのかが気になってくるな。
「……その、神の加護ってアーククラフトっすかね」
テーサが考え込むように腕を組む。
「違うと思うぞ。なんせ武器もアクセサリーもなにも身につけてないんだ。雄助も一回見たらわかる。あの美しさはガチで神の使いだ」
「めっちゃファンじゃないっすか!」
テーサはココン様とやらにかなり心酔しているようだった。
このままではココン様トークで日が暮れそうなので、強引に本題に戻す。
「上から見てみても妖花連合はいなさそうっすね」
「だな。すまない雄助……」
テーサが落胆の表情を見せる。
山登りに誘ってきた本人だから、少なからず責任を感じているのだろう。
残念なことに、せっかく山に登ってきたが上から見渡してもそれらしい人影はない。
見えるのは広大な海だけ……
「テーサ、海の中は見てないっすよね?」
落胆した様子だったテーサの表情が途端に明るくなる。
「確かに……! 水中で呼吸できるようなアーククラフトがあれば、余裕で潜伏できるな! よし、とりあえず見てみるか!」
テーサは『ガジュマル』を咥え、思い切り吹いた。
飛び出してきた精霊たちが、一直線に海へと向かう。
「むー。あんまり深くに行くと神獣の住処だしな……あーーっ!」
「え、いたんすか!?」
自分で言っといてなんだが、望み薄だろうなと思っていた。
「いやすまん、妖花ではないんだけど……これ多分アーククラフトだ! アーククラフトが沈んでる!」




