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神代の御使い  作者: 逆巻多巻
ロコモ王国編
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20/29

第二十話 四人の御使い

 俺とノワレはロコモ王国の大地を踏み締めた。


 馬車から降りた途端、強い日差しが俺たちを襲う。


 とはいえ現代日本と比べれば楽なもので、せいぜい暖かめの春ぐらいの気温である。


「お待ちしておりました。刀堂雄助様とノワレ・オルベール様ですね」


 馬車を降りたところで、正面に立っていた男性が話しかけてきた。


 綺麗に焼けた褐色の肌が健康的で、大きく胸を逸らしているのは自信の表れか。


 胸元や腰回りなど、急所に近いところはプレートアーマーで覆われており、それ以外の部分はくさりかたびらになっている特殊な鎧を着込んでいる。

 常夏の気温を加味しての装備かな。


 そしてなにより目を引くのは、彼の右手に携えられた鮮やかな赤色の傘だ。


「私の名前はリックカウアイー。ロコモ王国軍先陣隊所属です。本日は、かの妖花連合の対応にご協力いただけると聞いております」


 彼が例の"お目付役の軍人さん"か。


 まさか一人だとは思ってなかった。


 右腕を顔の前に回し、日本の警察に近い敬礼をするリックカウアイーさん。

 敬礼の仕方も国によって違うんだな。


「よろしくねーリックさん」

「ちょ、初対面っすよ!? ノリが軽すぎるっすよ……」


 グラン様に対してもそうだが、ノワレはフランクすぎると思う。


 そういうところが美徳ではあるが、隣で聞いている身からすると冷や汗が止まらないのだ。


 慌てて丁寧に自己紹介を始め、茶を濁す。


「失礼しました。自分は刀堂雄助と言います。こちらはノワレ・オルベール。今日はよろしくお願いします、リックカウアイーさん」

「みんなそう呼びますから、別にリックで構いませんよ」


 顔は無表情のままだが、恐らくそんなに堅い人では無いのだろう。


 とはいえノワレはフランクすぎるので、上手く間をとっていきたいところだ。


「早速本題に入るけど、妖花連合の目撃情報について詳しく教えてくださーい」

「もちろん。まあ立ち話も疲れますから、カフェにでも入って話しましょう」


 カフェで良いんだ。

 機密事項とかではないのだろうか。


 そんなことは気にも留めていない様子のノワレとリックさん。……俺が細かすぎるのかな、と不安になってきた。


 そんな俺を置いてけぼりに、リックさんとノワレはツカツカと歩き始めた。諦めて二人の後ろから着いていく。


 リックさんはかなり歩きが早い。

 せっかちな人というか、効率的な人なんだろう。


 そのまま五分ほど早歩きをし、大きめのカフェに入った。


 アルトケスと同じような木製の店先には、色とりどりのフルーツが飾ってあり、非常に南国ちっくである。


 中に入ると、日の光が差し込む開放的な作りで、奥にはバーカウンターみたいなのもある。

 カフェというか、酒場って感じの雰囲気だ。


 席につき、なにやら美味しそうなフルーツジュースを注文して本題に入る。


「妖花連合に、ファウナ・シーブスというものが居るのをご存知ですか?」


 信じられないほどピンと姿勢を伸ばし、優雅にフルーツジュースを啜る……嗜むリックさん。


 その口から飛び出た名前は、ファウナ。


 ケミアの後に立ち寄った街で、俺たちを襲ってきたやつだ。

 たしか、ランチャー型の『ラフレシア』というアーククラフトを使ってたな。


「『ラフレシア』の御使いっすよね」

「はい、彼女が軍の基地近くをうろついているのが目撃されました。しかも一週間の間に三回も」


 いや目撃されすぎだろ!


 不用意にも程がある。そういえばアコにも怒られてたな……


 それにしても一週間に三回か。よっぽど欲しいアーククラフトがあるんだろうか。


「彼女の狙いについてですが、恐らくは私のアーククラフト、『ハイビスカス』でしょう」


 そう言って手に持った傘を見せるリックさん。


 『ハイビスカス』という名に相応しく、太陽なように鮮やかな赤色に輝いている。


 その輝きに目を奪われていると、突然カフェの扉が大きな音を立てて開いた。

 Tシャツ短パンに大きなヘアーバンド、首に笛を掛けるという、わんぱく小僧みたいな格好の男性が入ってきた。


 その男性は真っ直ぐに俺たちの席に近づいてくると、リックさんの肩に手を回した。


「いーや、俺様のアーククラフトが真の狙いだね」


 リックさんは露骨に嫌そうに顔を顰めている。


「客人の前だぞ、テーサ。態度を改めろ」

「ああ、アルトケスからの御使いたちだろ? 俺様はテーサミリモウイ。テーサって呼んでくれよな!」


 ニカっと笑うテーサさん。


 その格好と笑顔は常夏のロコモに完璧にマッチしており、快活な雰囲気を醸している。


「よろしくねー、テーサくん。テーサくんも軍人なの?」

「おう、軍部諜報隊所属だ。お前たちのお目付役だな! で、この笛が妖花連合のお目当て、『ガジュマル』だ」


 笛型のアーククラフト!?


 テーサさんの笛は体育の先生が持っているようなホイッスルに近い形だった。


 あれに武器のイメージはあんまり無いな。戦争兵器と言いつつなんでもありなのかよ……


 あ、でも『アサガオ』はラッパだったか。

 結局、能力が戦争で役に立つならそれで良いってことなのかも。


「よろしくお願いします! テーサさん」

「だからテーサで良いってば。……ところでお前、刀堂雄助だな? ヨブコオオカミを殺さずに戦闘不能にまで追い込んだクレイジーボーイ。全部見てたぞ!」


 ちょっと変なことを言われて変な顔をしそうになった。


 なんだクレイジーボーイって。


 マッッジで心外である。


 というか見てたってどういうことだ?


「テーサは昨日あの場にいたんすか?」

「いやいない。これが俺様の『ガジュマル』の能力よ!」


 そう言ってガジュマルを咥え、甲高い音を吹き鳴らすテーサ。


 すると笛の先から羽の生えた光る球が出てきた。

 ふよふよと空中を羽ばたき、何やらキラキラしたものを撒き散らしているこれは……


「……精霊……?」

「その通り! ガジュマルを咥えている間、この精霊と視界を共有できるんだよ。こんな便利能力、妖花が欲しがってないわけないね」


 なるほど、これで精霊を飛ばしてヨブコオオカミとの戦いを見てたわけだ。

 ガジュマルと言えば、確かキジムナーとかいう妖精が棲みついてる木。

 沖縄の方にそんな話があったな……


 アーククラフトの制作者ってやっぱ日本人なのかな……


「確かにこれは便利だねー。これで妖花連合探せないの?」

「先週から何度かやってるんだけどな。なかなか尻尾ださねぇんだよ」


 テーサがやれやれと言った感じで肩をすくめてみせる。


「ま、というわけだからな。俺様としてはあんたらの力も頼りにしてるんだ。よろしく頼むぜ!」

「もちろんっすよ!」


 元気よくを返事をした。体力だけは有り余っているのが今の俺である。


「ところでお二人とも、この後少し手合わせを願いたい。ヨブコオオカミ戦での活躍はテーサから聞き及んでおりますゆえ、お二人の実力に興味があるのです」


 リックさんから手合わせの申し込みだ。


 ……この世界では断ったら失礼とか無いよな?


「もちろん良いよ。でも雄助はまだ万全じゃないから、勘弁してあげて?」


 ノワレから意外な助け舟が出た。


 こういう気の使い方してくれるんだ、とか思っちゃうのはかなり失礼か。


「ええ、もちろん。昨日のことでしたからね。ではノワレ様だけでもよろしくお願いします」


 そうしてノワレとリックさんは店を出て、軍部の基地の方へ歩いて行ってしまった。


 俺はテーサと店に残り、『ガジュマル』を使っての妖花捜索を試みることになった。

 

 早速始めようと思ったのだが、テーサがニヤニヤと笑いながら小さな声で話しかけてくる。


「なあ、どっちが勝つと思うよ?」

「ノワレとリックさんっすか? リックさんの実力が分からないからなんとも言えないっすね……」

「なんだ真面目な奴め……リックは天才だ。『ハイビスカス』を継承してから、未だ無敗なんだよ。それに、神獣を単独で討伐したこともあるんだぜ。俺様はリックに賭けるね」


 それはすごいな。


 俺たちは四人がかりでなんとか神獣を相手にしていたのに。


「じゃあ俺はノワレを信じることにするっすよ! ……まあ結果は後で詳しく聞くことにして、妖花連合探しに取り掛かるっす」

「全く、もっと遊んだ方が良いぜ? 仕事だぜ、お前ら!」


 不服そうにしつつも笛を咥えたテーサ。なんやかんや言っても軍人のようで、仕事となると眼差しは真剣なものに変わっている。


 テーサが先程と同じように笛を吹き、今度は四体の精霊を呼び出した。


「よーし。雄助! 妖花連合の隠れている場所を探すわけだが、俺様はもうネタが切れてるんだ! なんかアイデアあるか? 」


 清々しくネタ切れ宣言をされた。


 これは大仕事になりそうだぞ。


            ⚫️


 軍部の基地に到着したリックとノワレは、模擬戦闘用のフィールドへ足を踏み入れる。


 二十メートル四方のフィールドには戦いを邪魔する余計なものは無く、純然たる力のぶつけ合いには最適な場所であった。


「さて、悪いですね付き合っていただいて」

「別に良いけどさー。リックくんはウチの『シオン』のこと知ってるんじゃないの?」

「……フェアじゃ無い、と言いたいのですね? では、私の『ハイビスカス』は、太陽光を浴びている間、御使いの身体能力が上がる能力です」


 リックが事務的に『ハイビスカス』の能力を説明した。


「悪いねー。せっかく模擬戦するなら条件揃えたかったんだ」

「それは……私に勝て無さそうだからですか?」


 それまで無表情だったリックがノワレに優しく微笑みかけながら問う。


 それに対しやはり笑顔を作りながらノワレが返す。


「君を"有利な条件で負けた惨めなやつ"にさせないためだよ」


 両者の間に見えない火花が散った。

 間髪入れずに最初の衝突が起きる。


 トンファー型の『シオン』と傘型の『ハイビスカス』がぶつかり、激しく火花を散らした。


「リックくん、やっぱウチらのこと嫌いー?」

「滅相もありませんよ。ただ警戒しているだけですから」


 お互い笑顔は崩さないが、裏では到底模擬とは呼べないような苛烈な心理戦を繰り広げている。


 リックは特殊な金属製の傘を振り回し、舞うようにノワレを追い詰める。


 それに対してノワレは『シオン』を使った高機動力で、傘の打撃をするすると躱していく。


「『シオン』でこちらの攻撃の軌道がズラされる……思ったより厄介な能力ですね」


 リックの傘による突きは、『シオン』の能力によって強制的に方向を変えられていた。


 それに気を揉んだリックが、たったの一歩だけ踏み込みすぎたタイミング。

 その小さな隙を逃すノワレでは無い。


 ノワレのカウンターの蹴りが、リックの腹部へと突き刺さった。


 さらに追撃で『シオン』を片方リックに投げつけるノワレ。


 『ハイビスカス』を開いて赤い盾へと変え、飛んでくる『シオン』を受けるリック。


「もーらいっ」


 しかしリックには、悠長に防御していられるほどの時間は無かった。

 

 リックの顔面目掛けて投げつけられた『シオン』。


 それを中心に自らの体をぶん回し、ノワレは一気にリックとの距離を詰めた。


 すかさず連撃に持ち込み、『ハイビスカス』ごとリックの体を押し込んでいく。


「うーん。堅いなー」


 『ハイビスカス』の向こうのリックを忌々しそうに睨むノワレ。鉄の傘の冷たい感触が、ノワレに少しずつ焦りを植え付ける。


「褒めていただいてありがとうございます」


 側から見るとノワレが圧倒している図だが、リックは冷静だった。

 

 ノワレが次の手に移るため連撃を止めた瞬間、傘を盾にして突撃を仕掛ける。


 面倒だなと心の中で愚痴りながら、ノワレは『シオン』で軽々と回避した。


 お互い距離を取り息を整える。


「うーん。このままだとウチ勝てちゃうよ?」


 ノワレが涼しげな声で煽る。


 本当は攻めきれず焦りが出てきているノワレだが、それを相手に悟らせるような失敗はしない。


 対してリックはゆっくりと髪をかきあげ、こちらもまた、あくまで余裕があるとアピールする。


「言ってくれますね……そこまで仰るならノワレ様、私は本気を出そうと思いますので、くれぐれも防御していただくようお願いします」

「おっけー。楽しみにしてるよ」


 リックの顔から笑顔が消えた。


 その鬼気迫る表情が、次の一撃が致命的なものであることを裏付けている。


「咲きたまえ、『ハイビスカス』」


 『ハイビスカス』を開き、持ち手とは逆の側を握ったリック。


 ノワレは手に汗を握りながらも、全方向からの攻撃を予見しようとする。


 リックはそのままゆったりとした動作でハイビスカスを真上に向ける。

 まるでパラボラアンテナのように、『ハイビスカス』の内側が太陽と顔を突き合わせた。


「奥義……」

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