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神代の御使い  作者: 逆巻多巻
警察隊編
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18/24

第十八話 餓狼の最期

 正直不安は大きい。

 既に大量の魔力を納めた俺の体が、果たしてこれ以上の供給に耐えられるのか。


 そんな不安に囚われている暇などもちろんなく、オオカミが全霊の突進を仕掛けてくる。


 恐怖にすくむ足を叩き、俺も正面きって走り出した。


 一人と一匹の距離はぐんぐん近づいていく。グルルというオオカミの荒い鼻息がかかるほどの至近距離。


「刺されぇぇぇ!!」


 ぶつかり合う直前、俺は膝を折り曲げてオオカミの腹の下にスライディングで潜っていく。


 そして『リンドウ』をオオカミの胸に突き立て、そのまま腹にかけて長い傷跡を刻んでいく。


 その長く深い傷が、俺たちのタイマンの終了を告げる証となった。


 倒れ伏し、荒く息をするヨブコオオカミ。


 ……俺がやったんだ。先程よりも激しく手が震え、思わず『リンドウ』を落としてしまう。


 死んではいない。魔力切れによって動けなくなっているのだろう。


 対する俺は、俺は……


 魔力の吸いすぎにより腕は震え、体は溶けそうなほど熱を持ち、頭の中は真っ白になっていく。


 酷い罪悪感のようなものが頭を掻き回し、今にも脳みそが内側から破裂しそうだ。


「あああ……」


 やばい、意識が……

 不意に力が抜け、ふらりと後方へ倒れた。


「雄助! 大丈夫?」

「……ありがとうっす、ウィルダー……」


 必死で保った理性が、倒れる俺の体を支えてくれたウィルダーへの感謝を絞り出す。


「すごいじゃん雄助! ほんとに勝っちゃうなんて!」


 ノワレが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。

 痛いから俺の腕をブンブン振り回すのはやめてください……


「ノワレ、子オオカミは?」

「親を倒したら全部消えたよー。親の魔力が無くなったからかな?」

「で、雄助。お前大丈夫なんか?」

「まあギリギリっすかね……」


 はにかんではみたものの、本当は大丈夫ではない。


 出血はひどいし、体も熱いのか冷たいのか分からない。


 みんなが心配そうに俺の顔を覗き込んでいるのだけが分かる……


「……大丈夫っす。傷口だけ治療してくれないっすか……」


 ちょっとだけ強がることにした。


 みんなの顔に少し安堵が見える。


 ここでやっと俺の体から力が抜けて、肺の中に溜まっていた空気が出ていった。


 ちなみに俺がここから死ぬとしたら、それは多分出血多量によるものだと思う。


 今すぐウィルダーに病院まで運んでもらって、止血をしてもらおう。それで完全に俺の勝ちだ。


「邪魔すんで〜」


 ネズが軽口を叩きながら俺の服を破り、脇腹の傷口を確認している。


 数少ない私服が今まさにダメになったので、来週も買い物に付き合ってもらうか……


「おいこれ……塞がっとるやないか!」


 え、塞がってる? 俺の傷が?


「は? ほんの数分前に受けた傷っすよ。そんなすぐ治るわけ……」


 治ってる……! 慌てて傷口に手を当てるも、傷なんてどこにも無かった。


 多分何針も縫わなくてはならない大怪我だったはずだ。まさかこんな一瞬で治るなんて……


「魔力は生命力だから、『リンドウ』で魔力を吸った分、自己治癒力が上がった。……のかな?」


 ウィルダーが自信なさげに呟いた。


 そういえばケミアで戦ったときも、傷がすぐに治ったっけ。まさかこんな大怪我でもすぐに治ってしまうとは……


「吸った魔力を、傷を癒すために消費したってこと? それってつまり、傷を受けてなかったら暴走してたんじゃ……」


 背筋がゾクっとした。


 どうやらだいぶ紙一重で上手くいっていたらしい。


 二千年前までいたという神に感謝をすることにしよう。ありがたや。


「とはいえ大量に血を吹いたんも事実やからな! 医者には行こか!」


 ネズがバンバンと俺の体を叩きながら言った。あんま怪我人を叩くんじゃないよ!


 まあ、そんな軽口を言えているだけ幸せだと思うことにしよう。


「なんか微妙に締まらないっすね…………なんの影っすかこれ……」


 俺たちの頭上に巨大な影がさした。


 同時に他の警察隊員たちが叫ぶ声が耳に届く。


 どうやら俺たちは神獣という存在を侮っていたらしい。


 さっきまでは完全に力を失っていたはずなのに、既に復活したヨブコオオカミが俺たちを見下ろしているのだ。


 とても生物のものとは思えないほどの巨大な影が、俺たちをすっぽりと覆っている。


 俺が魔力で傷を回復させられたんだから、魔力を作り出す器官を持っているこいつにそれが出来ないはずがない。

 そんな簡単なことにも気づけなかった己の非力を恨む。


 あー……ダメだ力が入らない。


 オオカミの爪が振り上げられるが、突然のことに俺たち四人は固まってしまっている。


 ……しかし、降ってきたのはその大きな爪ではなく、大量の血とオオカミの首だった。


「よく神獣相手に死なずに戦いきったな。そこは褒めておく」

「アハト隊長……」 


 鉄みたいな匂いが立ち込める中、アハト隊長が『ヒマワリ』と共に立っていた。


 ガチンと音を立てて『ヒマワリ』を鞘に納刀し、ヨブコオオカミの遺体を見つめる隊長。


 俺はウィルダーに抱えられ仰向けになっていたから間近で見ることができた。アハト隊長の動きと『ヒマワリ』の威力を。


 数秒前、オオカミの爪が振り下ろされた瞬間、アハト隊長が『ヒマワリ』をオオカミの首に向けて豪快に振り下ろした。


 ただ振っただけだった。


 それだけでオオカミの首が落ち、台風並みの風が轟音を立てながら吹き抜けて行った。


「『ヒマワリ』……大きく振りかぶるほど遠心力が倍々になるんやったか。やっぱ火力が違うわ……」


 ネズが小さく感嘆の声を漏らす。


 『ヒマワリ』の強さもだが、その身のこなしは見事だった。完璧な脱力と、斬る瞬間の動きの鋭さ。


 分かっていたことだが、俺との模擬戦では少しも力を見せていなかったのだということを再認識し、悔しさと嫌な匂いで表情が歪む。


 アハト隊長が思い出したように俺と目を合わせる。


「どうだった雄助。お前の理想は叶いそうか?」


 どうだろう。まだ動くことすら出来ない体で、必死に頭を働かせてみる。


「……アハト隊長は、ヨブコオオカミを斬ることに罪悪感を感じてるんすか?」

「当たり前だ。しかしここで殺すのが、一般人への被害を出さない確実な方法だった。躊躇してはいけないんだ。分かるな?」


 まるで聞き分けのない子どもに言い聞かせるみたいな優しい声で隊長は言った。


 もちろん分かってますよ、なんて子どもじみたことは恥ずかしくて口にできなかった。


 俺はヨブコオオカミへの罪悪感から、斬った後確認してトドメを刺すことを怠ってしまったのだ。何が警察隊員だ。何が覚悟だ。


「隊長。今の俺じゃ、理想なんて叶わないっす。……頑張ります。誰も死ななせないために」


 俺が弱かったから、油断したから、更にたくさんの命が危険に晒されてしまった。


 初めての神獣との戦いだったからだと言ってしまうことも出来る。

 でもそんな言い訳をするためにアハト隊長に啖呵を切ったわけではないのだ。


「泣くなや雄助! 俺も手伝ったるからな! な?」

「後で一緒に反省会しよう」

「結構頑張ってたよ雄助ー?」


 本当に優しい人たちに恵まれたものだ。


 彼らのためにも俺は今後、理想と現実を見つめ続けなくてはならない。


 険しい顔で涙を堪える俺に、アハト隊長が優しい声をかける。


「理想だけでは何も救えないと言ったな、雄助。あれを撤回するつもりはない。理想だけでは生きられない。……だが、理想を追うことも人生の醍醐味だよな。何があってもお前の理想を忘れるなよ」


 そう言うと隊長は隊員達に指示を出し、後片付けを始めた。


 今回、マーケットに突如神獣が現れたことで、民間人にも少なからず被害が出てしまった。


 俺の理想とは程遠い結果で終わってしまったが、確かに俺の中に一つの芯が生まれたと思う。


「よっ、と。この前の模擬戦の時のお返しだね」

「……面目無いっす」


 ウィルダーが俺を背中に担ぎ上げてくれる。

 俺は心の中で猛反省しながら、ウィルダーの背中に揺られ病院への道を急ぐのだった。

読んでいただきありがとうございました!

これにて警察隊編、完です!

しかしながら警察隊としての雄助の活躍はまだ始まったばかりだ! ですので、今後ともどうぞよろしくお願いします。

次回より、ロコモ王国編です!

南国の島国、新たな御使い、そしてノワレの因縁!

次回もよろしくお願いします!

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