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神代の御使い  作者: 逆巻多巻
警察隊編
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17/26

第十七話 今際の輝き

「……硬いんすね……」


 呆れたような声が俺の喉から漏れて出た。


 『リンドウ』の剣戟は、オオカミの無駄に硬い体毛に阻まれ通らなかった。


 おまけに子オオカミに群がられ、一時撤退を余儀なくされる。


 少し距離が空き、一息つく。すると、じわじわと先程喰らった爪のダメージが効いてきた。


「遊ばれてるねー、雄助」


 いつの間にか真後ろにノワレが立っている。ニコニコとこちらを見下ろし、呑気に前髪など気にしている。


「あいつ超強いんすよ。手伝って欲しいっすノワレ」


 俺はオオカミから目を逸らさないようにしつつノワレに助けを求める。というかこいつをなんとしてでも戦いに引き込んでやりたい。


「さっき嫌だって言ったよね?」

「このままやってると俺暴走して死ぬっす。……さっき、俺が死んだら困るとも言ったっすよね?」


 ノワレが嫌そうな顔をして俺の腕をつねる。作戦成功のようである。


「雄助って暴走すると性格変わるタイプー?」

「…….性格変わることを暴走って言うんじゃないっすかね?」

「冗談だよ。真面目くんなとこは変わらないんだね。何か策はあるの?」

「ちょっとずつ魔力吸って弱らすのはどうっすか?」


 俺の出来る最善策だ。しかし、ノワレは信じられないといった顔で呆然と俺を見つめている。


「……正気? 神獣は体内に魔力を生成できる器官をもってるんだよ?」


 ……そうじゃん。


 ということは、吸ったそばから補充されてしまうわけだ。


 大悪手を踏むところだった。危ない危ない。


「じゃあ、強めに殴って気絶させるとかは?」

「殴ってどうにかなるほどヤワじゃないと思うな」


 ノワレが悪戯っぽく笑って言った。


「でも攻める以外無いじゃないっすか。……あの巨体にダメージ与えるために、もう少し魔力を吸いたいっすね」

「まあ気は進まないけどやってみようか。じゃあ周りの奴はどうにかするから、真っ直ぐ走っていーよ」

「助かるっすよ、ノワレ!」


 嫌々だろうけど、ノワレの協力は取り付けられた。これでまだ戦いようがある。


 俺は『リンドウ』を握り直し、一直線に親オオカミの眼下へと走り出した。


 途中で数匹の子オオカミが行手を阻むが、その度にノワレが『シオン』で端に寄せる。というか吹き飛ばしてくれている。


 ……物体を公転させられる能力ってめっちゃ便利だな。


 そんなことを考えていたら、驚くほどスムーズにオオカミの鼻先まで到達できた。


 例に漏れず俺たちに爪を振りかざすオオカミ。


 『リンドウ』とオオカミの爪がぶつかり、甲高い金属音が響いた。

 こうしている間、『リンドウ』が親オオカミからどんどん魔力を吸っているわけだ。


 どす黒い何かが流れ込んでくる感覚。


 それに心を流されないよう、さっきノワレにつねられた痛みに集中する。


 このまま魔力を吸って、強化された拳でぶん殴って……


「じゃ、殴り担当ウチねー」

「えっ……?」


 ノワレが俺の背中を足蹴にし、オオカミの鼻先へ跳び上がった。次の瞬間……


「……えげつない……」


 ノワレによる無慈悲なる暴力が幕を開けた。


 自分の体を中心に『シオン』を高速で回転させつつ、ノワレ自身もラッシュを叩き込み三倍の物量でぶん殴っている。


 『シオン』の能力を最大限活かした不規則な乱打がオオカミを襲う。


 オオカミの巨体は、ノワレからするとまさに格好の的だった。

 サンドバッグに打ち込むように、目にも止まらぬ速さの乱撃がオオカミの骨と肉へめり込み続ける。


「これはおまけ、ね!」


 最後に見ているだけで骨が軋むような重い蹴りを入れ、ノワレのインファイトは華麗なまま終わった。

 クルクルと回りながら優雅に着地を決めるノワレ。


「ふぅ……これで気絶でもしてくれたら楽なんだけどねー」


 鬼気迫る肉弾戦だった。


 しなやかな動きと、それに見合わぬ鋭い打撃音がノワレの戦闘経験値を物語っていた。


 直前まで熱く燃えていた俺の体は、ノワレの乱打によって芯から冷えてしまっている。


「俺、ノワレのことは怒らせないようにするっす」

「あのオオカミ怒らせる方がいくらかマシだろうね」


 いつの間にかそばにネズとウィルダーが立っていた。


 警察隊の到着により、子オオカミはほぼ殲滅され、後は親をどうにかするだけになったのだ。


 これで終われば楽なんだけどなあ……


 オオカミの目は依然として死んでなどいない。それが無性に更なる戦いを予見させるのだ。


 親オオカミはむくりと起き上がり、こちらを鋭い眼光で睨みつけている。


 ノワレに殴られたのが相当効いたようで、先程までの余裕の風格はもう感じられなかった。


「うーん。さっき殴ってみた感じ、硬いのは毛だと思うんだよね。だから顔とかお腹とかの毛が薄い部分ならダメージ与えやすいかも?」

「腹っすか……狙いにくそうっすね」


 作戦会議をしているこちらを睨みつけつつ、牙を剥き出しにして力強く吠えるオオカミ。


 俺たちは武器を構え、喚び出された次の子オオカミに意識を向け……


「……なんかさっきまでの子どもより大きくなーい?」


 明らかにさっきまでの子オオカミより一回り大きい個体が三体出現した。


 ひょっとすると親と同じ大きさだ。


 しかも傷だらけの親オオカミの体がうっすらと紫の光を放っている。


「おいあれ、やばいんちゃうか……」

「うん、ルミエールだ……」


 神獣と呼ばれた獣の、実に獣らしい最期のあがきが幕を開けた。


「ルミエール?」

「魔力は生命力だからね……生物は生命の危機に瀕した時に一番強い魔力を発揮できるんだよ。その状態のことをルミエールって言うんだ」

「要するに……火事場の馬鹿力ってやつっすか!? さっきまででも強かったんすけど、まだ強くなるんすかあのオオカミ……」


 絶望的である。巨大な四匹のオオカミを前に動悸が激しくなっていく。


「ねぇ雄助。今なら魔力吸い切れるかも」


 ウィルダーが『リンドウ』を指差して言った。俺は藁にもすがる思いで先を促す。


「え、マジっすか! なんで今なら吸えるんすか?」

「ルミエール状態のときは魔力が体内で飽和してるから、新しく魔力を生成する能力がオフになってるんだ」

「つまり、今のヨブコオオカミの魔力は無尽蔵じゃないってことっすね」


 それなら『リンドウ』で魔力を吸い尽くせるかもしれない。


 とはいえ俺の容量だって無尽蔵ではない。あの巨体で飽和している魔力を吸い切るまで、果たして俺は生きていられるだろうか……


「……やるしかないっすね」


 ガタガタと震える手を無理やり押さえ込んだ。


 目に映るみんなを守りたい。

 こんな馬鹿げた理想論を叶えようとしているのだ。


 リスクなんて気合いで超えてみせる。

 覚悟を決めろ。

 俺なりの理想を掴む覚悟を。


「ほな道は俺らで作ったるから、突っ込めや雄助!」

「ありがとう、助かるっす!」

「ほらそういうのは後だよー真面目くん」


 頼もしい仲間たちだ。


 俺は彼らに横と後ろを任せ、前方の親オオカミだけを見つめて走り出した。


 新たに召喚された巨大な三匹は、その巨体からは想像できない猛スピードで迫ってくる。


 その爪が俺の体に到達しようという瞬間、俺は体をさらに前傾させ加速した。


 迫り来る爪をギリギリで回避し、鼓動が高鳴っていくのを感じる。


 そのまま子オオカミの脇を高速で素通りし、親とのタイマンへ。


 先ほどまでは悠然とその場で爪を振り下ろす攻撃しかしてこなかったが、余裕が無くなったオオカミは全力で動きまわりながら俺の命を狙ってくる。


 巨大な白い塊が軽快に跳ね、白く輝く爪が全方位から俺に遅いくる。


「いっっった!!」


 脇腹に一発爪を喰らってしまった。傷口にそっと手を添えると、掌にべっとりと生暖かい感触が伝わってくる。


 ……正直転移して以来一番痛い。


 オオカミと一旦距離を取り、呼吸を落ち着かせる。


「平気か雄助!」

「超痛いっす!」

「よし、大丈夫そうやな!」


 俺は痛いと言ったんだぞ!


 ネズなりの心配は心で受け取りつつ、傷口に向けていた意識をオオカミへ引き戻す。


 出血はかなりのものだが、痛みは『リンドウ』によって忘れられる。


 ここで逃げるなんて選択肢は無いのだ。恐怖を忘れたくて、一度腹の底から息を吐いた。


 力を込めてオオカミに『リンドウ』を振り下ろし、第二ラウンドのゴングを鳴らす。


 雨のように降り注ぐ爪から目を逸らさず、歯を食いしばって『リンドウ』で捌き続ける。

 

 しばらく『リンドウ』で雨宿りをしていると、段々とオオカミの勢いが弱まっていく。明らかにキレが無くなり、力のぶつかり合いでも負けなくなってきた。


「魔力は吸えてるっぽいっすね……そろそろ決着にするっすよ!」

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