表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神代の御使い  作者: 逆巻多巻
警察隊編
PR
15/20

第十五話 一時の安息

 それからあっという間に一週間が過ぎたが、状況は思わしくない。


 特に怪しい人物や行動も見られなかった。


 ただただ過酷な訓練によって体力だけが削れていたわけだが……


「しかーし! 遂に今日は一週間ぶりの休日っすよ! ネズ、ウィルダー。今日は案内よろしく頼むっす!」


 今日はネズ、ウィルダーと共に一日休みなので、二人に王都を案内してもらうことになったのだ。


 天気も良好。晴々とした空の青と、涼しく吹き抜ける秋風が心地よい。


「任しとき! ハイデンの隅から反対の隅まで案内したるわ!」


 ネズが元気よく宣言してくれる。


 果たして一日で王都を回りきれるのだろうか?


「まずは服でも買いに行こうか……ところで雄助、そちらの女性は?」

「ウチはノワレ。雄助のお目付役だよ」


 ヒラヒラと手を振って挨拶をしたノワレ。


 さっき歩いていたら道端でバッタリ遭遇し、そのまま着いてくることになったのだ。


「雄助ぇ。あんたこんな別嬪の彼女おったんかい……」


 少しばかりの憎悪を孕んだ目線がネズから飛んでくる。


「そんなんじゃないよ。利害が一致してるから一緒にいるだけ。友達未満、恋人論外だねー」

「そこまで言われるとちょっとショックっすね……」


 爆笑しているノワレを少し恨めしく思う。


「利害っていうと?」

「ウチにはやりたいことがあるの。そのためには力がいるから、御使いである雄助にも協力してもらうんだー。この世界のことを教える代わりにね」


 それを聞いてネズが腕を組み、考え込むポーズをとる。


 そして目を見開き……


「……雄助ぇ。なんかすまんかったなあ……」


 先ほどまでの憎悪が綺麗に消え去った澄んだ瞳。もとい同情に満ちた目でこちらを見るネズ。


 心外である。


「そんな目で見るんじゃないっすよ……とにかく今日は買い物っすから。早く行くっすよ!」


 その場での会話は一旦切り上げ、俺たちは街の中心部へ向かって歩き始めた。


「そういやノワレ、妖花連合の情報は集まったんすか?」

「ちょっとだけね。まあ、根気良くやらないとねー」

「そうっすか。……ところで今日リンゴはどうしたんすか?」


 ノワレにこっそりと耳打ちする。


「グランとアーククラフトの情報のすり合わせだって。リンちゃんもこっち来れば良かったのにね」


 なぜここだけ小声になったかと言えば、リンゴの存在が理由になっている。リンゴについては無闇に存在を明かさないことにしているのだ。


 自我を持って動くアーククラフトであり、二千年前からの記憶とアーククラフトに関する知識を持っているリンゴは、まさに禁断の果実とも呼べる存在である。


 盗賊はもちろん、他国から狙われる可能性もあるとグラン様は危惧していた。


 それにアーククラフトは本来一つの国に三つあるか無いかという希少なものであるが、今のアルトケスには『リンドウ』を含めて八つあるらしい。


 あまりに異常な数が集まっている。アルトケスは元々強国であるらしいのだが、まさに鬼に金棒と言ったところか。


 そういった事情もあり、リンゴのことを知っているのは限られた人物のみなのである。


「まあ、リンゴの知識は実際魅力っすよね。狙われてるのも分かるっす。……というかノワレ、リンゴのことリンちゃんって呼んでるんすか? 仲良いんすね」

「……かわいいからね。それより雄助、なんか今日楽しそうだね?」


 ちょっとはぐらかされた気がする。

 ノワレが返事をする時に、少しだけ目が泳いだのを見逃さなかった。


 リンゴとの出会いに踏み込むにはまだ関係性が浅いのだろうか。これ以上踏み込むことはせず、俺はノワレの話に乗ることにする。


「こっちに来てから誰かと観光するのなんか初めてっすから。めっちゃ楽しみにしてたんすよ!」


 そうなのだ。俺は今日の買い物を本気で楽しみにしていた。


 なにせ転移してきてから日用品にはかなり困っていた。


 服は転移してきた時に着ていた長袖Tシャツと警察隊の隊服しか無いし、元々ボロだった靴は連日の訓練で見るも無惨な姿に成り果てている。


 他にもタオルとかも足りないし、考え始めたらキリがない。街を観光しつつ、この世界で生きていく準備をしようというわけだ。


 ……ところでお金についてだが、ネロセーヌ副隊長に頭を下げて給料を前借りさせてもらった。

 ネロセーヌ様が笑って許してくれる上司で本当に良かった。


 交渉する時は本当に息が止まるかと思うほど緊張したが、思ったよりあっけなく済んで逆にビックリした。グラン様もそうだが、なんやかんや面倒見が良いのは血筋なのだろう。


「よっしゃ着いたで! 服屋街や!」

「正式にはフリル・アベニューって言うんだよ」


 しばらく歩いた末に、商店街に到着した。


 ネズが服屋街というだけあって、そこら中に服やら防具やらが並べられている。ウィンドウショッピングで一日潰せそうである。


「雄助! あんた普段どんな服着んねん!」

「あっちのブランド見に行こうよ雄助ー」

「雄助の私服の感じなら動きやすいのが良いよね」


 三人から同時に質問が飛んできた。


 俺は聖徳太子では無いので、とにかく自分の意見だけ伝えてみることにする。


「シンプルなのが良いっす。無地のTシャツとか!」

「なんや無地Tかい。面白みがないんとちゃうか?」

「まあ本人がそういうんだから。良さそうなの探してみよう」

「じゃあウチはブランド見に行くから終わったら声かけてね」


 ノワレはそれだけ言うとさっさと走っていってしまった。


 ノワレの奔放さは本当に見習いたい。


 アハト隊長に言われたことはこの一週間何度も反芻してきたが、バカ真面目に関しては直しようが無いんだよな……


 自分の性格のことで俺は頭を抱えることになったのだが、そんな問題など無縁そうなノワレを見て少し羨ましく思ったりした。


            ⚫️


 結局俺はネズとウィルダーと共に小一時間ほど見て周り、三着ほどの私服を購入した。

 ちなみにネズは派手好きらしく……


「なんや雄助! お前そんなシンプルなもんばっかいくな! もっと自分を飾り立てるんや!」


 などと、シンプルで動きやすいものしか選ぼうとしない俺に腹を立てていた。


 大量に服を試着させられ、ちょっと窒息しそうにもなった。


 しかしまあ、勇者の服みたいなのを勧められた時は流石にびっくりしたが、ファッションに無頓着な自分からするとネズは頼もしく見えるな。


「ウィルダーのやつもほっとくとジャージしか着いひんねん。なんでこう揃いも揃って……」


 なんて言いながら項垂れるネズ。


 なんかちょっと申し訳なくなってきた。次までに少しくらいは勉強しとこ。


「おー。結構買ったね?」

「……ノワレほどじゃないっすね」


 ノワレが両脇に大きな袋を抱えて現れた。爆買いである。


 その後、昼食のためにレストランに入ることにした。


 食事についてはこちらの世界の料理と元の世界の料理が半々くらいで置いてあるので、新しい店でも特に困ることはない。

 異邦人の影響力は俺が思っていたより大きいようだ。


 こういうちょっとした発見があるのも街歩きの醍醐味だなあと年甲斐もなくワクワクしている。


 店の案内はネズに一任したが、彼の選んだ店は服屋街から少し外れたところにあるお淑やかな外観のレストランだった。


 中に入ると、先週テルスさんと会ったカフェと同じ、木製の家具が出迎えてくれた。


「ずいぶんオシャレな店っすね。普段こんなオシャレな店通ってるんすか?」

「洒落た店にぱっとエスコートすんのが紳士の嗜みってやつやねん!」

「おおよそ紳士らしからぬ言葉遣いだけどね」

「色んな紳士がいてええねん! とにかくここは紅茶が美味いからな。人数分頼んだるわ!」


 運ばれてきた紅茶を楽しみながら店内を見渡してみると、窓際にはたくさんの花瓶に入った花が飾ってある。


 それにしても街を歩いていて思ったことだが、花を飾っている家が本当に多かった。


 そこら中からフローラルな香りが漂ってくるのもそのせいだ。


「こっちの世界では花が人気なんすか? 俺が元いた世界より、花を飾っている家が多い気がするっす」

「ああ、それはハナカンムリの影響だね」

「ハナカンムリ?」

「そ、神教団ハナカンムリ。まあ、昔からある宗教団体だね。花を育てることで平穏に過ごすことが教義なんだって。アルトケスではかなり人気なんだよ」


 ノワレが紅茶をユラユラと揺らし、香りを楽しみながら解説してくれた。それに追随するようにウィルダーがゆっくりと口を開く。


「そうだね。なにかと物騒なことが絶えない世の中だから、みんな花を育てて平穏に暮らしたいって思ってるのかもね」

「平穏に……」


 なんだか意外だった。


 この世界に来てから出会った人間は、ほとんどがバーサーカーみたいな人たちだった。

 そのせいでもっと苛烈な戦闘民族ばかりだと勝手に思っていたが、ただ平穏に過ごしたいと思う人がこんなにたくさんいたのか。


 ……これなら俺の価値観もいつかは受け入れてもらえる気がする。


 そんな希望の匂いが漂ってきた中で、俺たちはひと時の昼食を楽しんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ