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神代の御使い  作者: 逆巻多巻
警察隊編
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10/21

第十話 初めての事件

 とりあえず……初日のランメニューは……なんとか消化出来た…………。


 よろよろと端の方まで歩き、倒れ込んだ。

 夏の夕暮れの風が心地良い。


 よく考えたら、この世界は日本ほど暑くないんだよな。日本の気温の中でこのランメニューやってたらと思うと血の気が引く。


「人生で一番走った……」


 体力は完全にゼロだ。

 ここがゲームの中の世界なら、俺の名前の横にはひんしの文字があるのだろう。


 なんて疲れて回らなくなった頭で変なことを考えていると、頭の上からネロセーヌ様に声をかけられる。


「よく頑張りましたね。初日にしては上出来でしたよ」

「ありがとうございます……あの、ご飯とか……」

「雄助くんはもう警察隊の隊員ですからね。隊舎の食堂と大浴場を使って構いませんよ」


 大浴場あるの!? 嬉しい!

 俺は反動をつけて勢いよく上体を起こす。


 そんな俺を見てネロセーヌ様がそよ風のように笑った。俺はそんなネロセーヌ様に敬礼してから隊舎の方へ歩き出した。


 そうして歩いていると、後ろから俺に声をかける人がいる。


「やあやあ! あんたが噂の異邦人かいな!」

「ちょっとネズ。疲れてるだろうし、後にしてあげようよ……」

「甘いなウィルダー! こういうのは他の奴らに先んじて唾付けとくもんやねん!」


 変な二人だ。俺は少し身構えた。


 ネズと呼ばれた方はくるくるの癖毛に糸目で大口を開けて笑っている。小さなお調子者って感じだな。


 いや、隣のウィルダーがデカいからそう見えるのか?

 ウィルダーは190センチメートルはありそうな巨漢だが、少し猫背気味で自信なさげに俯いている。


 ……というかちょっと待て! 

 さてはここ……正念場だな?

 ここでこの二人に変なやつだと思われては、今後の警察隊ライフでひとりぼっちになるかもしれん。


 人間関係は第一印象がほぼ全てだと言う。ここでしくじれば……命は無い!


 俺は緊張をなんとか隠すように手を握り込み、最大限フレンドリーな笑顔を作る。


「俺は刀堂雄助っす! 二日前に転移してきた異邦人っすよ!」

「なんやあんた、へんてこな喋り方しとんな?」


 失敗!? 

 喋り方、変だったかな? この世界には〜っす、みたいなやつ無いのか!?


 部活で長い間この話し方してたから染み付いてしまっているんだよな。今から矯正するのは難しいぞ……


 というか喋り方に関してはネズが言えたことではないだろ……


「ネズ、初対面の人に失礼だよ。初めまして、僕はウィルダー・オキタ。父さんが君と同じ異邦人なんだ」


 なんとウィルダーは異邦人二世のようだ。

 グラン様が異邦人は珍しくないと言っていたが、こういうこともあるんだな……


 ここで俺はなんとなく察した。もう二度と元の世界には帰れないことを。

 そりゃあ転移してから、元の世界に帰ることは何度か考えたけど……


 この世界に来た人間が、ここに永住して子どもにも恵まれている。

 グラン様もそういうことは言わなかったしな……おそらく帰る道は無いのだろう。


 俺が母さんの顔を思い出して黙り込みそうになったところで、ネズの自己紹介が始まる。


「俺はネズ・パーチいうもんや! 俺ら二人ともまだ警察隊歴浅いからな、雄助も緊張せんでええよ!」


 ネズに感傷を吹き飛ばされた。


 ……俺は両頬を自分で叩き、気持ちを強制的に切り替える。じんじんと痛む頬が熱を帯びている。それは俺がこの世界で生きている証だ。


「よろしくっす! ネズ、ウィルダー!」

「おい、ウィルダー! こいつちょっと変なやつや!」


 失敗! ……まあゆっくり仲を深めていけば大丈夫かな。

 フレンドリーな二人が同期になってくれて本当によかった。


「じゃあ隊舎を案内するよ雄助」


 そう言って二人は走り出した。

 ……さっきまで俺と同じランメニューしてたよな?


 俺は自分の体力不足を痛感しながら、走りと早歩きの中間くらいのスピードで二人の後を追った。


            ⚫️


 翌日。


 昨日は疲れ過ぎていて、結局ろくに隊舎の案内も受けられないまま泥のように寝てしまった。

 朝起きて食堂で朝食だけ取った後、すぐに隊長室に呼び出される。


 どうやら警察隊は四つの小隊に分かれているようで、今日は俺がどの小隊に配属されるのかを聞かされるらしい。

 クラス分けみたいなワクワク感がある。ネズやウィルダーと同じところになれるだろうか。


「雄助、お前は小隊には配属しない」


 隊長室に入った途端、アハト隊長から無情に宣告された。


 なんかそんな気はしてた。


「ちなみにそれはどういう理由なんですか?」

「まあ、理由はいくつかあるんだがな、まず雄助は御使いだから、小隊ごとの戦闘訓練で不平等が生じる。そして、雄助はグランセーヌ様の護衛も兼ねるんだろ? 作戦の時に急に抜けられたら小隊全部に影響するからな」


 確かに、小隊に所属すると色々と不都合がある。とはいえ、〜小隊所属とか〜班所属とか言ってみたかったな……


「ということでだ。お前は俺とネロセーヌ殿が直接見ることになった。覚悟しておけ」


 覚悟しておけって……

 どんなしごきが待っているんだろうか。


「精進します……ところで、今日は何をするんすか?」


 その疑問を口にした時、後ろからネロセーヌ様に肩を叩かれる。


「今日は僕と一緒に来てもらいます。今日一日でトレーニングとパトロールをこなして、各小隊長への挨拶も済ませますから、時間がありません。今すぐに行きますよ」


 早口で今日の予定を聞かされる。


 パトロール! 二日目だけど行けるのか!


 わくわくしてネロセーヌ様の後をついていこうとすると、アハト隊長に呼び止められる。


「ちょっと待て雄助。これをやる」


 そう言ってアハト隊長から渡されたのは金色のバッジだ。


「それ付けた瞬間から警察隊だ。自覚を持てよ」


 俺は丁寧にバッジを受け取り、胸元へそれをあてがう。


 この瞬間、俺の夢が叶ったのだ。


 少し涙が出そうになる。しかし二人の前では恥ずかしいので全力で我慢だ。


「これからよろしくお願いします!」


 俺は覚えたての敬礼を披露し、隊長室を後にした。


 隊長室を出た後、各小隊の隊長たちに挨拶を済ませた。

 みんな御使いではなかったが、流石に警察官といった感じでとても敵う気はしなかったな。


「お前、俺の隊に来いよ!」


 なんて熱血小隊長に勧誘されたりもした。部活動の勧誘とかと同じ熱量である。


「さて、一通り挨拶回りも済ませましたし、次はパトロールを教えますね」

「はいっす! 巡回範囲はどのくらい広いんすか?」

「本来は小隊ごとに分割していますが、君は御使いですからね。全部です」


 なかなかキツそうだな。それを聞いてなお気合が入り、腰に携えた『リンドウ』も熱を帯びているように感じる。


 パトロールに出発する前に、ネロセーヌ様から手錠を手渡された。


「この手錠、元いた世界のやつと同じっす!」


 二つの鉄の輪っかが、鎖で繋がっているタイプの手錠。一度親父に見せてもらったことがあるやつだ。


「ええ、それは異邦人の方の助言で導入されたものですからね。こういった知識や技術をもたらしてくれるからこそ、異邦人は基本的に手厚く保護されているわけです」


 そうだったのか。俺は何も出来てないんだけど良いんだろうか……?

 まあそれは後で考えることか。


「パトロールって、具体的にどういう犯罪が起きるんすか?」

「よくあるのは空き巣や強盗ですね。警察隊が出来てからは随分減りましたけどね」


 どうやら警察隊は抑止力としての効果が大きいらしい。


 ネロセーヌ様と共に歩いていると、前の方から同じく歩いてくる二人と目が合った。昨日話しかけてくれたネズにウィルダーである。


「おお! 雄助やないか! ……ネロセーヌ様お疲れ様です!」


 今完全にネロセーヌ様のこと認識できてなかっただろ。

 俺に向かってひらひらと片手を上げていたネズは、俺の隣を見るなり慌てて敬礼のポーズをとった。

 

 ちなみにウィルダーは最初から敬礼してた。


「ネズくんにウィルダーくんですね。今日は非番ですか」

「はい。今日はこの後雄助を案内しようと思いまして……」

「そうですか。彼はこの後がっつりとトレーニングが入っていますからね、夜になってしまうかもしれません」


 やばい。キツそう。

 いや、せっかく掴んだ夢なんだ……頑張ろう!


 ネズは同情するように目を細めてこちらを見ているが、その視線には気づかないふりをする。


「まあとにかくパトロール初めてやろ? この辺は治安も良いしな! 気楽に頑張りや!」


 そんなネズの言葉に対して礼を言おうとした瞬間、お決まりのように離れたところから悲鳴が聞こえた。


「どけオラぁ!」


 なんて叫びながら二人組の男が建物から飛び出してきた。

 その手には大きな袋と、パンパンに詰まった金貨のような物が……


「何をぼーっと見ているんですか。まずは三人だけでやってみましょう」


 ネロセーヌ様にケツを叩かれた。


 三人だけで!? 思わずネロセーヌ様の方を二度見する。

 そんな俺とは対照的に、ネズとウィルダーは一瞬で走り出していった。


 出遅れた! 俺は慌てて二人の後を追い、強盗に向けて走り出した。

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