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8. 自覚

逃げるように客室から出たリオは扉に寄り掛かりながら静かに閉めると何が起きたと自問自答してみる。

しかし、彼はその答えは持っていない。

他に想い人がいると言っていたが、グレアムを強く拒否しないロレインのあの姿が頭を離れず、大きな溜息を零した。


「陛下?そのお姿は…!?」


「バルトロか。」


声の主に視線を向けると驚いた表情を見せる青年が立っており、上から下まで何度も確認している。


「ご成長おめでとうございます!お相手の方は何方でしょう?先日交わされた猫族の?」


「…いや。」


「とても辛そうな顔をされていますね…。まさか御身体の不調があるのですか?」


「身体は頗る調子がいい。」


「では何故…。」


「グレアムが連れてきた人間が居ただろう。」


「ロレインですか?」


「あれと番の印を交わした。」


「ま、まさか陛下が人種と!?」


「我も半信半疑だったが、あの人間はもしかしたら…いや確証もないのに言うべきではないか。アンフィムを呼べ。少し試したいことがある。」


「かしこまりました。」


リオの言葉に一礼すると直様何処かへと向かっていった。

それから彼の指示の下準備が整えられ、ロレインの居る客間にはアンフィムとバルトロ。

そしてグレアムの父である長が集められている。


「陛下。ご成長なされたとのこと、心よりお慶び申し上げ…。」


「アンフィム、それを解け。」


「い、今ですか!?」


「早くしろ。」


怖いくらい鋭い瞳で彼を見下ろすリオにポケットに入っていた錠剤の一つを口に含んだ。

同時に彼の身体は見る見るうちに幼くなっていくと、グレアムと初めて会ったときのような少年が現れる。


「これはどういう…?」


「アンフィムの番は毛皮を剥ぐために命を奪われたからな。薬によって無理に成長させている。」


「…。」


「この薬には副作用があってな。あまり良いものではない。そこでだ。我の仮説が正しいか試そうと思っている。」


「仮説、ですか?」


「アンフィム、今からロレインと接吻しろ。」


「な!?私が人種を嫌っている事情をご存知ですよね!?」


「知っている。」


「それでは何故…。」


「言っただろう。仮説を確かめるためだと。我の命令に従えないのか?」


「っそういうわけでは…。グレアム様の番ですし…。」


「さっさとしろ。」


ゴネるアンフィムを煩わしく思ったようで後ろから彼を蹴ると前のめりになってベッドに座っていた彼女へと近付いて行き唇が触れそうになった。

それを遮ったのは押し黙っていたグレアムではなく、アンフィムを促したリオ自身でその行動に周りだけでなく彼自身も驚いているようだ。


「…陛下?」


「お前が先というのはやはり気に入らないようだ。」


無表情のままそう言うと、ロレインの顎を軽く掴み触れるだけのキスをする。

何が起きていると瞬きを繰り返す彼女と、怒りを隠しもせずにリオを睨み付けるグレアム。

陛下でなければ伸ばした鋭い爪で躊躇なく切り裂いていたことだろう。


「そう怒るな。お前もするか?」


「…ロレインに好意を持たないと仰った記憶がありますが?」


「そうだな。いいぞ、アンフィム。」


「ちょ、ちょっと待ってください!そんな簡単に…私が困ります!」


「番の命令は絶対だ。人種に拒否権はない。さっさと済ませろ。よくわからないが、お前たちの接吻を想像すると邪魔をしたくなるからな。」


視線を窓に向け、腕を組んだリオにそう言われ意を決したようで彼女の耳元で目を瞑れと指示を出せば、恥ずかしさからぎゅっと目を閉じる姿が見える。

嫌いな人種とはいえ、整った顔立ちは素直に綺麗な女性なのは認めるとそっと頬に手を当て触れる程度のキスをした。

特に変わった様子はないが、陛下は何を試したかったのだろうかと彼女の頬から手を話したのと同時に静電気のような電流が指先から身体に走っていくのを感じ。

身体が急成長すると、薬を飲むようになってから感じていた不調の全てが最初からなかったかのようだ。


「これは一体…。」


「獣の花嫁は知っているか。」


「番の印無しで唯一成長を促せる存在というあの…?」


「そうだ。数千年も昔に現れたというが、我が成長できたことを鑑みてまさかと思ってな。」


「ロレインが…獣の花嫁…?俺のロレインで居てくれないのか…?」


リオのその言葉にグレアムの瞳が揺れ動くのが見える。

熊の悲しげに鳴く声にロレインは彼に向き直ると自ら抱きついた。


「そんな悲しそうな声で泣かないで。獣の花嫁ってのはよくわからないけど、グレアムが私にとって特別なのは変わらないよ。」


「…本当か?」


「うん。だから大丈夫。」


「グルグルグルグル。」


「喉の音…?」


「我も構え。」


「へ、陛下?」


背中側から頭を擦り付けてくるリオは人種に好意を持つなどありえないと言った彼と同一人物だとは思えない。

アンフィムとのキスを無意識に邪魔した時点で既に自覚した彼は隠す必要無いだろうと欲望のまま動くことを決めるのだった。

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