イザベルと魔眼⑤
「で、どういうこと?」
「どういうこともなにも、あんた昨日部屋の中にいなかったじゃない!いつまで待っても戻ってこなかったから、宿の周りも探したけど全然見つからないし、すっごく心配したのよ!?」
「……あー」
そっか、ベルダからすれば、そうよね。真夜中に突然姿を消した私、部屋の中に押し入ってきた暴漢たち、この二つがセットになれば誰だって、嫌でも悪い方に想像を働かせてしまうだろう。
「あー、じゃないわよ!なんであんた当たり前みたいに二階から降りてきてるのよ!私が寝てる間に戻ってきたとして、その間どこに行ってたのよ!」
「……話すと長くなるのだけど、良いかしら?」
「ええ!」
こちらをむすっとした顔で睨んでくるベルダからは、話すまではここから逃がさないという強い意志を感じたので、私は昨日起こったことを全て話すことにした。敵国の人間と一緒に夜の森で暴れていたなんて、あんまり言いたくはなかったけど、このままずっと隠し通すのも気が引ける。それにどのみち、マナの件で口裏合わせをしようとも思っていたし、タイミング的にはちょうどいいかもしれない。
「昨日はね、暗澹の森って場所にまで行っていたの」
「ふーんそう!暗澹の森ね!よくも私たちに黙ってそんなところまで……ちょっとまって、え、は?え、森?しかも暗澹の森って言ったの今?え、なんで?」
「順を追って話すわね?」
顔中にはてなマークを浮かべたベルダに、ラビラビと出会ったこと、そのラビラビに暗澹の森まで連れていかれてコメツチの治療をしたこと、帰りに魔物たちに襲われて散々な目にあったこと、その過程でマナを引き取ることになったことを説明した。
「…………なんで?」
「?」
「いや、そんな不思議そうな顔しないでよ!?普通誰だってこうなるわよ!」
「私、ちゃんと無駄なところは省いてわかりやすく説明したつもりだったのだけど、もしかしてわかりにくかったかしら」
「そうじゃないわよ。内容がしっかりわかったからこそ、いやどうしてそうなった、って思ってるのよ私は。はー、八魔剣と一緒に行動したとか、見たこともない魔物に襲われたとか、信じられない話ばっかりね。あんた、よく生きて帰ってこれたわね」
「それについては同意するわ……本当に無茶しすぎだったって思うもの」
魔物の群れがいつまで経っても数を減らさないとわかったときの焦りと恐れは、言葉にできないほどだった。今回は強力な助っ人が三人もいたから何とかなったけど、私一人なら間違いなく死んでいただろう。
「今度からは危ないところに行くときは必ず、ベルダにも声をかけるわ。そうしないと不安だもの」
「私としてはそもそも、命の保証がされていないような危ないところには行かないでほしいんだけど?」
「……こ、今度からは気をつけるわ。行く時はちゃんと、事前に情報を集めて、しっかりと準備してからにするから」
「行かないって選択肢はないのね!?」
「もちろん。そういう危ない場所こそ、活躍のチャンスでしょう?」
危険な場所ほど私の出番(魔法を使う機会)が増えるわけだから、絶対行かないとは言えない。もちろん自殺したいわけじゃないから、なんの準備もなしにそんなところに向かったりはしないけど、生還への見通しが十分に立っているなら私はほぼ間違いなく、危険だとわかっていても行くだろう。
「あんたほんとに、度胸だけは凄いわね」
「だけは余計よ。戦闘は確かに得意じゃないけど、私には回復魔法って言うちゃんとした武器が……あ、そういえば。話は変わるけど、ベルダはまだマナには会っていないのよね」
私と同じく魔法が使えるマナの顔が浮かんだので聞いてみたところ、ベルダはふるふると首を振った。ベッドで私が寝ていたことにも気がついていなかったからもしかしてと思ったけど、やっぱり見ていなかったみたいだ。
「マナに紹介してあげたいから、ちょっと部屋まで戻らない?ちょっと臆病で不器用な子だけど、凄く可愛くて優秀だから、きっとすぐに仲良くなれるわ」
「それは、いいんだけど……私、部屋にいる男たちにはできる限り近づきたくないんだけど」
「……怖いの?」
「いや違うわよ。私が近づくとあいつら、端に追い詰められたネズミみたいに体を震わせて、ばたんばたん跳ねだすからキモイのよ。それを見たくないだけ」
「それは、確かに嫌ね。そういうことなら、マナを下に呼んでくるわ。ちょっと待ってて」
私は椅子から降りて、マナを呼ぶために二階へと上がろうと足を向けた。
「……ん?なにか、外が騒がしくないかしら?」
「え……ああ、そうね。宿の前じゃなくて、門の前あたりか。なんだか騒がしいわね」
「……ちょっと様子を見てくるわ」
私は外の様子が気になって、二階ではなく宿の入口へと向かって足を踏み出した。




