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イザベルと魔眼④

「お嬢ー」

 こちらを気遣うような声とともに、ゆさゆさと体が揺さぶられる。

「…………んー?」

 それで私の意識は覚醒した。ぱちりと目を開けると、私の肩を軽く揺するアンナの姿が、目に飛び込んできた。

「おはようアンナ……あなたの方が早起きだなんて珍しいわね。というか、初めてじゃないかしら」

「いや、あたしはいつも通りに起きたよ。今日はお嬢が遅いだけだね」

「そうなの……?」

 言われて時計を見ると、時刻は八時四十分。日はもうだいぶ高い位置にまで昇っている。屋敷にいたころは三時に起きていた私にとっては、確実に寝坊と呼べる時間だった。昨日は身体的にも精神的にも凄く疲れていたから、体が起き上がろうとするのを拒否していたのかもしれない。

「ごめんなさいアンナ。わざわざ起こしてもらって」

「いやいや、気にしないで。お嬢はいつも頑張っているんだし、たまになら寝坊ぐらいしたって、バチは当たらないと思うよ」

「アンナ……あなたたまに良いこと言うわよね」

「でしょー。って、え、たまに?いつもじゃなくて?」

「いつもは食い意地の張ったあんまり仕事をしない駄メイドでしょう?」

「朝から酷い!あんまり言い返せないけど!」

 主人としては、そこはぜひ言い返して欲しかったわ。

 そういえばと、隣で眠っていたマナの方を見ると、彼女はまだぐっすりと眠っているところだった。起こそうかと思ったけど、マナはとても気持ちよさそうに眠っていたので、それは少し躊躇われた。

 ダインに会いに行くのはもう少し後になるし、まだ寝かせておいてあげよう。そう思った私はそーっとベッドから抜け出して、さてと、床へと目を向けた。

 床には昨日と変わらない光景があった。三人の男たちはもう抵抗する素ぶりすら見せず、床に這いつくばっている。

「……一応だけど、先に襲いかかってきたのは向こうなのよね?」

「うん。あたしたちから何かをしたってことはないよ」

「そう。なら問題ないわね。私は下で朝ごはんを食べてくるから、見張っていてくれるかしら」

「いいよー。あ、そうだお嬢。下にはベルベルもいるんだけど、昨日のことで気が立っているからちょっと不機嫌なんだ」

「教えてくれてありがとう。じゃあこれ以上、不安にさせないように気をつけるわ」

「うん。あたしもそれが良いと思う」

 さっと部屋の隅で服を着替えて、私は一階へと降りた。一階にはアンナが言っていた通りベルダがいて、テーブルの上でお茶を飲んでいた。

 積み上げられたカップの数から察するに、約三十杯以上。

「……お、おはようベルダ。なにか、気に入ったお茶でもあったのかしら」

 私が声をかけてからしばらく間を置いた後、すーっとベルダの顔が私の方へと向いた。その顔は少し青く、昨日しっかり寝ていたはずなのに、目元にはうっすらと隈ができていた。ベルダはじーっと、私の顔を凝視した後、ぱちくりと目を瞬かせ、慌てて立ち上がった。

「い、イザベル!?あんた本物のイザベル!?」

「いや、偽物の私なんていませんわよ」

「そんなこと知ってるわよ!あ、あんた、村の奴らに連れ去られたんじゃなかったの!?」

「……ん?」

 事情がわからず、思わず間の抜けた声をだしてしまう。とりあえず立ったままでは疲れるので、私はこちらを引きつった顔で見ている男の店主に、ベルダが飲んでいるお茶と同じものを頼んで、ベルダの対面へと座った。

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