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イザベルと謎の男⑦

「あはは。やっぱり驚く?」

「当たり前でしょう!?眼球を取り出すなんて冗談じゃないわ!?というか、こんなもの目に入るわけないでしょう!?」

「そんなことはないさ。自分の目を親指と人差し指で上に押し広げるようにしてごらん。それで大体の大きさがわかるはずだから、魔眼と比べてみてくれ。ほとんど変わりはないはずだ」

 そんな馬鹿なと思いながら、アラムに言われた通りに指を押し当てて大きさを測った後、魔鉱石の一つと比べてみた。

 嘘でしょ、と思わず声が漏れる。魔鉱石の大きさは本当に、ほとんど私の眼球と変わらないほどだった。

「個人個人で大きさにほんの少しの差異はあるだろうけど、あくまでほんの少しだ。その魔鉱石がちょっとぐらい、君の眼球と比べて大きくても、目に入らないってことはないだろう?」

「……本気(マジ)なの?」

「マジだよ」

 今まで言われたこと全てが、実は悪質な冗談じゃないかと思って聞いたのだけど、真顔でにべもなく返された。この魔鉱石、いや魔眼というものは本当に、そういう用途で使うものらしい。

「……いや、でもこれを目にはめ込むとして、どう使えばいいの?ラビラビたちみたいに、なにか詠唱でもすればいいの?」

「まあね。でも、君は宝玉起動はしなくていいよ。あれは女王に、魔鉱石使用の許可をとるための詠唱だ。彼らは一回一回、女王に使用の許可を貰わないと魔鉱石の真の力を使えない。けど、私が作った魔眼にはあんな面倒な錠はかけていないから、一詠唱、魔法の名前を唱えるだけで魔法が発動する。例えば、その赤い魔眼なら目にはめて、『焼却(フレア)』と唱えるだけで、視認した相手を燃やすことができるんだ」

「視認って、この石でどうやって相手を見ればいいのよ。これを目にはめたところで、真っ暗な視界が広がるだけでしょう」

「その魔眼には、人の眼球と同じ役割をはたすための機能を仕込んである。だからあとは、その魔眼と、目で得た情報を脳へと送るための線を繋いであげれば、君は元の視界を取り戻して魔眼の力を使うことができる」

「繋ぐって、いったいどうやって……あ」

 ふと、アラムが言っていたことを思いだした。この魔眼を貰う前、アラムは言っていたのだ。君ならこれも十全に使いこなせるはず、と。

「気づいたみたいだね。そう、線を繋げるには、君の回復魔法が最適なんだ。回復魔法は人間が持っている再生能力を増幅させる力を持っている。その魔眼を目に入れた状態で、回復魔法を使えば、眼球を取り出す時に千切れた線は元の状態に戻ろうと、その魔眼へと伸び、やがて繋がる。最初は目に異物が入っていることに、体が拒否反応を起こすかもしれないけれど、なぁに、すぐに落ち着くさ。少なくともそれを目に入れたからって死ぬことはない。なにせこの私、全能の魔法使いアラムが作った物だ。効果と品質はもちろん、安全性も確かなものだと断言するよ」

「……本当に、私ぐらいしか使えないじゃないこれ。欠陥品も良いところね」

「あはは。それを言われると弱いなぁ。本当は誰でも使えるようにしたかったんだけど、なかなか実験が上手くいかなくてね。でもまあ、君には関係がない話だし、別にいいだろう?」

 アラムの言っていることにはきっと、間違いはない。この魔眼は危険なものだが、彼の言ったことが全て真実であるなら、私だけが使える強力な武器になる。ちょっとした欠陥なんて気にする必要がないほどの、ありがたい贈り物だ。貰えるのなら、素直に貰っておいた方がいいのだろう。

 ただ、一つだけ、私には気になることがあった。人を疑うのは失礼なことだとわかっているけれど、これだけは聞いておかないといけないという確信がある。

「ねえアラム。一つ、聞きたいことがあるのだけど」

「ん、なんだいイザベル。ああもしかして、これを作った理由が知りたいのかな。それなら簡単だ。ふと思いついて、面白そうだと思ったから、作ったのさ。仕事ならともかく、趣味で物を作る理由なんて、これ以外にないだろう?」

「違うわ、アラム。私が聞きたいのは、これをどうやって作ったかよ。特に、材料をどうやって手に入れたかについてね」

「……おっと」

「魔王国で取れたものは国外流出厳禁って話よ。ラビラビやコメツチが魔鉱石を使っている以上、魔王国の人全員に適用される規則じゃないかもしれないけれど、少なくとも国外の人間に対しては絶対のルールのはず。そしてあなたは魔法使いである以上、魔王国の人ってことはないわよね」

「ああ、そうだね。私は君と同じ、元は王国の人間だ」

「そうよね。なら単刀直入に聞くわ。魔王国民しか使うことが許されていない魔鉱石、それをどうやって、こんなところまで持ち出したの」

「……イザベル。世の中には、曖昧にして置いたままの方がいいことがあってね?それは私が友人から譲ってもらったものかもしれないし、落ちていた物を拾っただけなのかもしれない」

「つまり?」

「答えは沈黙、ということで。よし。用も済んだし質問にも答えた!私は帰るよ!それじゃあねー!」

「ちょ、待ちなさいな!?あなたもしかして、厄介ごとを私に押しつけただけじゃない!?」

 私からすっと離れ、再びアラムは透明になっていく。まだ聞きたいことは山ほどあるというのに、アラムはどうやらここから逃げようとしているみたいだ。

 完全に姿が消えれば、今度こそ見失ってしまうだろう。私は既に下半身が全て透明になった彼に向かって、走り出した。

「そんなことはないさ!それは純粋に、君の力になればと思って渡しただけだ!確かにちょっと曰くつきではあるけれどなに、女王の前で使いでもしない限り、面倒なことにはならないとも!それじゃあねイザベル!それを使いこなせるようになったなら、また会おう!」

 最後に、悪戯が成功した子供のようにニヤリと笑って、アラムは消えた。遅れて彼がいた場所に手を闇雲に突きだしたが、手は空を切るだけで、何も掴むことはなかった。

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