イザベルと謎の男⑥
「さて、じゃあ自己紹介も終わったしさっそく本題に入ろう。森であのおっかない蜘蛛を倒していただろう?ずっと見ていたよ。実に見事だった。連携とひらめき、なにより危険な賭けを躊躇なく行う度胸が良かった」
「……それ、私たちが死にそうになっていた時、遠くから傍観していたってことかしら」
「うん?そうだよ。なにか、問題があるかい?」
「いえ別に。趣味が悪いと思っただけよ」
「あはは。よく言われるよ。ごめんごめん、勝手に覗き見されるのは気分が悪いよね。謝るよ」
へらへらと笑いながら、アラムは手を合わせて小さく頭を下げた。微塵も悪いとは思っていないのはすぐにわかったけど、私は何も言わなかった。彼に非はないのだし、文句を言っても仕方がないだろう。
「話っていうのは、アレを見せてもらったお礼と、勝手に覗き見したお詫びをかねて、君に贈り物をしたいんだ」
「贈り物?」
「そう。素晴らしい物、珍しい物には価値がある。人間は基本愚かで臆病でどうしようもない奴ばっかりだけど、たまーに君みたいに、宝石のような輝きを持つ人がいる。私はそういう人を見るのが好きでね。価値ある物を見せてもらえたら、どうしても対価が払いたくなるんだ。自己満足、押しつけに近い善意だとはわかっているけど、どうか、私からの贈り物を受け取ってもらえないかい?」
「ただ生き残るためだけに行動しただけよ。贈り物なんて、受け取れないわ」
「いやいやそう言わないで。貰ってくれるだけでいいからさ。私は魔法を使って道具を作るのが趣味なんだけど、一つ使いあぐねている物があってね。けど、君ならこれも、十全に使いこなせるはず」
そういってアラムはポケットから、黒い長方形の箱を取り出し、私に差しだしてきた。
「私には必要がないものだけど、これからの君にはきっと役に立つ物だ。ぜひ受け取ってほしい」
「……そこまで言うなら、ありがたく。けど、中には何が入っているの?」
「まずは開けてみてくれ。見てもらった方が早い」
私は箱を受け取り、蓋を開いた。そして、中に入っていた物を見て思わず声をあげてしまった。
「……綺麗」
中には、月明りに照らされてキラキラと輝く宝石が七つ入っていた。赤、青、緑とそれぞれ色が違うけれど、形は全て綺麗に丸く整えられている。大きさは手のひらに収まるほどで、これらを使って首飾りを作れば、とても美しいものが出来上がるだろうなと私は思った。
正直、いきなり贈り物を渡したいだなんて、妙な話だと思った。危ないものを押しつけようとしているんじゃないかって、開ける前は身構えていたくらいだ。
でもこんなに綺麗な宝石が危険な物ということは、さすがにないだろう。私の予想は大外れで、どうやら本当に、アラムは善意で私に贈り物がしたかっただけみたいだ。ちょっと疑り深かったかなと思いながら、私は感謝を伝えるために口を開いた。
「こんなに綺麗な宝石をただで貰えるなんて、なんだか悪いわ。本当に良いの?」
「全然構わないよ。私が好きでしていることなんだ。存分に喜んでくれ……ああ、でも。一つ訂正をしておこう。それは宝石じゃないよ」
「えっ、違うの?」
「それは魔鉱石。その石の中にはそれぞれ、性質の全く異なる魔法が込められている。それは観賞用じゃなく、戦闘用に使うものなんだ」
「え、嘘、これそんなに物騒な物なの!?」
こんなに綺麗な物が、戦闘用?信じられない。一個一個が、本家で見た宝石たちと変わらないほどの輝きを有しているというのに、アラムはこれを戦いに使うのだという。私からすればそれは、あまりにももったいないことだ。
「どう使うかはわからないけど、戦場にこれを持っていきたくはないわ。割れてしまったらあまりにも、悲しいもの」
「その心配はないよ。だってそれが割られることがあるとしたら、君が死ぬ時だからね」
「え、どういうこと?」
「それはね、イザベル。魔眼と呼ばれる物なんだ。中に込められた魔法を使うには、君は眼球を取り出して代わりに、その魔眼を目に埋め込む必要がある。だからまあまず、目ん玉を潰されない限りは壊されないんじゃないかな」
「まってまってまって!今なんて言いましたあなた!?眼球を取り出すとか物騒なことが聞こえた気がするのだけど!?」




