イザベルと謎の男③
「あの猫みたいに警戒心が強いマナっちが、自分から距離を縮めてる!よかったー!これなら任せても大丈夫みたいだね!」
「何回も言うけれど、村長さん次第よ。努力は当然するけれど、あんまり過度に期待されても困るわ」
「イザベルなら大丈夫!絶対に大丈夫だよ!」
「根拠は?」
「……女の勘だね!」
「それは根拠になってないわよね!?」
「なるなる!私勘だけはいいって、よく言われるもん!」
えっへんと、ラビラビは自慢げに胸を張った。この底なしの自信は一体どこから来るのかしら、謎だわ。
「じゃあイザベルから、村に戻ろっか!中に入ってしっかり、バンドを締めてね!」
「わかったわ。それじゃあマナ、またあとでね」
「は、はい!私もすぐに行きますから、逃げないで待っていてくださいね!」
「うん、村の中にいるからね。大丈夫よ?」
「もし見つけられなかったら、名前を呼びますね!」
「ダメよ?」
初対面という体で村長さんに紹介するって言ったこと、この子忘れてないかしら。ちょっと不安になってきた。
「ここでお別れだな、イザベル。必ずまた後で会いに行く。その時まで元気でな」
「ええ。あなたもね、コメツチ。今度からはもう、たった一人でこんな場所に来ちゃダメよ」
「……ああ。よっぽどのことがない限りは、だけどな」
「……あなたが死んだら私、凄く悲しいわ」
「わ、わかった!しない!もうしないからそんな顔するな!一人じゃ来ないから!」
「ふふっ。お願いね」
私の顔を見て、コメツチはあたふたしながら言い直してくれた。態度はぶっきらぼうだし、怒ると怖いけどやっぱり、コメツチは凄く良い人だ。大変な目にあったけど、友達になれて良かったと思う。
別れを終えた私はブレイクフットの中に入り、しっかりとバンドを締めた。
「よーしそれじゃ行くよー!宝玉起動!飛んで跳ねて駆け回れ!」
グンと一瞬だけ重い圧がかかった後は、あっという間だった。空をほんの数分ぼんやりと眺めている間に、私はガシャラの前にまで戻ってきていた。
「よーし到着ー!じゃあマナっち連れて戻ってくるから、イザベルはそこに待機ね!」
「わかったわ。怪我しないよう、気をつけてね」
「了解!宝玉起動ー!」
地面を軽くえぐりながら、ラビラビは再び森へと戻っていった。
ラビラビの姿が見えなくなった後、私は門の傍に座り込み、軽く息を吐いた。今日は本当にいろんなことがあった。マナが帰ってきたら、服だけ着替えてさっさとベッドに行こう。今日はガシャラに来てまだ一日目、明日からもやることはたくさんあるのだ。少しでも早く寝て、英気を養っておかないと。
「それにしても、本当に綺麗な空ね」
上を見上げると、そこには夜空を埋め尽くすほどの満天の星があった。王国内だと、街の光に邪魔されて見えなくなっていたけど、ここにはそんな物はない。どこを見ても、綺麗な星が光り輝いていて……おかしいわね。
私から見てちょうど真上に一か所だけ、星が全くない場所があった。大きさ的には、ちょうど人一人分くらいだろう。周りにはキラキラと輝く星々があるのに、そこだけ夜空と同じ暗い藍色で塗りつぶされている。他のどんな場所を見ても、そんな奇妙な現象は起きていない。
なんであそこだけ、と目を凝らしてよく見つめていると、さらにおかしなことが起こった。その塗り分された部分がすすっと、西へと移動を始めたのだ。
「……ライムちゃん」
私は近くにあった石を拾い集めながら、ライムちゃんを呼び出した。それからコアを引き抜き、代わりにライムちゃんの中に石を押し込んだ。
気のせいなら、それでいい。幻覚だと言うなら、納得もする。だからこれは、ただの確認だ。
私はライムちゃんを掴み、勢いよくその場で縦に回し始めた。すると、夜空が再びすすっと、今度は森のあった方角へと移動を始めた。
「ライムちゃん、開いて!」
私は夜空に向けて、思いっきりライムちゃんを振りぬいた。中に入っていた石が、空へと矢のように飛んでいく。それが夜空のある場所へと届いた瞬間。
「いったぁ!?」
石が跳ね返り、夜空があった場所から男の素っ頓狂な悲鳴が聞こえてきた。




