イザベルと謎の男①
「襲われたと思って少し焦ったが……これなら、心配する必要もなかったか?」
「うひゃー。イザベルって結構えっぐいことするねー。ツチちゃんの魔石を至近距離で叩き込むとか、怖すぎるよー」
コメツチとラビラビが私へと小走りで近づいてくる。どうやら、向こうの方も終わったみたいだ。二人とも半身が消し飛んだ蜘蛛を見て目を丸くしている。
「二人ともお疲れ様。勝手に魔石を使わせてもらったけど、よかったかしら」
「問題ない。ここに散らばっている魔石は、魔力がこもっていてもいなくても、全て回収する予定だった。盗んだりしない限りは、落ちている物は好きに使ってくれていい」
「盗むのだけは絶対にダメ!イザベルは友達だから、ちょっとしたことなら多めに見るけど、これだけは絶対だからね!」
「わかったわ。そんなことするつもりはないから安心して。それよりも、これでもう危険はないのよね」
「ああ。ようやく、お前を帰してやれる」
ほっとしたのか、コメツチは私の前で初めて笑顔を見せた。自分のミスのせいで私を巻き込んだことを、彼は気にしていたのだろう。
「けど、驚いたな。お前は争いごととは無縁の人間だと思っていたから、生き物を殺したりなんてできないと思っていた」
「ふっふっふっ。私こう見えて結構タフなのよ。普段はともかく、生きるか死ぬかの戦いになったら一切躊躇わないわ」
生き死にの場で、殺していいのか悪いのかなんて考えている時間はない。反省も後悔も、生き残ってこそできるものなのだ。だからまずは勝って生きる。話は全て、それからだ。
クソ兄上による訓練、もといいじめで鍛えられた私のメンタルを舐めないでほしい。戦いに関しての心構えだけならばっちりだ。
「よーし!それじゃ、帰ろうか!みんな忘れ物はないー!あとマナっちー!念のため安全確認よろしくねー!」
「は、はい!えっと、探査終わりました!半径三十メートルに魔物はいません!」
「よし!それじゃ陣形組みなおして、レッツゴー!」
蜘蛛に追われる前にしていた陣形を組みなおし、私たちは再び森の外へと歩き始めた。
「……ん?」
しばらく歩いた後にキラリと、視界の端で何かが光った。何だろうと思い首を動かし、よーく目をこらしてみたが、そこには木と一面の闇が広がっているだけだ。
「イザベルどうしたのー?」
「いや、何か光った気がして……いえ、きっと気のせいね」
魔物がいないことは、マナが探査をして確認してくれている。さっきの光は濡れた枝か何かが、月の光に照らされただけだろう。
ここが人が住む集落に近いというのなら、襲撃を警戒する必要もあるけど、こんな魔物がひしめく場所に人なんて住んでいるはずはない。なら、気にする必要もないだろう。
私は視線を前へと戻し、再び歩き始めた。




