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イザベルと訳ありな仲間たち

冒険のはじまり。

 がたん!がたん!

 酷く馬車が揺れる。椅子ではなく、荷物を置くための床なんかに座っているからだろうか、先程からひどく腰が痛い。回復魔法をかけていると少し楽になるのだけど、やめるとすぐに痛み出す。

 魔力も無限ではない。だからこれ以上使うのはまずいぞ、と頭ではわかっているのだけど、あまりにも腰が痛くてつい使ってしまう。こんなことになるなら、腰回りをもっと鍛えておくべきでしたわ。

「……ベルダ。あなたは大丈夫?」

 私の右隣には、肩に冒険者の証である羽飾りと、青い髪に最近あげた金の花飾りをつけた女騎士がいる。

 名前はベルダ。私の怨敵でありかつ兄であるグレア・フォーベルトの専属騎士をしていたが、色々あって解雇。街で倒れていたところを保護されたが、居場所がどこにもなかったため、仲良しになった私と一緒にガシャラに行くことになった仲間の一人だ。

「…………」

「ベルダー。無視しないでー」

「……イザベル(・・・・)。こんな場所で、無駄口をたたかないでほしいな。ただでさえ姿勢の維持が大変なんだ。無駄な動きは体力の消耗になるのがわからないのか?」

「うーん。とりあえず、痛いのよね。あなたにも回復かけてあげるわ」

「ふん。別に感謝などしないぞ?」

 不機嫌そうに、ベルダは顔を背けた。凄く失礼な人に見えるが、これは彼女が気を張って、かっこつけている時の性格だ。普段のベルダを知っている私には、彼女は本当は凄く感謝しているのだとわかる。

 ベルダは憧れている人がいるらしく、普段からその人のマネをして、その人に少しでも近づこうとしている。だから信頼できていない人の前では、素をさらけ出すことができずに、凄く慇懃無礼な女騎士になってしまうのだ。

「へー。凄いな。イザベルは、ベルダさんが考えていることがわかるのかい?」

 魔法をかけていると、左の方から声をかけられる。目を向けた先には、私と同じ茶色の髪をした男が、膝を抱えて座り込んでいた。

 短く綺麗に切りそろえた髪と、ラフだがよれがないぴしっとしたシャツとズボンを身につけている。身長は高いが顔は少し幼く、成人になりたての青年のようだと感じた。

 誠実そうな彼の名前は、ラバードと言うらしい。私と同年代ではないかと初対面の時は思ったが、なんと私より五歳も年上だった。人は本当に見かけによらないなと、改めて思う。

 ベルダと違って、彼は仲間ではない。ついさっきまで初対面だった相手だ。

 彼と会ったのは、ガシャラ行きの荷馬車に乗り込もうとした時だった。

 王国とガシャラを行き来するための馬車は、基本行商人が使う荷馬車しかない。ガシャラは過去のいざこざで、王国の民がほとんど近寄ろうとしない場所だ。そのうえたどり着くためには、舗装もされていない荒れ地を馬に走らせなければならない。

 かかる労力が甚大なのに、ほとんど行こうとする人がいないから誰も馬車を走らせないのだ。だが月に一度、物資が不足しているガシャラに物を売りに行くため、行商人が馬車を走らせていると聞いた。

 私たちはその行商人に、荷馬車に乗せてもえないかと交渉をした。乗車賃として家から持ち出してきた高そうなペンダントなどを渡すことで、交渉は成立した。準備も終わり、いざ乗り込もうとしたその時、急にこの男は現れたのだ。

『ちょっと待ってくれないか、そこのお嬢さん方。俺の名前はラバード。俺もガシャラに行きたいんだけど、一人でガシャラに行くのって怖くてさ。実は誰かが来るのをずっと待っていたんだ。これも何かの縁ってことで、俺も一緒に乗せてくれないか?』

 ラバードはベルダと同じように冒険者をしていたらしく、肩に銀の羽飾りをつけていた。特に断る理由もないし、腕が立つ冒険者が一緒についてきてくれるのは私としてもありがたい話だった。

 なので行商人に再び交渉したところ、ラバードの分のお金を渡すのなら構わないと、了承をしてもらえた。

 当然、ラバード自身にお金は払わせた。その時ちらっと彼の財布を見たのだが、私の倍以上の大きさの物を使っていた。どうやら以前はとても裕福か、小銭を多く使う人物だったらしい。

 私が彼について知っているのは、それくらいだ。ガシャラなんて変わった場所に行く者同士として、色々話してみたいことがあったのだけど、揺れが酷すぎて喋る気にもならなかったのだ。彼のことを知るには、話しかけてもらえた今がチャンスかもしれない。

「わかるわけじゃないわ。ただ喋り方に棘があったから、辛いのかなって思っただけなんですよ」

「それだけでわかるのかい?ずいぶん注意深く見てるんだな」

「……いえ、別に?仲間ならなんとなくで、わかるものでしょう?」

「……。いや、まったくもってその通りだな!疲れているからかな、変なことを言った。すまないな」

 ラバードは罰が悪そうに笑うと、そのまま黙ってしまった。

 まずい。たぶん何かの地雷を踏んだ。せっかく仲良くなりたかったのに、最初の一言目で関係を悪化させてしまうなんて、幸先が悪すぎる。とりあえず、彼は人間関係で何かしらのトラブルがあったようだ。今後は話題選びに気をつけよう。

 大丈夫。今日の野宿の時、そしてガシャラについてからでも、彼と話す機会はあるはずだ。その時に今日の失敗をリカバリーすれば、何も問題はない。たぶん。

「お嬢ー。これってあと何時間くらい」

「さあ。外が見えないから、どれくらい時間が経ったのかわからないのよね」

「じゃあ見てくる」

「やめなさいな。こんなに揺れが酷いのに身を乗りだしたりしたら、落ちてしまいますわよ」

「体幹強いから大丈夫だよ。あ、でももし落ちたら助けてね」

「不安ならあらかじめ、自分の身体を縄で縛っておきなさい。もし落ちたら縄を使って、ここから引っ張りあげますから」

「絶対痛いよねそれ……?普通に馬車を止めてよ」

「商人さんに、これ以上の貸しを作りたくありませんのよ。迷惑代でお金をとられるなんてまっぴらですわ」

「そんな守銭奴な人、お嬢以外には見たこともないから大丈夫だよ」

「アンナー?それどういうことですの?」

 後ろから私に話しかけてくるメイドの名前はアンナ。私の専属従者で、七歳のころからずっと、彼女とは同じ屋根の下で暮らしてきた。ボサボサの赤い髪と、しわだらけのメイド服からは彼女の杜撰な性格がよくわかる。

 仕事をさぼったり、隙あらばおかしをつまみ食いしていたりする駄メイドだが、私の無茶に付き合ってくれたり、死にそうになったら心配してくれたりする良い一面もある。

 本人に言ったら絶対調子に乗るから、口では言わないようにしているけど、ずっとついてきてほしいと思う大切な従者、いや、友達だ。

「ところでお嬢」

 後ろから耳に手を当て、ぼそぼそとアンナが話しかけてきた。少しくすぐったいと思いながら返事をする。

「どうしましたの?お昼はまだ先ですわよ」

「いや、それは別にいいんだけど……。喋り方。それで大丈夫なの」

「ええ。理由は話せませんが、あなたとだけはいつも通り話すことにするのですわ。ガシャラについてからは、あなたとも平民っぽく話しますけどね」

「ふーん?よくわかんないけど、りょーかい。私としてはそっちの方が喋りやすいから、嬉しいな」

 楽しそうに笑いながら、すっとアンナが離れる。

 アンナが言っていたのは、貴族としての私を出していいのか、という話だ。これから行くガシャラは、王国の貴族や王族を強く憎んでいる。だから貴族だということがばれないように、最近は平民っぽい喋り方を練習していたのだ。

 私の名前はリサ・フォーベルト。王国の名家、特別な爵位ホワイトの家系に生まれた貴族の次女だ。王国では既に死んだことになっている私は、髪を金から茶色、服もドレスから平民っぽい白いシャツとひざ丈まで伸びた青いスカートへ、そして名前をイザベルへと改名した。

 見た目も名前も変えて、住んでいた国をでて、子供のころからの夢だった冒険者の姫になるために、私は今ガシャラへと向かっている。

 ちょっと怖いが、それ以上に楽しみだ。外の世界でようやく生きられるというだけで、私の胸はとても高鳴っていた。


イザベルという名前は、リサが自身の名前を縮めて作った物です。

平民としての名前なのに、一番貴族っぽい名前になってしまいました。


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