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武装令嬢と炎騎士は静かに事を終わらせたい

「魔王様に宝玉を頂いた、精鋭ぞろいのはずの八魔剣が、二人そろって秒殺とはな!街中をうろついているごろつきや盗人。ただ周りに迷惑をかけるだけのチンピラ共と、扱いが同じじゃないか。これだから、魔法(インチキ)を使う奴らは嫌いなんだ」

 八魔剣?一瞬、思考がストップした。その名前を名乗る相手の正体は、すぐに思いついた。王国に住む人間なら、誰でも恐れている相手だからだ。

 私たちが戦争をしているロス魔王国の国民には、他の国の民にはないある特徴がある。それはロス魔王国に住む人間は誰一人として、神の血を持っていないということだ。

 つまり、全員魔法が使えない。ロス魔王国は古い時代、神から血を貰い受けることができなかった者たちが、神の血が宿る魔鉱石を求めて集まり、作り上げた国だ。だからアンジェリカ様のように、一人で一軍の代わりになるような強者は、絶対に生まれてこないはずだった。

 だが、彼らの血を求める執念はすさまじかった。神の血が宿る魔鉱石の力を何とかして体に取り込もうと、彼らは何百年も研究を重ねていたようだ。

 魔王国周辺に出現した強力な魔物に追われていた冒険者が、体に魔鉱石を宿した八人の男女に助けられた。彼らは見たこともない魔法を用いて魔物を瞬殺し去っていたのだが、その時に彼らは、冒険者に自らの正体を明かしていた。

 その内容を、彼が王国のギルド内で証言したことで、その存在が明るみになった。彼らはこう名乗っていたという。

『我らは魔王の知恵により、神の力を得た魔将である。名は八魔剣。我らがここにいる限り、魔王国には血の一滴すら流れない』

 凄まじく傲慢な言葉からは、彼らの強さに対する自負が感じられた。だから王国の民たちは、戦争が決まった際、敵国の兵器や報復といったものよりも、八魔剣を恐れていた。見たこともない魔法を使うといわれる彼らが、もしも私たちに剣を向けてきたという恐れを、誰も払拭できなかったからだ。

 とはいえ、それで暴動が起きたりはしなかった。民が騎士たちを信頼していたというのが一つ。だが一番の理由は、先の冒険者の件以降、八魔剣の目撃証言が全くと言っていいほどなくなったからだろう。強力な戦力であるがゆえに、かの国の女王が国防から離そうとしないのだと噂が流れるほどだ。

 実際、諸外国との交易や兵器開発をしていなかった魔王国は、聖王国とのパイプがある王国と比べて、物資も戦力も貧弱だ。後ろが山脈で守られているとはいえ、防衛能力が高いとは言えない。

 もし万が一、国内に奇襲を仕掛けられた際、八魔剣がいなければ、訓練をしていない民たちは逃げ回ることしかできないだろう。それを思えば、彼らは国内から出ることは決してできない。

 だからこんなのは、ありえない。

 国内にいる、と噂されているあの八魔剣が、こんなところ(・・・・・・)にいるのは、絶対におかしい。というより、あってはならないことだ。なぜなら彼らが本物の八魔剣だとするなら、王国の、それも王都の敵兵に対する防衛能力が、皆無だということになってしまうからだ。街や屋敷に配置してある騎士たちが誰一人として、敵国の将が国に侵入していることに気づかないなんて、あるはずがない。

 私が心中で焦りを感じている間にも、白フードの男はのんびりとした様子のままだった。あちらこちらをぼんやりと見ながら、ただ突っ立ているだけだ。まるで緊張感がないその様子からは、噂に聞いた八魔剣の恐ろしさは感じ取れない。

 やがて白フードの男はやれやれとでも言うかのように、首を力なく振ったかと思ったら、顔を隠す役目をしていたフードをゆっくりと、上へとまくり始めた。

「一体。何を。する。つもり。ですか」

「こんな無様を晒した後じゃあ、顔を見せなきゃ八魔剣だぞって、信じてもらえなさそうだからな。あと、レディに挨拶をするのに、顔を隠したままじゃ失礼だろ?」

「いえ。顔を。見ても。私には。判別が。できない。あまり。意味は。ないの。では?」

「そんなことはないさ。俺の顔って特徴的だから、初対面の人間にだって、簡単に顔が効くんだよ。ほら」

 ばさりと、フードが払われる。その男の顔を見て、私は絶句した。

 顔立ちは、特に変わったことはない。三十代くらいの、街の酒場で酔っ払っている疲れた青年といった風の容姿だ。乱暴に整えられた黒髪からは、彼の大雑把な性格が伝わってきた。

 だが、それは全て、ある物に引き込まれて、何十秒もの間それに目を奪われ続けてから、ようやく意識を取り戻した後にやってきた認識だ。人間の知覚を遅らせるほど、それは異常で、目を奪うほどに気持ち悪く、美しい物だった。

 それは瞳であり、宝石(・・)だった。右の目には、暗く輝く深紅の宝石。左の目には、眩く輝く純白の宝石が、本来瞳がある位置にはめ込まれていたのだ。そんな異形な状態をそういうモノなのだと、簡単に受け入れてしまうほどに宝石は瞳として目に馴染んでいて、男の視線の動きや、瞬きにも本物と同じように反応していた。

 何度も、自問を繰り返してしまう。これは、本当に現実なのだろうか。

 彼の瞳は宝石で、本物の瞳と同じように、生物の器官としての役割を果たしている。そんなことをすんなりと受け入れられる人間が、この世にどれだけの数いるのだろう。

 私を含め、彼を遠巻きから観察していた貴族たちはみな、彼の言った言葉を否が応でも、受け入れるしかなくなった。遠くから見ても、それが持つ輝きと重みがはっきりとわかる。そんな純正の宝石を、いや、魔鉱石を人体に移植できる場所など、一つしかないとみんな知っていたからだ。

「まあ。とても。綺麗」

「お世辞とはいえ、褒めてもらえるのは悪い気がしないな。レディに見せるには、少ーしだけ不気味かなと心配していたからな。安心したよ」

「赤と。白の。オッドアイ……ああ。あなたの。言った。通りです。お兄様。から。気を。つける。ように。言われて。いました。八魔剣。の。リーダー。アマナミ。様。ですね?」

「その通りだ。そちらの名前は、アンジェリカ・アイギス様、でいいんだよな?魔王様にお仕えする八魔剣が一人、賜った称号は炎刀の騎士。アマナミだ。以後、お見知りおきを」

「ええ。よろしく。お願い。いたします。ね」

 二人は示し合わせたように、焦る様子も見せず、優雅にお辞儀をしあっている。こんな時でなければ見惚れていたかもしれないが、敵国の将、それもそのリーダーがいる状況で、そんなことはしていられない。

「あ、アンジェリカ様!当然ご存じだとは思いますが、八魔剣といえば王国の作り上げた陣地を何度も破壊してきた強敵です!今すぐ離れてください!」

「クララ。礼を。尽くして。くださる。相手に。失礼。です。よ」

「ですが!」

「それに。あの人。もう。戦う。つもりが。ない。みたい。だし。気を。抜いても。大丈夫。よ」

「え」

 言われて改めて、アマナミと名乗った男の方を向くと、彼は周囲の視線を気にする風でもなく、槍を持った八魔剣に、壁に叩きつけられた者を回収するように指示をだしていた。まさかと思い先程の広間を見ると、アンジェリカ様によって床に縫い付けられていた八魔剣が消えていた。おそらく、みんながアマナミに気を取られている隙に、別の者が助けにきていたのだ。

 これは、まずいことではないだろうか。せっかく強敵を倒したのに、逃げられては意味がない。

「き、騎士を呼びなさい!まだ遠くには、」

「クララ。私は。ともかく。他の。人たちは。戦え。ません。ここで。もし。彼と。私が。全力で。戦えば。何十人もの。人が。死ぬ。ことに。なります。だから。大事(おおごと)には。しないで。ね」

「待って!私を信じないで!アンジェリカ様の指示に従ってー!!!」

 慌てて貴族たちを止める。危ない。本当に私は馬鹿だ。余計なことばかりして、アンジェリカ様の邪魔をする。自分が嫌になりそうだ。

 こういう時は一度、冷静になるために深呼吸だ。そして、状況を整理しよう。

 まずは目の前の危険からだ。国の中に、八魔剣が四人も侵入している。いや、実際はアマナミ一人なのかもしれない。だってアンジェリカ様が倒した二人は、あまりにも弱かった。

 アマナミ自身が、彼らのことを八魔剣だと言っていたが、それは戦力を過小評価させるための嘘なのではないかと私は思う。

 フードで全身を隠していたから、彼らが本当に魔鉱石を持っているのかは誰にもわからないようになっていたし、そのうえ、彼らは噂に聞いていた魔法も使ってこなかった。可能性は十分にあるだろう。

 だがそれは今気にすることじゃない。真偽は定かではないが、アンジェリカ様が八魔剣の二人を倒したから、残りは二人。その二人は今、貴族たちを人質にとって自由に動いている。

 だがどうしてか、戦おうとする意志がまるでない。彼らが王国に侵入しておいてやったことといえば、グレアを襲おうとしたことぐらいだ。それも今はやめ、逃げようとしている。

 あまりにも怪しすぎる動きだ。アンジェリカ様には勝てないから逃げるしかないと、判断するのはわかるのだが、敵国に侵入という大それたことをしたくせに、破壊活動や宣戦布告といったこともせず、あっさりと帰ろうとしている。四人も八魔剣を連れてする動きにしては、行き当たりばったりすぎる。

 何か企んでいるのでは、とも思うが、アンジェリカ様が彼らを止める様子はないから、私は邪魔をしないようにする。人の何倍も賢いアンジェリカ様が逃がしていいと判断しているのなら、大丈夫だという根拠がきっとあるのだ。

 と一瞬思ったのだが、いくらなんでも妙な気がする。どうしてアンジェリカ様はこんなにも、落ち着いて判断ができるんだろう。アンジェリカ様は確かにいつでも冷静だけど、突然殴りこんできた敵の将にお辞儀をするほどじゃなかったはずだ。

「……もしかして、知っていた(・・・・・)?」

「あっはっは!すーごいな!そこの、えーと、栗色の髪の綺麗なメイドさん?名前は?」

「え!?」

 物思いにふけっていると、突然アマナミから声をかけられた。動揺を隠しながら、お嬢様の顔に泥を塗らないよう堂々と名乗る。

「く、クララ・エウレア。アンジェリカ様にお仕えする従者です」

「クララちゃんね。さっきといい、君とは気が合うな。俺も同じことを思ったんだ。目の前のアイギス嬢は、俺たち八魔剣がここに来ること、絶対知っていただろって」

「あら。ばれて。しまい。ました」

 口元を上品に隠しながら、アンジェリカ様は肯定する。私が驚きで固まっている間にも、二人の会話はどんどん先へと進んでいった。

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