令嬢、旅に出る⑦
嫌がるベルダをアンナと一緒に説得することで、私たちの行先は決定した。あとは、旅に出るための準備と、計画を立てるだけだ。
「まずは、ガシャラに行くために必要なものを揃えないといけませんわね」
「パン。魚。お肉」
「アンナー?遠足に行くわけじゃありませんのよー?」
「……まずは、荒れた道を歩いても痛くならないちゃんとした靴と、夜の寒さで凍えないよう、厚手の服を買った方がいいわ。食料や水も大事だけど、体力を無駄に減らさないようにすることが、一番大事だからね」
「あ!確かにそうですわね」
体力が減ると、動きも悪くないし、判断力も低下する。過酷な環境下を、碌な装備も身に着けず歩いていれば、あっというまに倒れてしまうかもしれない。
「あと松明は絶対買っておいた方がいいわよ。夜は昼間と比べて視界が悪いから、明かりがないと対処できないことが増えるの。魔物は無理だけど、小さな獣なんかは、火をつけているだけでも寄ってこなくなるし」
「なるほど。冒険者なだけあって、ベルダはいろいろなことを知っていますわね」
「べ、別に。私が物知りってわけじゃないわよ。ただ先輩に教えてもらったことを、そのまんま喋ってるだけよ」
「それでもですわ。私たちからすれば未知のことばかりですから、教えてもらえると本当に助かりますの。ん、そうですわ!本当は私がやる予定でしたが、ベルダ、あなたに道具の準備をお任せしますわ」
「わ、私に!?」
「ええ。私がやるよりも、知識が豊富なあなたに任せた方が確実なようですからね。頼みますわよ」
「……わ、わかったわ!先輩である私に、任せておきなさい!」
ベルダはそう言うとさっそく、地図の裏側に必要なものを書き込み始めた。
たぶんベルダなら、馬車に乗る場所も知っているだろうから、それもこの際任せてしまおう。そうなると、私が準備で考えることは……ここをいつ出るか、ぐらいだろうか。
そうだ。ここを出る前に、ラースさんに対するお礼と、ベルダに対するお詫びに何を贈るかも考えなくてはならなかった。ラースさんには食材や寝床を貸してもらったお代としてお金と、それとは別にお礼として、緑色の宝石がはめ込まれた綺麗なブローチを渡すと、家を出る前から決めていたけど、ベルダには何を渡そう。
ベルダが好きそうなものと言えば、剣や鎧と言った、戦いに役に立つ物だろう。だがベルダは既に、見るからに質が良さそうな物を持っている。あれを超えるほどの物を、私が今持っているお金で渡すことはたぶん不可能だろう。
武器や防具はだめ。ならそういった物ではなく、ベルダに似合いそうな飾りを渡すことにしよう。髪留めやペンダントを貰って嫌がるような女性は、あまりいないだろうし、高級な物なら侮っていると思われることもないはずだ。
あとでさりげなく好みの色や形を、聞きだしておきませんと。青の髪のベルダには、金色の飾りが似合いそうですけれど、好みとは限らないですものね。
「お嬢ー。あたしはやることある?」
「んー。ありませんわね。あとで買い出しに行ってもらいますし、今は休んでてもいいですわよ」
「ベルベルと一緒にってこと?りょーかい」
「げぶっ」
バタンと、ベッドの上に突っ伏すベルダ。街の人から受けたトラウマが再発してしまったらしい。頭を抱えながら、また唸り声を上げ始めた。
「買い出しは、別の街に行ってからにするのですわ!私のこともあるし、まずこの街を出るのが先決でしたわね!ね、アンナ!?そうですわよね!?」
「いや、お嬢が家からでなければ大丈夫でしょ?」
「ちょっとは空気を読みなさいなこの駄メイド!」
パスを出したのに、素通りされた気分だ。近くで見るからに苦しんでいる人間がいるのだから、ちょっとくらい察してほしい。
ガシャラに行って一番気をつけないといけないことは、アンナかもしれない。ここまで察しが悪いのなら、事前に説明をしても、触れてはならない住民たちの地雷に躊躇なく足を踏み入れそうだ。
「口に葉っぱでも巻いておいた方がいいのかしら……?」
「お嬢、よくわからないけどあたしが悪かったから。それだけはやめて」
「ならもっと周りをよく見るようにしなさいな。ほら、ベルダを宥めますわよ。頭を撫でてやってくださいですわ」
「うん……かなり苦しそうだけど、何があったの?」
「本当に、ベルダはただ不幸なだけですのよ……聞かないであげてくださいですわ」
ベルダが落ち着いた後は、もう日も沈み始めていたので、私たちはいつここを出るかだけを決めて、その日を終えた。
面白いと思ったら評価していただけると幸いです!




